ファーストステップと人柱は違う――“普通”のWindows Phone「MADOSMA」でこだわった品質SIMロックフリースマホメーカーに聞く(1/2 ページ)

» 2015年06月26日 20時00分 公開
[石野純也ITmedia]
photo マウスコンピューターの平井氏

 約4年ぶりに日本に登場したWindows Phone。それが、マウスコンピューターの「MADOSMA Q501」だ。KDDI(au)から発売された富士通東芝モバイルコミュケーションズ(現在の富士通モバイルコミュニケーションズ)製の「IS12T」以来となるWindows Phoneは、IS12Tの“現役”ユーザーや、アプリ開発者を中心に好意的に受入れられているようだ。

 ITmedia Mobileの読者にはあまりなじみがないかもしれないが、マウスコンピューターは古くからWindowsを搭載したPCを手掛けてきた老舗のメーカーだ。最近では、スティック型PCを発売するなど、ニッチながらも話題性の高い製品を市場に投入している。

 そんなマウスコンピューターが送り出したMADOSMAは、機能やスペックを見ると、直球ど真ん中のミッドレンジモデルとなる。OSにはWindows Phone 8.1 Updateを採用。プロセッサは米Qualcommの「Snapdragon 410」、メインメモリは1Gバイト、ストレージは8Gバイトと、OS以外はMVNO市場に向けて販売されるミッドレンジのAndroidスマートフォンに近いスペックとなる。ある意味、マウスコンピューターとしては珍しい“普通”の機種といえる。

photophoto MADOSMA Q501(写真は、個人向けモデルとなるホワイト)

 日本におけるWindows Phone復活の口火を切ったマウスコンピューターだが、間もなく登場する予定の「Windows 10 Mobile」を待ってからという選択肢もあったはずだ。実際、同じWindows Phoneの投入を予定していたFREETEL(プラスワン・マーケティング)は、あえてWindows 10 Mobileを待ってから端末を発売するという方針を取った。

 なぜ、マウスコンピューターは、このタイミングで、このスペックのWindows Phoneを、Windows 10 Mobileを待たずに市場に投入したのか。同社の狙いを、商品企画部 部長の平井健裕氏に聞いた。

マウスコンピューターがWindows Phoneを出す理由

―― 改めて、PCメーカーのマウスコンピューターが、なぜスマートフォンのWindows Phoneを手がけたのか。そこから教えてください。

平井氏 弊社はもともとPC専業で、LTE対応タブレットも発売しており、通信の部分のノウハウを蓄積してきました。

 ただ、いずれはスマートフォンが必要だと思っていました。今はPC単体で何かをするというより、例えば、タイプ(文字入力)をするときはPC、映像を見るときはタブレットというように、複数のデバイスを連動させながら使います。そうなったとき、スマートフォンをPCメーカーとしてやるのは必須です。何かしらの“フォン”(携帯電話)はやりたいと考えていました。

 今スマートフォンをやろうとすると、AndroidかWindows Phoneかの選択になりますが、Androidだと、なぜうちがやっているのかがよく分からない。お客様に対して、何かしらバリュー(価値)のある状態にしなければなりませんからね。Androidにはすでに多くのプレイヤーがいて、MVNO(仮想移動体通信事業社)自身が手がけているものもあれば、大手(メーカー)ブランドのものもあります。PCメーカーの弊社がAndroidを使ったとしても、いまいち“モヤっ”としたものになってしまいます。

 一方で、Windows Phoneは海外では(Microsoftの)Lumiaが継続して出ていますし、Microsoftさんの開発者向けイベントでも、必ずセッションがありました。それでも(端末開発は)なかなかできなかったのですが、昨年(2014年)から状況がぐっと変わってきたということがあります。

―― 昨年(2014年)2月にMobile World Congressで発表された、Windows Phoneの“規制緩和”のことですね。

平井氏 それと同時に、Microsoftさんが(Windows Phoneのソフトウェアを)OEM供給する条件も大きく変えてきました。ご指摘の、ハードウェアの条件が緩和された部分に関しては、逆に苦労した部分もあるのですが。

ハードウェアボタンへのこだわり

―― 逆に苦労したというのはなぜでしょう。

平井氏 例えば、「戻る」「Winndows」「検索」の各ボタンをハードウェアとして搭載することが必須ではなくなりましたが、ODM(ハードウェアの設計や製造を実際に担当する企業)に、それをあえて付けるように説得するのが大変でした。

 プロジェクトにもよりますが、Windows Phoneに将来性があると思う方が、そこまで多くない。ワールドワイドだとリファレンスともいえるLumiaがあり、ラインアップも上(ハイスペックモデル)から下(エントリーモデル)までそろっていますが、Androidでより安かったり、より高性能だったりした方がいい、という認識もあります。そんな中で、Windows Phoneはローリソースで、“こだわる”よりも“コストを下げる”と考えるようです。

 そのようなこともあり、ODMは「そこをなぜこだわるのか」と思ったようです。ただ、この価格でこのサイズなら、キーはハードウェアであるべきと思い、搭載を決めています。

―― その部分ですが、あえてハードウェアボタンにこだわった理由を教えてください。

平井氏 単純に言うと、利便性ですね。もう1つはパッと見でWindows Phoneだと分からせるためで、Windowsフラッグ(ロゴ)を見せたかったというのがあります。緩和された条件では、ハードウェアボタンもWindowsフラッグでなくてもいいことになっていますが、ここはあえてやっています。

photo 平井氏が特にこだわった本体下部のハードウェアボタン

「初スマホ」開発の苦労

―― 先ほどタブレットでの通信のノウハウが生きたとおっしゃられていましたが、スマートフォンの開発は初めてだったと思います。初めてゆえに苦労したことは多かったのでしょうか。

平井氏 タブレットの場合、Huaweiさんの通信モジュール使っていますが、それ自体キャリアのIOT(インター・オペラビリティ・テスト:通信性能を確認する試験)を通ったものです。日本に合わせた電波が飛ぶことも分かっていましたし、モジュール単体として技適など必要な認証も通っています。弊社のアンテナとのセットできちんと動くかどうか、Windows OSの中でどう動作するのかさえ証明できればよかった状態です。それはそれでいろいろありましたが……。

 一方、(MADOSMAで採用した)Snapdragon 410も評価自体はされていますが、そもそもWindows Phoneには、技適などを通すために使うテストシグナルツール(通信性能を確認するためのソフトウェア)すらありませんでした(笑)。Android用のものは腐るほどあるのですが……。最終的には、自分たちでアプリを書くことにしました。また、技適などを取るためには、ラボ(試験場)の中でダミーシグナル(擬似的な信号)を使ってテストをしますが、やはり実際にはバンド(周波数帯)や帯域幅によっては、(許容される)規格を超えてしまうことがあります。その際にどこまで戻らなければならないかというと、Qualcommさんなんですよ(笑)。4年ぶりぐらいのWindows Phoneなので、ラボの方も含めてよく分からないといった状況でした。

 通信品質については、幸か不幸か、弊社には日本中に支社があります。長野には新幹線で行けますし、埼玉にも沖縄にも拠点があります。(認証を通過して)大手を振って使えるようになったら、まず使ってみようと、あえてビルの中に持ち込んでみて実際に使えるかどうかを確認しました。そういう基準を作るのは非常に大変でしたね。

 あと、Windows Phoneの場合、リファレンスになるのがLumiaですが、今回は思いのほかLumiaにも独自拡張が多いということを学習しました。Windows Phoneは、PC向けのWindowsと違い、設定込みでコンパイルするのですが、標準のままやるとだいぶLumiaと違ってしまう。「この機能はLumia独自のものだったのか」というものを、つぶしていきました。例えば、Lumiaだとディスプレイの色温度を調整できるバーがついています。これもOS標準のものだと思ったら、Lumia拡張でした。とにかく、リファレンスがあるようなないような、そんな状態でした。

なぜ「Snapdragon 410」なのか?

―― なるほど。その辺を積み重ねていくのがノウハウということなんでしょうね。今チップセットについてお話がありましたが、Snapdragon 410を選んだ理由についてはいかがでしょうか。

平井氏 現時点でWindows 10 MobileへのアップグレードをサポートしているCPUを使いたいというのが、大前提でした。それが(Snapdragonの)200番台と400番台の2つになりますが、残念ながら「Snapdragon 200」は3G専用です。次の世代ではLTEにも対応しますが、日本でLTEが使えないのはさすがにダメというのが、Snapdragon 410にしたきっかけです。

 弊社にとってラッキーだったのが、FREETELさんにもWindows Phoneの発売をアナウンスしていただけたことです。出す前は弊社のみになってしまうのではないかとも考えていました。ローエンドだけだと、エコシステムを支えるのも厳しくなります。せめてミドルで入っていかないと、仮に弊社1社だけしかWindows Phoneを出さないという状況になったとき、話がさらに厳しくなってしまいます。

 これ(MADOSMA)にご納得いただけるようでしたら、下のレンジも考えられます。逆に、個人でもっとスペックが高い方がいいということであれば、上(のレンジ)も出せます。最初からLTEを切って仕様を制限してしまうのは、避けたかったというのが本音です。

photo MADOSMA Q501では、カラーバリエーションの追加が検討されている。今後の売れ行き次第では、スペック的にハイエンド、ローエンドなモデルも追加される可能性もある

―― COMPUTEXで取材したメーカーの中には、対応チップがまだ少なく、LTEが普及した国で出す場合、事実上、Snapdragon 410が唯一の選択肢になってしまうことに不満をもらすメーカーもいました。

平井氏 Windows 10 Mobileの開発が、まだ進んでいないですからね。現状のInsider Previewは、まだOS自体の動作が不安定で、何をもってちゃんと動いているのと言えばいいのか、微妙なところです。弊社もMicrosoftさんや製造を委託したメーカーがあり、10へのアップグレードはマスト(必須)として握っていますが、肝心のまともに動くOSがまだありません。万が一、それがコケてしまった場合にウソをついたことになるのは、よくない。Mobile World Congressでも、何社か10へのアップグレードを明言しているところがありましたが、あの勢いでよければ言えるんです。

 ただ、こういうことはきちんとコミット(約束)できる状態になってからでないとダメで、そこはせめぎあい合いです。この段階で言えれば営業も楽で、お客様もホッとできるのですが、今のビルドの状態だとそれは無理ですね。

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