歩行者ナビ/カーナビを支える膨大な地図データ――その制作現場をゼンリン本社で見てきたGoogleマップにも採用(2/2 ページ)

» 2015年03月09日 16時20分 公開
[田中聡,ITmedia]
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階段やエスカレーターなど、歩行者ナビ向けデータベースも整備

 スマートフォンやケータイのナビサービスに使われている、歩行者ナビ用のデータベースも手がけている。歩行者ナビに使われる情報は、駅ビル、地下鉄駅、地下街、商店街(アーケード)、歩道橋、横断歩道、公園、狭い道、橋、高架下など多岐に渡る。ゼンリンでは、歩行者ナビ用のデータを「高密度エリア」「低密度エリア」「道路ネットワーク流用エリア(カーナビのルート)」の3つに分けて整備している。

 高密度エリアでは、1日の利用客数が5万人以上の駅やその周辺をターゲットにしており、調査員が現地を歩きながら、無料で安全に通り抜けができるところをチェックしている。低密度エリアでは、カーナビの道路ネットワークをベースにしつつ、政令指定都市の鉄道駅、主要な鉄道駅、観光スポットなど、要所は調査員が調べている。道路ネットワーク流用エリアは新たに整備していないが、高速道路や有料道路など、歩行者に適さない道路は削除している。

photophoto 歩行者向けのさまざまな情報を整備していく(写真=左)。歩行者ネットワークのデータは3種類ある(写真=右)
photophoto 調査員が調べたデータ。横断や立ち入り禁止などの詳細な情報が記入されている

 歩行者ナビ用のデータは「通常」「階段」「エスカレーター」「エレベーター」「スロープ」などで構成されており、階段やエスカレーターは勾配情報、エスカレーターは稼働方向を現地調査で確認している。ほかに、屋根があるかどうかも調べる。これによって、階段が少ないルートや(雨天時に)屋根の多いルートといった、きめ細やかな案内が可能になる。

photophotophoto 歩行者向けデータの構造や種類を元に、遠回りしないルートや屋根の多いルートなどを把握できる

 地下街や駅構内のマップも制作している。まず、鉄道会社と契約を結んで図面を入手し、店舗の名称、ジャンル、営業時間、電話番号、どんな導線で歩行者が通るのか、階段、エスカレーター、時間規制があるのかといった詳細な情報を整備していく。「(店舗の)ジャンルによってポリゴンの色を変えたり、文字だけを出したりしています」(ゼンリン担当者)。地下街は84件(全国の主要なスポット)のデータをカバーしている。

 ゼンリンが整備した地下街や駅構内のマップは、現在はゼンリンデータコムのサービスでのみ利用できる。なお、地下街ではGPS情報を取得できないので、ルート案内には対応しておらず、ルートの表示のみ可能だ。

photophoto 地下街や駅構内のルート表示も可能(写真=左)。iOS向け「いつもNAVI」で地下街のルートを表示(写真=右)

 なお、ゼンリンデータコムとNTTドコモは、スマートフォンのモーションセンサーを活用した歩行者自律航法と地図情報を活用し、屋内でも屋外と同様のナビゲーションを実現する技術を開発。4月以降に「ドコモ地図ナビ powered by いつもNAVI」で提供する。ここでもゼンリンが整備した屋内地図データを、精度向上のために活用している。

100%子会社のジオ技術研究所が3次元デジタル地図を制作

 ゼンリンの100%子会社「ジオ技術研究所」では、カーナビや携帯電話向けナビサービスに使われている3次元デジタル地図「Walk eye Map」を2003年から制作している。携帯電話向けではいつもNAVIの歩行者ナビとカーナビに静止画タイプのデータが使われている。ナビサービスのほかに、風がどのように舞うかを評価するなど、景観や建築のシミュレーションにも使われている。

photophoto ゼンリン本社からやや離れた、福岡市博多区にあるジオ技術研究所(写真=左)。お話を聞いた、ジオ技術研究所 管理部 営業担当課長の三毛陽一郎氏(写真=右)
photophoto 3次元地図の「Walk eye Map」は、いつもNAVIでも採用されている(静止画のみ)

 2次元地図情報を使った疑似モデル(広域作成部)と、各種センサーと全方位360度カメラを搭載した専用車両「タイガーアイ」が収集した位置情報やテクスチャなどのデータを合わせることで、Walk eye Mapが完成する。現在は東京23区・大阪市の全域と、全国政令指定都市(19都市)の中心部で整備されており、年に1回更新をしている。地図データはどこが変わっているのかは分からないので、全て手作業で作り替えているという。

 Walk eye Mapは単なるCGの絵ではなく、歩道、信号機、道路表示、標識、樹木など、数百種類もの属性を持っているのが特徴。例えば樹木がいらなければ、これを除いたデータをカーナビメーカーに提供できる。このように、さまざまな属性を組み合わせて、メーカーのニーズにあった地図を提供できることがゼンリンの強みとなっている。

photo さまざまな属性情報を持っている

スマートフォンでもサクサク動かせる技術やARを使ったナビも開発

 Walk eye Mapの動画データをスマートフォン上でリアルタイムにレンダリングさせるのは、端末の性能を考えると非常に難しい。そこで、ジオ技術研究所はWalk eye Mapの3次元デジタル地図をレンダリングするミドルウェア「GAREM(ガレム)」を開発。これによって、モバイル端末でも3次元デジタル地図をリアルタイムでスムーズに描写できるという。スマートフォンやタブレットへの採用実績はまだないが、AndroidやiOSなどのマルチプラットフォームに対応している。ただしデータ容量が8Gバイト弱ほどあり、端末によっては容量確保が難しい場合があることが課題となっている。

photo モバイル端末でもスムーズに3次元デジタル地図を表示可能にする「GAREM」

 もう1つ、ジオ技術研究所では、2次元地図を3次元地図化して描写する「WAREM(ワレム)」と呼ばれるミドルウェアも開発している。この技術により、2次元地図を3次元地図のように俯瞰(ふかん)して見ることができる。同じ画面の中で地図の縮尺を3段階に分けており、近くを大きく、遠くを小さく表示することで、どちらに進むべきかが直感的に分かるようになる。スマートフォンやタブレットへの採用はこれからだが、こちらもAndroidやiOSに対応している。取材時にはiPadに表示したデモ画面を見せてもらった。

photo 「WAREM」を使った地図をデモ表示したiPad

 Walk eye Mapの技術をAR(拡張現実)に応用した「Pegasus eye Map for AR」も開発した。これまでも、位置情報とARを連携させたサービスはあったが、表示される情報がどこを指しているのかが分かりにくい面があった。Pegasus eye Map for ARでは、ユーザーが実際に見えている建物だけを地図上に表示し、スマートフォンの位置情報や立っている角度を計算することで、視界にある建物の情報をより精密に表示できる。Google Glassなどのグラス型デバイス向けに提供されれば、スマホの画面を見ずに、上(グラス)を見ながらナビをしてもらう、なんてことも可能になりそうだ。

photo 建物の情報をより正確に把握できる「Pegasus eye Map for AR」

 ゼンリン本社での取材ではスマホナビを支える地図データの今が、ジオ技術研究所ではスマホナビの未来が見えてきた。私たちが当たり前のように使っているカーナビや歩行者ナビのサービスは、こうした地道なデータ収集と整備のたまものであることが分かる。そんな地図データの裏側に思いをはせながらカーナビや歩行者ナビのサービスを使ってみると、また違った側面が見えてくるかもしれない。

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