「5G」が2019年に始まる――MWCでQualcommが明確にした通信の未来Mobile World Congress 2017(2/2 ページ)

» 2017年03月06日 20時13分 公開
[神尾寿, らいらITmedia]
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アンライセンスバンド向けLTEの実用化はもう目の前

 本丸の通信分野でもQualcommは新たな技術を生み出している。2016年のMWCレポートでは、通信事業免許が不要な周波数帯「アンライセンスバンド」用LTE通信を紹介した。これは簡単にいうと、自宅やオフィス、街中のWi-FiのようにLTEが使える技術だ。2016年と違うのは、スモールセル(カバー範囲の狭い基地局のこと)向けチップセットでLAAを実現する点。店舗や自宅のような狭い場所で活用できる。

Qualcomm スモールセルでLAAを実現

 LAA(Licensed-Assisted Access)とは、従来のライセンスバンドとアンライセンスバンドを束ねてキャリアアグリゲート(CA)することで、通信の高速化と大容量化を実現するものだ。T-Mobile USやVodafoneが続々とLAAの商用化を発表しており、ついに実用化が始まろうとしている。

Qualcomm 5GHz帯の広範囲な周波数割り当てにより、Wi-Fiとアンライセンスバンド向けLTEは重複しないチャンネルを選択できる。よって既存のWi-Fiインフラとの干渉も回避できる

 ただLAAはあくまでライセンスバンドがアンカーとなり、そこにアンライセンスバンドをCAするので、運用できるのは通信キャリアのみとなる。そこで公衆無線LAN事業者などが、アンライセンスバンドだけでLTE網を構築できる「MulteFire」が2016年に提唱された。

 米ケーブルテレビ業界は5GHz帯でWi-Fiを運用しているので、MulteFireには圧倒的に反対の立ち位置で論争してきたが、ついに決着がつき、アライアンスメンバーにケーブルテレビの主要な企業が加盟した。無線通信サービスを提供するなら、Wi-FiよりLTEの方がよりよいサービスが提供できると判断したようだ。なおMulteFireアライアンスにはソフトバンクもメンバーとして加わっている。

Qualcomm 空港や海港などでLTEベースのプライベートネットワークが実現する

 さらにQualcommは、NokiaやGE Digitalとともに、アンライセンスバンドによる産業IoT向けのプライベートLTEネットワークの実証実験を始めている。LTEならば安定的かつセキュアであり、大容量のデータにも対応できる。将来は工場から自宅まで、Wi-FiインフラがLTEに置き換わるかもしれない。

Gigabit LTE with LAA

 ソニーモバイルがMWC 2017で発表した「Xperia XZ Premium」にも採用される「Snapdragon 835」は、LTE経由でギガビット通信を可能にする新しいチップセットだ。

Qualcomm LTEのギガビット通信を可能にするSnapdragon 835

 このモデルは最大10の通信ストリームをサポートするもの。4×4 MIMO 2波と2×2 MIMO1波の計3波をフルに使うことで、LTEでも1Gbpsクラスの通信速度となる。LTEはギガビット時代になり、その進化の先に5Gが続いていることをQualcommがあらためて示す技術だ。

5GはMWC 2017最大のホットトピック

これまで世界中のキャリアは2020年目標を前提に5Gの議論を進めてきたが、2月27日、AT&Tなど22キャリアが、業界の総意として2019年に前倒しすることを発表した。この共同提案にはNTTドコモとKDDIも名を連ねている。

 ITmediaの単独インタビューに対してNTTドコモ吉澤社長は「基本的にわれわれの実現目標は2020年」とコメントしたが、Qualcomm担当者は「『早ければ2年後には、5Gの大規模なトライアルまたは商用展開がなされる』という具体的なスケジューリングが出たことは、MWC 2017の重要な話題だ」と熱弁する。

 5Gのキーワードは「ノンスタンドアロン(NSA)」と「スタンドアロン(SA)」。今回の策定はNSAで、LTEのベースを使いながら5Gを実現する。Qualcommのブースでは、通信の標準化を行う3GPPに準拠した無線方式、5G New Radio(NR)のプロトタイプが展示された。

Qualcomm 5G New Radioのプロトタイプ

 またQualcommは2019年に向け、5GNRのチップでさらに2G、3G、4Gまで対応するマルチモードチップをリリースすると発表した。5G展開当初は、当然全てのエリアをカバーできるわけではない。そのため5Gエリアから外れたときも、4Gでギガビット通信ができる環境があれば、シームレスなギガビット通信が実現できる。さらに3G、2Gに落ちたときはシングルチップでサポートする。

 ネットワークを展開するとき、キャリアから見れば複数の通信世代をサポートしない限り、ユーザーに信頼できるサービスは提供できない。今後の展開や端末の作りを考えると、チップはマルチモード前提となる。

Qualcomm これまで無線通信をやってこなかったのに、いきなり5Gに手を出そうとしてもウチには勝てないよ、ということをQualcommは伝えている

 5Gの商用サービス開始まであと約2年しかない中で、マルチモードチップを作り込んで、シングルチップ化することはなかなか他社はできない。だから30年にわたり無線通信に取り組んできたQualcommの強みが生き、冒頭の「3Gと4Gを実現してきたQualcommが、5Gを可能にする」という主張にも説得力があるわけだ。

IoT向け通信方式も進化

 3GPPで標準化されたIoT向けの通信方式「Cat-M1」も、2017年後半には日本で立ち上がるとみられている。省電力かつ広域なエリアをカバーする「Low Power Wide Area(LPWA)」の1つで、LTEで利用できる通信技術だ。大量のIoTデバイスを安全かつ大量に接続できるようになる。

 冒頭で紹介したように、5Gのキーワードの1つは「Massive IoT(拡大するIoT)」である。Qualcommはバッテリーが10年持つような省電力のチップを作り込み、提供していくという。

Qualcomm Snapdragon 835を使ったVRデモ。モバイルの技術で培った技術は、コアのモバイルからVR/AR、オートモーティブにIoTと応用が効く

 2016年のMWCではなんとなく目標として位置付けられていた5Gだったが、2017年に入って一気に現実味を帯びてきたことを肌で感じる取材だった。一方で、LTEの拡大も同時に進んでいる。既存の通信技術はすぐになくなるわけではなく、3Gから4G、5Gとグラデーションのように移行し、刷新されていく。

 「今後は5Gそのものがインフラとなり、その上でさまざまな技術やサービスが提供されるようになる。会社ができて30年、無線通信ばかりやってきたが、その集大成が5Gにつながっている」(担当者)。

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