MVNOだけではない、LINEの大きな戦略転換 プラットフォーム事業を再定義か佐野正弘のスマホビジネス文化論(2/2 ページ)

» 2016年04月21日 16時25分 公開
[佐野正弘ITmedia]
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決済機能も押さえ、より巨大なプラットフォームに

 そしてもう1つ、大きな戦略の変化となるのが、電子マネーサービスの「LINE Pay」である。LINE Payは“割り勘”ができるなどユニークな仕組みを備えていたほか、LINE上のサービスやオンラインショップなどでの決済ができるなど、LINEの利用者にとっては便利なサービスだ。一方でチャージできる場所が少ないことや、LINE関連サービス以外、特にオフラインで利用できる場所が少なく、利用価値が低いのが難点であった。

 そこでLINEは、LINE CONFERENCE TOKYO 2016でLINE Payの大幅な強化策を発表している。1つはチャージできる場所の拡大で、東京三菱UFJ銀行や、りそな銀行、埼玉りそな銀行など提携銀行を拡大したほか、ローソンでのチャージも可能にした。

 2つ目は、JCBと提携して発行される「LINE Pay」カードだ。このカードを用いればJCB加盟店での決済が可能になることから、最大の課題ともいえるオフラインでの決済場所の少なさを一気に解消した形となる。プリペイドカードであるため、LINEの利用に積極的な未成年も利用できるというのも、大きなポイントといえるだろう。

JCBと提携した「LINE Payカード」 JCBと提携し「LINE Payカード」を提供したことで、LINE Payのリアルでの決済という大きな課題をクリアした

 そしてもう1つは、独自のポイントプログラム「LINEポイント」の提供を開始したこと。LINE Payでの決済に加え、「LINEフリーコイン」との統合でLINEアプリ内のサービスでポイントがためられ、そのポイントをLINE Payにチャージし、現金化できるといった独自性を打ち出している。

LINE Payと連動した「LINEポイント」 LINEはLINE Payと連動したポイントプログラム「LINEポイント」も開始。ポイントを現金化できるなど、他のポイントプログラムとは違った特徴も打ち出している

 関連アプリへの依存を減らしつつLINE上のプラットフォームをオープン化し、その上の決済手段もLINE自身が提供する。こうした一連の取り組みによってLINEが狙うのは、従来より大きな意味でのプラットフォームになることではないだろうか。ある意味、1ブランドでWebサービスやアプリストアに匹敵する環境になることを、LINEが目指し始めたといっても過言ではない。

 実はこうした取り組みは、LINEに限ったものではない。中国で積極的なプラットフォーム化を進めるTencentの「WeChat」や、ユーザーの問いかけに自動的に答えてくれる「チャットボット」の活用でプラットフォーム化を進めようとしているFacebookなど、海外で莫大なユーザーを集めたメッセンジャーアプリ企業が、さらに大きなプラットフォームになることを目指す動きが最近目立っている。

存在感が増すほどに目立つトラブル

 その一方、最近のLINEの動向を追いかけると、少なからずトラブルも発生している。中でも2016年初頭に最も大きな話題となったのが、芸能人の不倫スキャンダルに関連したLINEトークの流出問題であろう。

 この流出は、芸能人が過去に利用していたiPhoneをPCに残されたバックアップ環境で復元し、第三者がLINEトークの内容を閲覧できる状態にしたのが原因と見られている。LINEはこの問題に対処するため、2月に複数の端末からアクセスできないようにする仕組みを導入した。だが過去にもLINEを巡っては、アカウント乗っ取りなどセキュリティに関するさまざまな問題が起きているだけに、安全性と信頼を高める取り組みが一層求められるところだ。

 また4月には、LINEが提供するスマートフォンゲームを巡り、資金決済法の規制に触れる疑いがあるとして、関東財務局が立ち入り検査をしたと報道された。LINE側はこの問題に関して、「立ち入り検査は定期的なものであり、問題となっているゲーム内アイテムの扱いについて関東財務局と協議している」旨のコメントを出すなど対応に追われている。

 スマートフォンゲームを巡っては、人気ゲームの課金ガチャの確率を巡って騒動が起きるなど、ベンダー側が起こす問題に対してユーザーや行政の目が敏感になってきている。それだけに、ゲームで大きな売り上げを上げているLINEも、より慎重な姿勢が必要になってくるだろう。

 さらに4月14日に発生した熊本地震では支援策として、「LINE」アプリから固定電話や携帯電話に電話をかけられる「LINE Out」を10分間無料で提供することを打ち出した。しかし地震発生直後の被災地は通信が集中し回線が混み合ってさらにつながりにくくなる輻輳(ふくそう)が起きやすく、これを招くとして批判される一幕もあった。MVNOとしてこれから通信サービスを提供しようとしているだけに、通信インフラに関する基本的な認識と対応に甘さがあったことは非常に残念だ。

 LINEが大きなプラットフォームを目指せば目指すほど、その上で発生する問題も増え、複雑になっていくだろう。そうした問題に対して、利用者だけでなく、行政や司法などの目が一層厳しくなっていくと考えられる。LINEには、単に事業を拡大するだけでなく、さまざまな問題に対して注意を払い、素早く対応する慎重さが今以上に求められることになるだろう。

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