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“楽天のエコシステム”で日本のキャッシュレス化を推進 「楽天ペイ」の狙いモバイル決済の裏側を聞く(2/2 ページ)

» 2018年01月09日 06時00分 公開
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実店舗にも広がる楽天経済圏

 楽天ペイ(実店舗決済)はもともと「クレジットカードや電子マネーを手軽に導入したい」という中小規模の小売店をターゲットに提供が開始されたものだ。一般に小売店などがクレジットカードの取り扱いを開始する場合、アクワイアラと呼ばれる代理店を通じてカード会社との契約を行う。店舗にはCCT(信用照会端末)という端末が設置され、これを通じてカード決済を行う。

 ただ設置スペースの問題や手数料負担、支払いサイト(どのタイミングでカード決済の入金があるか)などの理由により、特に少人数かつ潤沢でないキャッシュフローで店舗をまわす小規模事業者にとっては導入をためらうケースが少なくない。

 そこで必要な導入ステップを簡略化しつつ、手数料は一律とシンプルで、さらに市販のタブレットやスマートフォンさえあれば簡単にPOS的な仕組みを導入可能な「mPOS(エムポス)」という仕組みが登場し、市場を拡大しつつある。この分野で著名なものはシリコンバレー発祥の「Square」だが、日本国内でもリクルートの「Airレジ」「Coiney」、そして今回の「楽天ペイ(実店舗決済)」という事業者が登場し、シェアを競い合っている。

楽天ペイ 楽天カード 加盟店部 楽天Pay戦略営業開発第3部グループ 営業開発チームの西片正人氏

 2012年6月に「楽天スマートペイ」としてスタートした「楽天ペイ(実店舗決済)」だが、当初はスロースタートだったようだ。だが、楽天カード 加盟店部 楽天Pay戦略営業開発第3部グループ 営業開発チームの西片正人氏によれば、最近では「○○さんのところで使っていると聞いたよ」という形で口コミ経由の指名買いが急増しているという。

 5年前の時点では加盟店開拓に営業が奔走するような状態だったが、既に導入していた店舗での評価や実際の利用状況を見て、知り合いや同業者らにその輪が広がりつつあるのだ。楽天ペイ(実店舗決済)のメリットは店舗への設置だけでなく、宅配事業者が出先での代金の受け取りに際し、ハンディ端末の代わりとして利用することも想定している。事例としてはピザーラでの導入があり、こうしたフードデリバリー業態との相性がいいようだ。

楽天ペイ 楽天ペイ(実店舗決済)でのアプリ決済は、飲食店、美容、アパレル業界での利用が多い

 楽天ペイ(実店舗決済)の役割がこうした裾野の開拓だとすれば、楽天ペイ(アプリ決済)が見据えるのは「その先」だと小林氏はい言う。この決済方法については、既に楽天ペイ(実店舗決済)を導入している中小の小売店だけでなく、大手への拡充も目指す。

 「詳細は言えないが、名だたる流通業から声がかかっている」と小林氏は打ち明ける。iPadなどのmPOSスタイルでの導入はチムニーやワタミのような居酒屋の他、紳士服店のアオキがある。AOKIについては2017年12月中に全国500店舗での展開を済ませており、アプリ決済が利用可能だ。

 iPad以外にも、設置型POSにアプリケーションを導入してアプリ決済を可能にしたローソンの事例がある。ローソンはAlipay導入でも話題になったが、こうした新しい決済手段を積極的に取り込んで顧客獲得を目指している。実際、ローソン内部でもローンチ直後から高い評価を得ており、日々利用者が増えている状態だと小林氏は説明する。

 こうした楽天ペイ導入の極め付きといえるのが、先日東京の馬喰町にオープンした「Gathering Table Pantry」だ。完全キャッシュレスをうたうこのレストランでは、現金による支払いは一切行えない。それにもかかわらず、利用者からのクレームは今のところないようだ。

 一般に、キャッシュレス化による恩恵は店舗側が受けやすい。ロイヤルホールディングスが経営するこの新業態のレストランは、もともと同社の黒須康宏社長が「100%キャッシュレス店舗を作りたい」という要望を楽天に持ち込んだことから始まったという。大手外食チェーンでは慢性的な人手不足に悩まされており、人間の作業負担を減らさないと人が集められず、さらに賃上げもできないという圧力にさらされている。

 今回、楽天ペイのソリューションを導入したことで得られた一番の効果は「レジ締め」作業だったという。従来までは40分ないし1時間程度を要していたレジ締め作業が、現金がないためにわずか5秒から10秒程度で完了する。出入金チェックをする必要がないためだ。また、クレジットカード処理も据え付けタイプではなく持ち運んで客のところまで移動できるため、オペレーション上の柔軟性もある点もポイントだ。

2020年までが勝負の理由

 「競合サービスは数多あるが、雌雄は2018〜2020年の間に決するだろう」というのは小林氏の見解だ。現在、アプリ決済を提供するスタートアップ企業が日本国内でも複数出現しつつあり、大手ではLINE Payがサービスを提供している他、2018年中にはNTTドコモら携帯キャリアらも参入を計画しているといわれており、楽天ペイを含めた乱戦が予想される。こうした状況について質問した答えが、前述の小林氏のコメントとなる。

 現状はまだ頭1つ抜けたサービスは存在しておらず、どちらかといえば膠着(こうちゃく)状態が続いている。同氏によれば、2020年の東京五輪に向けたPOSの改修ブームが続いており、大手チェーンらは特にインバウンド需要を見越した顧客の取り込みを視野に、新しい決済アプリケーションのPOSへの組み込みに積極的になっているという。

 そのため、このチャンスを利用することで楽天ペイの導入を一気に推し進めることが可能だというのが楽天の考えだ。実際、コンビニチェーンでいえばローソンとファミリーマートが2017年中のPOS更新を済ませ、セブン-イレブンも2017年末から2018年にかけてPOSの入れ替えを進めていく。大手外食チェーンのマクドナルドでは2018年からクレジットカードの本格的な取り扱いを開始することが知られている。

 POSの更新周期はおおよそ7〜8年単位といわれるが、このサイクルでいえば次は2025年を待たなければならない。さらに2020年の東京五輪が大規模投資の心理的ゴールとなっており、このタイミングを逃すと次は2025年までチャンスはないというわけだ。

 前述の口コミの事例にもあるように、サービス導入が一定水準を超えると一気に普及するというケースが多い。アプリ決済の現状はまだ混沌(こんとん)としているが、今後規模の経済を生かして利用可能店舗が増えることで、特定のプレーヤーが一歩前へと出る現象が見られるはずだ。

 小林氏は「楽天のエコシステムを生かして日本のキャッシュレス化をリードする」と意気込む。キャッシュレス化の取り組みで後じんを拝している日本だが、楽天は、2020年の東京五輪までにどれだけの成果を得られるだろうか。

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