音声入力が広まらない理由は「恥ずかしさ」? キーボードが滅びる未来はくるか(2/2 ページ)

» 2016年07月09日 11時15分 公開
[二階堂歩ITmedia]
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 「恥ずかしくない音声入力」とはどんなものか。まず考えられるのは、Sさんが毎日のように使っているという音声検索のように「単語や単文」で、かつ「指示や命令」の形式を取っているもの。例えば「渋谷 映画」や「部屋の電気のスイッチを点けて」のように、単機能の命令の場合だ。

 こうした内容であれば比較的恥ずかしさを感じにくいというのは、理屈でなく感覚的にも理解がしやすいだろう。さらに後述するが、これらには「空間的な恥ずかしさ」が伴いにくいというメリットもある。

 一方で、「メールやSNSに投稿する文章を文字入力する」といったタスクは、音声で(しかも人前で!)こなすには心理的なハードルが相当に高い。記事冒頭で紹介した「Twitterを音声入力する」ことに抵抗を感じる人が多いのが良い例だろう。「(笑いを表す)『www』を『わらわらわら』って口に出して言うの?」という疑問からは、「自分の考えや感情を、機械に向かって口に出すなんて」という心理的抵抗が見て取れる。

そもそも「音声入力をオフにしている」という人も多いのでは?

空間がもたらす恥ずかしさ

 音声入力にまつわる恥ずかしさを考える上で、さらに重要な観点がある。空間(場所)の問題だ。

 先ほど「恥ずかしくない例」として挙げた「部屋の電気のスイッチを点けて」という命令は、当然ながら室内でしか、それもほとんどの場合は自宅でしか発されない言葉だろう。Google HomeやAmazon Echoといった、いわゆる「スマートホーム」を構成するためのプロダクトは、この点で“恥ずかしさ”への問題をほぼクリアしている。それはそうだろう、誰も見ていない自宅で「電気を点けて」といったところで、誰が気にするというのだろう。

 反対に、メールなどの文章入力や音声検索は、どんな場所でもする行為だ。周囲に人がいなかったり、外を歩きながらハンズフリーで使ったりする分には問題ないかもしれないが、電車の中のようなパブリックな空間で使うことはまず不可能。先ほどは「比較的恥ずかしくない」と書いた単語レベルでの音声検索ですら、電車の中では難しい。試しに電車内で「六本木 居酒屋 個室」「鶏肉 カレー レシピ」などと発声できるか試してみてほしい。筆者なら想像しただけで恥ずかしくなってしまう。

 このように、音声入力には向いている状況とそうでない状況がある。まとめると、電車の中のようなパブリックな空間で、単語レベルではなくメールのような文章を書くケースは、現在のボタン/キーボード入力が音声入力に簡単に取って替わられるとは思えない。

 それとは対照的に、自宅などのクローズドな空間で、単機能の命令で済むようなタスクは、今後間違いなく音声入力がメインになっていくだろう。「テレビのリモコン」や「エアコンのスイッチ」といった言葉が過去の物になる日も、そう遠くはないのかもしれない。

「デバイスで一発逆転」なるか

 ただし、こうした「恥ずかしさ」のような時代性を反映しやすい感情が、新たなデバイスの登場によって一気に解決されてしまう可能性もある。

 例として、以前であれば外を歩きながら独り言をブツブツつぶやいていたら訝しまれたものだが、今はその人の耳に「白いイヤフォン」を見つけた時点で誰も気にしなくなる。スマートフォンでハンズフリー会話をしているとすぐに分かるからだ。そうした光景に皆が「慣れた」のだ。

 現在問題となっている「歩きスマホ」について、こんな光景(=人々が画面に持った小さな機械を一心に見つめながら街を歩く風景)が当然になる未来を、過去に想像できた人はいただろうか。同じように、街中の人が一人で、四六時中端末に向かってブツブツつぶやいているような未来がやってくるのか――そんな風景が少し楽しみでもあり、大いに恐ろしくもある。

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