Webを凌駕し、よりローカルな存在に――App Annieの2020年アプリ市場予測を読み解く佐野正弘のスマホビジネス文化論(2/2 ページ)

» 2016年02月17日 11時00分 公開
[佐野正弘ITmedia]
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独自ストアや決済手段など、新興国特有の事情が大きく影響

 ただしここで「無視できない存在」と滝澤氏が話すのが、サードパーティーが提供するAndroid向けのアプリストアの存在である。日本で言えばアマゾンの「Androidアプリストア」や、楽天の「楽天アプリ市場」などがその代表例として挙げられるが、このサードパーティー製アプリマーケットが最も栄えているのが中国である。

App Annieがモバイルアプリ市場予測リポートを公開 アプリストア別のダウンロード数予測を見ると、Google PlayだけでなくサードパーティーのAndroidストアが大きく伸ばしており、存在感を高めている

 中国はGoogleが実質的に撤退していることから、中国で販売されているAndroidスマートフォンには、GmailやGoogleマップなどのアプリはインストールされておらず、それらに代わる中国独自のアプリがインストールされている。アプリストアも同様に、Google Playが提供されていないことから、さまざまな中国企業が独自のアプリストアを提供し、端末メーカーに提供しているのだ。

 中国の独自アプリストア事業には、日本にも進出しているBaidu(バイドゥ)やTencent(テンセント)、Qihoo 360(チーフー360)などの大手インターネット関連企業が参入しており、2014年にソフトバンク(当時。現在はソフトバンクグループ)が出資したWandoujiaも、そうしたアプリストアを運営する企業の1つだ。またXiaomiのように、端末メーカー自身がストアを運営しているケースも見られる。

App Annieがモバイルアプリ市場予測リポートを公開 2014年にソフトバンクグループが出資したWandoujiaも、中国のスマートフォンアプリストアの1つだ

 中国のスマートフォン市場拡大を背景として、サードパーティーのアプリストアもグローバルで存在感を増している。App Annieは、Google Playとサードパーティーのストアを合わせることで、Androidのアプリ収益は2020年に557億ドル(6.3兆円)に達し、App Storeを超えると試算している。

 加えて、新興国では銀行口座やクレジットカードを持っていない人も多く、そうした国ではGoogle Playでの決済が難しいという。さらに一部の国では、そもそも無料アプリしか提供されていないケースもあるそうだ。そうしたことから今後は、サードパーティーのストアだけでなく、新興国でサードパーティー製のアプリ決済手段が幾つかか登場し、それらが大きな市場を形成する可能性もあるのではないかと、滝澤氏は見ている。

ローカルアプリの人気で市場は細分化に向かう

 アプリの傾向に関しては、ダウンロード数と収益が共に大きく、アプリストアでの主流を占める“ゲーム”と、それ以外のジャンルのアプリとで傾向が変わってくるという。

 ゲームアプリは2020年にかけてダウンロード数、収益共に今後も伸びていくものの、マーケットに占める割合は減少するという。一方、新興国でアプリを利用するユーザーが増えることから、コミュニケーションやエンターテインメントといった、ゲーム以外のアプリが市場でシェアを高めると見られている。

App Annieがモバイルアプリ市場予測リポートを公開 現在はゲームアプリの売上が8割を超える状況だが、2020年にはマッチングや動画、音楽などゲーム以外のアプリの売上が増加し、ゲームの割合はやや減少するという

 また滝澤氏はゲームに関して今後、「ローカル市場でのユーザー体験が大きく影響してくるのではないか」と話す。日本ではコンソールゲーム機から携帯ゲーム機、携帯電話向けのソーシャルゲームを経て、スマートフォンゲームへと人気が行きついた。だが他のアジア圏ではもともとPC向けゲームが強く、その体験をベースとしたスマートフォンゲームが人気になる傾向が高いという。一部のストラテジーゲームのようにグローバル展開で成功しているものだけでなく、ローカル市場のニーズをくみ取ったものが地元のアプリベンダーから登場することで、ゲームの多様化が進むと考えられているようだ。

 ゲーム以外のアプリに関しても、マッチングサービスや動画・音楽、交通などそれぞれのローカルなニーズに合ったコンテンツが登場してくる可能性が高いとのこと。加えてO2O関連アプリのように、既に顧客を持つ企業がモバイルを中心に顧客設計する傾向が加速すると見られていることから、ゲームよりも一層ローカル色が加速していくのではないかと、滝澤氏は話している。

 あらためてリポートを振り返ると、日本をはじめとした先進国ではダウンロードの伸びが落ち着いてきており、アプリの利活用を広げるフェーズへと移っているが、新興国を含めれば2020年にかけてもアプリ市場の成長の余地はまだ大きいといえそうだ。しかしながら新興国への広がりは、アプリストアや課金、嗜好や文化などの違いから、市場の細分化を一層進める可能性を高めている。

 かつてのように「作ったアプリをApp Storeに置いておけばグローバル展開できる」という時代は終わりを告げた。アプリ市場もローカル性が重視されるなど、新たな時代へと突入していることに間違いないだろう。

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