産みの親が語る「Simeji」のこれまでとこれから――純国産アプリが見た“これが世界か!”(2/2 ページ)

» 2015年02月16日 10時00分 公開
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バイドゥで自前の変換エンジンを取得

―― バイドゥに買収される以前に、Simejiでやりたいけれどできないという機能やサービスはあったのでしょうか。

矢野氏 自分たちでサーバーを持って、変換の機能を持たすことは、個人レベルでは無理だなと感じていました。今の「クラウド変換」のような機能ですね。当時はSocial IMEを使わせてもらってましたが、いつかはコアも自分たちで提供したいと考えていました。

―― サービスとして自分たちできっちりコントロールしたいということですか。

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矢野氏 技術的な理由もありますが、個人レベルでAndroidでアプリを作ってバイアウトする例が全然なかったので、その例を身をもって示したかったということもあります。デザイナーや開発者がスタートアップみたいに小さい規模で起業したり収益を上げたりというのは、米国では当たり前でしたが、日本では当時、そういう例が全然なかった。

 Android開発をやっていて本当に幸せになるのか? と疑問視する人も多かった。そういう中でロールモデルを示したかった。Simejiの収益だけで生活していこうとは思いませんでしたが、買収というきっかけが見えてきたときに個人でもバイアウトできるんだよと。やってできないことはない、ということの1つのサンプルにしたかったんです。

―― バイドゥのリソースが使えるようになって、一番変わったことはどういったところでしょう。

矢野氏 やはりクラウド変換が自前で搭載できたというところが一番大きかったと思います。内々で運用できる環境ができて、ネットを介して即時に変換候補を変えられるのが新しいなと思いました。

―― 先日、有料版Simeji Proの開発表明がありました。また対応OSもiOS版、Windows版と増えて、Simejiに触れるデバイスが増えていくと思います。何を使ってもSimejiで日本語入力ができる状態になるというのは、バイドゥのパワーが大きそうですね。

矢野氏 そうですね。対応プラットフォームを増やすのも個人レベルでは難しいことです。もしかして自分たちで会社を作って、出資を得たりすればできるかもしれませんが、今はバイドゥの中で行うのがベストという感じですかね。

―― 日本と中国のエンジニアに違いを感じますか。

矢野氏 あまり感じません。新しい開発言語や環境に対する興味も非常にありますし、勉強するのも早い。だらだらゲームして会社に残っていたりするのも、一緒だなと思います。

 一方でマーケティングや経営レベルの人たちは世界規模で考えてますし、我々に声を掛けたとき同様にスピード感があります。非常に厳しくて「これが世界か!」という感じです。でもそれはグローバル企業として当たり前のことです。

 ただ、アジアの国だからかもしれませんが、わりと浪花節が効くんですよ。温情というか「矢野はいいやつだからなあ」みたいな匂いが少しします。私の勝手な解釈ですけど、計算で100%済ませるというノリではないです。上司は素晴らしい人が多いです。

コミュニケーションのための新しいツールを作りたい

―― 漠然とした質問になってしまいますが、これからのSimejiはどうなるのでしょうか?

矢野氏 Simeji Watchを作りたいとか(笑)。そういう展開もありだと思いますし、他のツールも作ってみたいという思いはあります。Simejiと何らかの機能的な連携があるような形で、文字以外が入力できるようなものを、シームレスに叶えるようなものを作ってみたいなとは思います。

―― コミュニケーションのためのものですよね。

矢野氏 そうですね。テキストからもう少し離れた、自由なもの。特に若い人に面白がってもらえるようなものを作ってみたいと思います。漠然としていますけど、もっとスマホの活用が進んでいくような、新しいプロダクトを作ってみたいという希望はあります。スマホネイティブな人たちがいろんなニーズを出してくれるだろうし、コミュニケーションのステージがたぶん変わるだろうから、そういうところに文字入力プラス“何か”、でチャレンジしたいと思っています。

―― 入力した情報がサーバーに送信されるバグが見つかり、大きな問題となりました。ユーザーによってとらえ方が違いますが、その後の反応についてどう思っていますか。

矢野氏 ご心配をおかけしてしまったことについては、本当に申し訳ないと思っています。一度失った信用を再び得ることの大変さは、すべての人が感じている常識だと思います。我々がどれほど努力しなくてはいけないかは当たり前だと感じていますし、そこに対して何か言い訳はできないと思っています。

 がっかりさせてしまったユーザーに対しては、あとはもう楽しそうに作るしかないと思っています。失敗した人すべてに向けて、楽しそうにするしかないとしかいえません。そうしているうちに、「なんか楽しそうだから」と戻ってきてくださる方がいれば、それは非常にラッキーだと思います。

Simejiアプリだけでなく、人材も欲しかった

―― 続いてバイドゥ側からの視点としてのお話もうかがいたいと思います。当時、バイドゥは日本で検索サービスを始めたところだったんですよね。

バイドゥ 日本市場に参入したのは2006年からです。もともと検索エンジンの会社ですから、日本でも検索エンジンの提供から開始しました。その後にPC向けIMEの「Baidu IME」をリリースしています。

 当時の日本のモバイル市場はまだフィーチャーフォンが中心で、スマホシフトが遅れていました。ただバイドゥとしてはグローバルな動きからAndroidのプラットフォームに目をつけ、進出したいという思いがありました。その中で日本ならではのモバイルプロダクトを成功させたいという思いでした。

―― 初めから日本語IMEに絞ってやっていきたいという狙いがあったのですか? 例えばSNSや、アプリであればゲームやカメラなどの選択肢はなかったのでしょうか。

バイドゥ さまざまな選択肢がありましたが、Simejiは成長性が著しく、ユーザーの伸び率に注目しました。そしてたった2人で運用していることにも衝撃を受けました。Simejiというプロダクトに加え、それを開発する技術を持っている人材、矢野と足立というタレントが欲しかったのは事実です。

矢野氏 でも、これだけ苦労して買収したのに、足立が1年少しで退社してしまったのです。そのときのチャールズのがっかりぶりは凄まじかったです。でも、足立が自分の考えを嬉しそうに話すのを聞いて、チャールズは「応援する」といってくれたんです。本当にすごくいい人だと思いました。本当にすみませんという感じです。

―― やっぱり浪花節なんですね。

バイドゥ 卒業生としてバイドゥにいてよかったといってもらえればありがたいし、彼が今よりも技術者として成長してくれれば我々も嬉しいですから。

―― クラウド変換でバイドゥのリソースをフルに活用していると思いますが、ほかにどんな点でバイドゥの資産を活用していますか?

バイドゥ こちらにジョインして、日本語変換エンジンはOpen Wnnからオリジナルのものになりました。クライアントに入っているFEPの機構も自前のものです。これでプロダクトとして差別化が可能になったと思います。

 このFEPはPC版のBaidu IMEをモバイル向けに処理を少なくして変換の速度を速めたものです。また、コアの技術が自前なので、プロフェッショナル版、iOS版、Windows版とバリエーションを広げることもできるのです。今後はPC版のBaidu IMEを、Simejiブランドを統一していきたいと思います。

photo スマートフォン以外にも広がるSimeji(出典:Simeji Webサイト)

―― FEPの開発とサーチエンジンの技術と似通った部分があるのでしょうか。

バイドゥ そうですね。たくさんの文章があって、そこから的確なものに分けて単語にする技術がそうです。検索ではいろんなWebページからマッチングするページを取ってきますが、検索した人が望むページが上の方にこなくてはいけない。

 たとえば「ゴルフ」と入力したときに、自動車メーカーもあるけれどスポーツもある。バラバラに出てきたら半分ゴミになってしまうので、車が欲しそうな人なら車の情報、スポーツが好きそうな人にはスポーツの情報を上位に上げるような仕組みを作っていく。そういう中で、マッチングした情報と、日本語のひらがなを入れて漢字にしていく方法は似たところがあります。

―― PC版のIMEを持っていたバイドゥだからこそ、Simejiにも注目したというわけですね。クラウド変換についてですがユーザーの規模が増えたことで、負荷も大きくなっていると思います。また、文字入力をするたびに通信が発生して処理が発生していると思うのですが、データ量や使用頻度はどのくらい使われているのでしょうか。

バイドゥ Simeji専用のサーバーがパーセコンド(秒単位)でリクエストに対して候補を計算して出しています。膨大な数ですが、それでもサーバーが落ちないようにしてサービスを支えています。それに加え、アルゴリズムのためのいろんなライブラリを作らなくてはいけません。バイドゥは中国で1日60億ページビュー、約25億回の検索回数を処理しています。それを支えるシステム基盤と運用技術が他社との大きな違いですね。

―― Simejiを海外展開する計画などはあるのでしょうか?

バイドゥ 海外で“emoticon”(エモティコン:顔文字)が流行ったりしていますし、IMEで変換するという文脈で色々なマーケットがあると思っています。実際に英語版は検討しています。2バイトの変換文脈とはまた違って、英語学習者向けに文法を予測するといったことを検討しています。日本で成功すれば、他にも出していきたいと思っています。顔文字については“kaomoji”という英単語もできるくらいなので、日本発のプロダクトを横展開していきたいですね。

 バイドゥは日本のユーザーの質を非常に高く評価しています。日本で成功につながれば、さらに世界への展開を考えていきたいです。

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提供:バイドゥ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia Mobile 編集部/掲載内容有効期限:2015年3月31日

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