「丸形ケースじゃないと嫌だ」「Android Wearなら色んなメーカーから選べる」など、さまざまな声はあったが、少なくともスマートウォッチというジャンルで「Apple Watch」に肉薄している製品はない。
それどころか、一般的な腕時計市場全体において、売り上げの金額ベースでAppleがROLEXを抜いて1位(3位は30近いのブランドのファッションウォッチを企画・製造・販売するFOSSIL、4位はOMEGA)になるというのだから、独走していると言ってもいい。
そのApple Watchは、watchOS 4の世代になって完成度が大幅に上がっている。
このタイミングでハードウェアもデュアルコア化によって70%の高速化を図り、さらにはLTE通信機能を内蔵させるなどハードウェアスペックが強化され、さらにBluetoothおよびWi-Fiの通信効率を専用チップで向上させて消費電力を抑えたうえ、Wi-Fi時の通信パフォーマンスが85%向上するなど完成度も大きく向上させた。
これだけ小型のデバイスなのだから、技術的にハードウェアが大きくジャンプアップするのは驚きではないが、通信機能を内蔵したことで従来のApple Watchとは位置付けが変化した。
Apple WatchはペアリングしたiPhoneが接続したことがある(ログイン不要な)Wi-Fiに自動接続し、iPhone経由とWi-Fi経由の両方で通信が行えるようになっていた。とはいうものの、基本的にApple WatchはiPhoneのコンパニオンデバイスであり、「iPhoneを通じて情報にアクセスするためのiPhoneとは別の窓」だった。
しかし、「Apple Watch Series 2」とwatchOS 3の組み合わせでは、Apple PayとGPSに対応。製品単独で機能する要素が増え、さらにスポーツやフィットネス向けの機能が充実した。
そしてApple Watch Series 3ではLTEが内蔵され、ペアリングされたiPhoneと接続できないときにはWi-Fiで、さらにLTEのエリア内なら内蔵LTEでネットとつながる。watchOS 4に標準搭載されるiMessageやメールなど各種機能も、ペアリングされたiPhoneがない状態でもきっちり機能するように作られている。
サードパーティー製アプリに関しては、ペアリングされたiPhoneがなければ機能しないものもある(例えばLINEアプリは通知は届くものの、LTE経由ではメッセージ内容は読めなかった)が、これは時間が解決するだろう。
現状、Apple Watchに対応するアプリは限られているが、処理能力が増え単体で使われるケースも増えてくるとなれば、アプリのジャンルや数が拡大することも期待できる。
またフィットネス系の機能に関しても完成度が非常に高くなった。筆者はLife Fitnessが展開しているインドアバイクブランドであるICGの「IC7」というバイクでトレーニングしているが、このバイクは電気的にペダルからの出力を読み取り、1%以内の誤差で出力エネルギーを計測できる。
watchOS 3では、実際の出力とApple Watchの消費カロリー推定結果に大きな乖離(かいり)があったが、今回の製品で数回のエクササイズを行ったところ、推定アクティブカロリーと実際の出力との差が大幅に小さくなっている(筆者の場合、45分のエクササイズで500〜570kcal程のエネルギー出力を計測するが、従来は380kcal程度で計測されていた。それがApple Watch Series 3とwatchOS 4の場合は480〜530kcalで測定される。ちなみに他社製品も380kcal程度で計測されることがほとんど)。
日本のプールでは腕時計の装着が禁止されているところが多い(ちなみにこのルール、すれ違う際にけがを防ぐためという名目だが、他国では実施されているという話を聞いたことがない)ため、残念ながら水泳の計測機能改善は試せていないが、加速度センサーとジャイロを用いて泳法判定を行うだけでなく、ラップ数も計測できるようになっているという。
プールでのApple Watchの装着を疑問視する世論は必要だが、長距離を泳ぐスイマーには朗報だろう。とりわけ25mプールが多い日本では長時間のスイミングでラップカウントすることが困難なため、使用が許可さえされれば喜ぶ水泳ファンは多いはずだ。
他にも高強度の運動を短時間のインターバルで繰り返すHIITに対応するなどの改良が行われているが、watchOS 4では心拍の計測頻度や精度が高くなっているそうで、それが全体的なフィットネス機能の向上につながっているという。
そしてこれらの機能は、iPhoneの機能ともタイトに統合されていた。
例えばwatchOS 4には「心拍」アプリが追加されている。このアプリで常時心拍を計測するようにしておくと、トレーニングをしていない時間帯も定期的に心拍を計測。さらに安静時、歩行時、あるいはトレーニング時、深呼吸時など、そのときのシチュエーションごとに心拍の幅や動きを記録。トレーニング時は、トレーニング終了後の心拍数回復のペースまで記録する。
この情報はApple Watchの中で、トレーニングを記録するなどしておけば、自動的に心拍アプリやアクティビティアプリに反映されて閲覧可能だ。そして、iOS 11のヘルスケアやアクティビティといったアプリの情報ソースにもなっており、トレーニング結果とは別の角度からも確認できる。ふとiPhoneの画面で振り返り、先週よりも今週の方がワークアウト時の最大心拍が上がったようだ……とチェックできる。
さらに日常の中での心拍の動きも管理してくれる。「心拍変動(心拍間隔のゆらぎ)」を毎日記録してくれる機能や、ワークアウトしていない時間帯に、突然、心拍が上がった時のアラートなどの機能も提供されている。心拍変動は糖尿病の診断にも有効とのことで、スタンフォード大学と共同で研究が進められているものだ。
日常的な使い勝手も、連携するiPhone側の改良とともに改善が進んでいる。例えばパーソナルアシスタントのSiriは、音声で呼び出さなくともApple Watchの盤面から呼べるようになった。今後の予定や時間、今いる場所などに応じて盤面にさまざまな情報を表示してくれる。
このSiri文字盤から予定を参照し、行き先を確認して経路を検索。電車の乗り換え案内も含めてApple Watchがナビゲートしてくれる機能は期待以上のものだった。Appleの地図サービスは、立ち上げ期に品質の悪さが目立っていたが近年は大幅に挽回してきている。行き先の店名をタップするか音声で「銀座○○への経路」などとしゃべれば、乗り継ぎ方法はもちろん駅の出口(地下鉄なら出口番号)を指示し、徒歩区間は地図までApple Watchに表示してくれる。
watchOS 3から対応しているApple PayとWalletも、当たり前のようにiOSとの連動がきっちり取られているが、Apple WatchがiPhoneの機能、使用フィールドを確実に広げる作用をもたらしていると感じた。
LTE内蔵で携帯電話の機能が時計だけで完結する(通話もiMessageも使え、アプリ次第では他メッセンジャーサービスも使える)ことと併せ、もはや「腕時計」という概念は越えてiPhoneの世界観を、さらに押し広げる製品になってきた。
筆者はこれまでスマートウォッチに対して、あまり肯定的な印象を持ってこなかった。もちろんスポーツやフィットネスなど特定の用途では素晴らしい体験を得られる部分もあるが、パフォーマンスが低く、連動するサービスの応答を待つ間に「これならiPhoneを取りだした方がいいんじゃないか」と思うことも多かったからだ。
現時点においては、サードパーティー製アプリの品質がAppleの用意する標準アプリの域に達していないものが多いという問題はある。しかし、今回のwatchOS 4とLTE内蔵モデルの登場およびパフォーマンス向上が開発者のモチベーションを上げれば、問題は自ずと解決するだろう。
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