夏モデルでスマートフォン以上に注目を集めていたのが、「ガラホ」とも呼ばれる、Androidを採用したフィーチャーフォンだった。KDDIは、春モデルとしてLTEに対応した「AQUOS K」をすでに発売しているが、同名の夏モデルも発表。ドコモも、シャープ製の「AQUOSケータイ」と、富士通製の「ARROWSケータイ」の2機種を取りそろえ、KDDIに対抗する。
スマートフォンへの移行が進んだとはいえ、その比率はまだ6割程度。4000万以上のユーザーが、フィーチャーフォンを使い続けている。一方で、メーカーのリソースは、スマートフォンに集中している。チップセットをはじめとする部材もスマートフォン向けのものが中心となり、LTEなどの新技術に対応するのが難しくなってきた。データ通信をヘビーに使うユーザーからスマートフォンへの移行が進み、iモードやEZwebの上で動いてきたコンテンツ開発を終了するコンテンツプロバイダーまで出てきている。
こうした背景を踏まえ、OSをスマートフォンと共通化して、効率よく開発していくモデルが、Android採用フィーチャーフォンだ。スマートフォンのエコシステムを生かせるのもメリット。ドコモの執行役員 プロダクト部長 丸山誠治氏は「全般的なエコシステムがうまく回っていて、経済的なメリットが作りやすい」とその狙いを解説する。加藤氏も、「使い勝手はフィーチャーフォンと変わらない」と胸を張り、OSがAndroidになりLINEが使えるようになったことをアピールする。
同じように見えるAndroid搭載スマートフォンだが、2キャリアで位置づけが少々異なる。ドコモの2モデルは、いずれも3Gのみの対応。LTEは利用できず、Wi-Fiも搭載されない。
料金も、3Gケータイと同じものが使われる。2段階制のパケット定額プランで契約できるため、電話とメール程度しか使わなかった既存のユーザーにとっても負担感が小さく、買い替えやすい。ただし、パケット単価が従来と変わらず、「パケ・ホーダイ ダブル」では1パケット0.08円(税別、以下同)。わずか6.4Mバイトで上限の4200円に達してしまう。LINEのアップデートをかけただけで、すぐに天井に張り付いてしまうため、ここに対する配慮は欲しかった。
これに対して、LTEを載せ、テザリングを利用したタブレットとの2台持ちまで可能にしたのがKDDI。同社は新たにAQUOS K専用の料金プランを設計し、2段階定額のパケット単価を引き下げ、ドコモに対抗した。
「2段階定額を設けたのは、使う人と使わない人がいるから。Androidに変えるとあっという間にデータを食ってしまうので寝かせられない。単価を下げて、同じような使い方なら料金が変わらないようにしたかった。ガラホはすごい人気で上がってきた。料金がスマホじゃやっぱりダメなんだということで、変えましょうと。そういった改善をぐるぐる回していく」(田中氏)
KDDIには、他社と異なるCDMA方式の3Gを早くやめたい思惑がある。田中氏が「Always 4G LTEになってきて、iPhoneも対応した。3Gは我々のラインナップからすると特殊な事例でない限り入れていかない。音声もVoLTEを使ってしまうと元に戻れない」と語っているように、AQUOS KはフィーチャーフォンユーザーをLTEにアップグレードするための鍵と位置付けている。Android対応フィーチャーフォンには、各社の置かれている立場が色濃く表れているのだ。
こうしたAndroid対応フィーチャーフォンに対し、ソフトバンクモバイルはやや距離を置いている。宮内氏も「ガラケー、ガラホも順次少数だが出していくが、本質的には必要ないのではないか」と疑問を唱え、スマートフォンへの移行をさらに加速させていく方針だ。同氏は「単純なケースで言うと、スマートフォンを100万台増やすとどんな数字になるか。5000円のARPUの顧客を100万取ると、月間で600億円になる」と本音をのぞかせていたが、より収益性を高めていく目標を掲げている。「お店をベースにしてスマホをもっと普及させるような、エバンジェリストのような人をどんどん広げていきたい」(同)というように、スマートフォンへの移行に力を入れていく。
もっとも、ソフトバンクでもフィーチャーフォンの需要はあり、5月22日にはパナソニック モバイルコミュニケーションズク製の「COLOR LIFE 5 WATERPROOF」と、ZTE製の「かんたん携帯8」を発表している。これらはAndroid搭載型ではなく、いわゆる従来型の携帯電話。発表会で同列に扱わないまでも、ラインアップから完全に外れたわけではないようだ。
3社の発表会を振り返ると、ドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルともに、上位レイヤーであるサービスにも力を注いでいることを強く印象づけていたことが分かる。むしろ、発表会の主役はこちらであると言った方がいいだろう。各社とも端末やネットワーク以外での差別化には限界を感じている上に、囲い込みの一環として、ポイント、コマースといった分野に力を入れている。
サービスブランドを一新して、「+d」という戦略を打ち出したのがドコモ。既存のブランドを刷新して、ドコモポイントが「dポイント」に、ドコモプレミアクラブが「dポイントクラブ」に、DCMXが「dカード」に、docomo IDが「dアカウント」にリニューアルされる。ポイントではコンビニエンスストアのローソンと提携。新たに発行する「dポイントカード」を使うとローソンでポイントがたまるようになるほか、「Ponta」とも連携。また、クレジットカードのDCMXをローソンで使うと、6月1日から3%の割引がつくようになる。
加藤氏が「ドコモが持っているものに、パートナーが持っているビジネスアセット(資産)をプラスして、もっといいものができたらいい。そういう意味を込めて『+d』とした」と述べているように、ドコモは今後さまざまなパートナーとの提携を深めていく方針。ローソンはあくまでその1つという位置づけだ。
これに対してKDDIは、全国に展開するauショップでのコマースが売りとなる「au WALLET Market」を開始。基本的には、ネットがベースとなるショッピングモールだが、auショップでスタッフから提案を受けられるのが単なるサイトとの大きな違いだ。扱う商品はお米や水などの生活必需品だけでなく、IoT(Internet of Things)関連製品まで幅広くなる見込みだ。田中氏は「スマートフォンは世界全体で総販があまり伸びないのではないかという声が聞こえているが、いろいろな機会でショップに来ていただければ、発見がある」と期待を込めており、au WALLET Marketをショップへの来店につなげていく方針。将来的には、保険や金融商品、電気など幅広い契約商品を販売する窓口になる可能性も示唆している。
どちらかというとリアル寄りのドコモとKDDIとは異なり、インターネットカンパニーを標ぼうするソフトバンクモバイルはネットの利便性を高める方向にかじを切っている。その1つが、Yahoo!JAPANとの連携強化。会員情報を連動させ、Yahoo!側で登録する必要なく、ソフトバンクのユーザーが簡単に各種サービスを利用できるようになる。決済もリンクして、「ソフトバンクの利用料金とYahoo!の商品代金をまとめて支払える」(宮内氏)のが特徴の「スマート決済」を導入する。これらに加えて、IBMの人工知能「Watson」を、スマートフォン向けに提供する方針も明かしている。こうした取り組みについて、宮内氏は「皆さんのポケットの中にはスマートフォンがある。このスマートフォンの価値を上げていくことこそが、本当の価値創造」と語る。
三社三様の新サービスだが、リアルとの連携を深めるドコモやKDDIに対し、ソフトバンクは手堅く得意なネットサービスを強化するという違いがある。また、同じリアルを重視した新サービスでも、ローソンとの提携によってコンビニでの利便性を高めるドコモに対し、KDDIはauショップでコンビニのようにさまざまな商品を買えるようにするというように、その方向性はまったく逆だ。端末以上に、サービスには各社の特徴が色濃く出ていることが見て取れる。
ただ、特に未知の領域に挑戦することになるドコモやKDDIに関しては、成功するかどうかはふたを開けてみなければ分からない部分もある。ドコモについては、特定のコンビニエンスストアだけとの提携で本当にいいのかというのが疑問だ。地域や居住地、勤務地によってはローソンをまったく活用できないこともあり、こうしたユーザーにとってはあまりインパクトが弱い。ポイントも「利用期間によらず、一律にした」(加藤氏)といい、一部のユーザーにとっては改悪になる恐れもある。
KDDIのau WALLET Marketは、混雑しているショップで本当にユーザーに寄り添った商品提案ができるのかという疑問がぬぐいきれない。田中氏は「お待ちになっている時間を有効に使えないかということも背景にある」と述べていたが、スマートフォンの手続きをしようと思って来店し、長時間待たされていたユーザーが、それとはまったく関係のない商品を提案されて、本当に「すばらしい接客だ」と思うだろうか。自分なら、逆に不快に感じる。
田中氏は「スマホを買うときの待ち時間、作業時間はもっと短くしなければいけない取組みはする」と述べていたが、その詳細は語られなかった。auショップを活用すること自体は意味のある取り組みに思えるが、本格的にやるならオペレーションを大きく改善することが先ではないだろうか。今の取り組みは、どこか順番が逆なような気がしてならない。
加えて言えば、各社とも、新サービスと夏モデルはほとんど連動していない。ドコモのポイント制度にしても、KDDIのau WALLET Marketにしても、ソフトバンクのYahoo!連携にしても、ユーザーなら誰もが関係してくるサービスだ。その意味で、端末の購入を考えているユーザーが待ち望む夏モデルと同時に発表した姿勢にも疑問符がつく。厳しい言い方をすると、限られた時間の中でまとめて概要を紹介したためか、端末もサービスも、その魅力が中途半端にしか伝わってことなかった。得意とするテクノロジーやネットを軸にサービスを強化するソフトバンクモバイルは別にしても、ドコモやKDDIは未知の領域へのチャレンジになる。もっと丁寧にそれぞれの魅力をひもといていってほしかったというのが、筆者の本音だ。
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