Web広告を非表示にできるiOS 9の「コンテンツブロッカー」 Appleの狙いはなにか?佐野正弘のスマホビジネス文化論(2/2 ページ)

» 2015年10月23日 11時50分 公開
[佐野正弘ITmedia]
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 しかし先に触れた通り、広告をブロックすることはWebサービスの収益に大きな打撃を与え、将来的にサービスの質の低下、さらには事業を継続できない事態にもつながってくる。

 また広告ブロックアプリの販売は、Webサービスを提供する企業の広告収入を減らす前提で、自らはアプリ収入を得ているともいえる。ユーザーには大きなメリットがある一方、倫理面も含めて、Webビジネス全体の構造に非常に大きな影響をもたらす可能性がある。そのため、コンテンツブロッカーの存在に対する批判や議論が噴出している訳だ。実際こうした議論の影響を受けてか、「Peace」のように広告ブロックアプリを公開後2日で取り下げるケースも出てきた。

 だがWebブラウザの機能を拡張して広告をブロックするという発想自体は、従来よりPC分野で存在しており、それほど珍しいものではない。例えばiOS向けにコンテンツブロッカーを使った広告ブロックアプリをリリースした「Adblock Plus」は、PC用のFirefoxやChrome向けに広告非表示アドオンを提供しており、これを利用すれば広告がブロックされてWebサイトの読み込みがスピーディーになるため、人気を得ている。

 また、コンテンツブロッカーが動作するのはあくまでiOS標準のSafariのみ。Safari以外のブラウザや、各アプリでWebを表示するための開発者向け機能「WebView」にコンテンツブロッカーの影響が及ぶことはない。

コンテンツブロッカーはWebからアプリへの布石?

 iOS 9のコンテンツブロッカーでさらに興味深いのが、OSを開発するApple自身が、広告をブロックできる機能を提供したことであろう。Appleはコンテンツブロッカーによって、これまでの広告収入に頼ったコンテンツプラットフォームやビジネスの在り方を変えようとしている――とも推測でき、機能だけでなくその背景も大きな注目を集めている。

 今の所Appleは、iOS 9やiPhone 6s/6s Plusの新機能としてコンテンツブロッカーを大々的にアピールしておらず、Webサービスやネット広告に関する自らの意思や、何らかの方向性を示しているとは言い難い。

 そのためここからはあくまで推測ということになってしまうのだが、1つの可能性として考えられるのは、スマホ利用におけるWebサービスの存在感を低下させたいという狙いではないだろうか。

 AppleはiOS 9の提供に合わせて、その名も「News」という独自のニュースアプリを標準で用意した(日本では未提供)。これによってAppleは、自身のニュース配信プラットフォームを持ち、自らがWebメディアやポータルになり代わり、インターネットメディアとして情報と広告を押さえる立場になったとも見ることができる。

 Newsアプリの提供と同時にコンテンツブロック機能が提供されただけに、今回の動きがWebからアプリへとコンテンツプラットフォームの流れを変える狙いがあると見る向きは少なくないようだ。

 もう1つ注目されるのは、Appleのセットトップボックス「Apple TV」用に開発された新OS「tvOS」の動向だ。iPhone 6s/6s Plusと同時に発表された新Apple TVが搭載するtvOSは、ベースがiOSでさまざまなアプリをインストールして利用できるのが今までとの違いだ。一方でtvOSには先に触れたWebViewが搭載されておらず、tvOS向けアプリではWeb技術を用いたコンテンツが実質的に利活用できないとして、開発者の間で話題になった。

 Appleは過去にも、Adobe FlashをiOSから徹底して排除し、アプリの開発言語に独自の「Swift」を採用するなど、コンテンツ技術に関して強いコントロールをかける方針を見せてきた。

 それだけにAppleはどこかのタイミングで、コンテンツ技術の主軸をオープン性の強いWebから、自身がコントロールしやすいアプリに大きく舵を切るのでは? と予測できるのだ。それが今すぐということはなさそうだが、今回のコンテンツブロッカーが、Appleが将来選択する方針の一端を見せているのは間違いなさそうだ。

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