Y!mobileが「クラウドSIM」対応ルーターを採用した理由は? ソフトバンクとuCloudlinkに聞く(3/3 ページ)

» 2018年05月30日 06時00分 公開
[石野純也ITmedia]
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Y!mobileならではの味付けは?

―― 国内では他の事業者からも同じルーターが出ていますが、Y!mobileならではの部分はどこになりますか。

郁氏 外観では背面にロゴを入れるなどしていますが、ハードウェアというよりも、主にソフトウェアを一緒に開発して作りました。

Y!mobile ルーターの背面には「Y!mobile」ロゴがある

―― 1日90円は激安だと思いますが、この値段だと、もうひと頑張りしてタダにできないのかも思いました。これについては、いかがでしょうか。

寺尾氏 悩ましいところです。この商品はチャレンジなところもあって、月に半分以上海外に行っているような人だと、この料金では成り立たない部分もあります。今は様子見ですね。

―― とはいえ容量は7GBあるので、月の半分ぐらいなら十分ですね。

寺尾氏 はい。海外に行ってYouTubeで動画をたくさん見るといったことをしなければ、十分な容量だと思います。今回は国内で7GB、海外で7GBと分けているので、そこまでご不便をおかけすることもないと思います。ただ、短いピッチで開発したこともあって、まだ完全なものにはなっていません。いくつか改善しなければいけないところがあると認識しています。ここについては、できたところから順次リリースしていきます。

―― それはどういったところでしょうか。

寺尾氏 例えば、まだ、海外滞在中に7GBを超えたときに増速ができません。そもそもの仕組みとしてはできますが、まだuCloudlink側とシステム連携ができていないところがあります。その他にも、国内側は、今だと7GBで低速化していますが、他のPocket WiFiは「アドバンスオプション」という容量無制限のオプションが主流になっています。ここにも、まだ対応できていません。

―― ところで端末側のスペックが、下り最大75Mbpsになっていました。ソフトバンクの利用する周波数を考えると、もっと速度が出せそうですが、これはなぜですか。

寺尾氏 正直に言うと景表法の話があり、Wi-Fi側のスペックが低いため、ピーク速度の表記はそちらに合わせています。LTE側は112.5Mbpsまで出ますが、Wi-Fi側で速度が落ちてしまうので、どこまでスペックに書けるのかという議論はありました。112.5Mbpsと書くのであれば、USBケーブルをつないだときと注をつけなければなりません。過去にもそれで怒られたことがあるので(笑)。

クラウドSIM搭載のスマートフォンにも期待

―― 端末も今はルーター型ですが、Mobile World Congress(MWC)にはスマートフォン型の端末も出展されていました。こちらについてはいかがでしょうか。

郁氏 MWCに出展はしましたが、そこは今後の話になります。

寺尾氏 難しいんですよね。1つは、僕らがやっているのはAndroid Oneで、チップセットも汎用(はんよう)化されてきてはいますが、デフォルトで入れてしまって大丈夫かという話があります。本当にOSがアップデートできるのかも含めて、考えていかなければならず、難しい問題が多いですね。

 需要もよく見ていく必要があります。日本は海外渡航者もそこまで多くないですし、発表されている数字も延べ人数だと思います。ですから、今はビジネススタディー中ですね。

Y!mobileY!mobile uCloudlinkの、クラウドSIM内蔵スマートフォン。日本への展開にも期待したい

―― Y!mobile向けのカスタマイズは可能なのでしょうか。過去には、クラウドSIMが乗った他メーカーのスマートフォンもあったと聞きます。

林氏 両社のパートナーシップが深まれば、もちろん可能です。

寺尾氏 彼らからすれば、たくさん買ってもらえればOKですからね(笑)。

林氏 この技術が乗ったスマートフォンは、小米(Xiaomi)とも検討しましたが、彼らが生産しているスマートフォンには合わないところがあったので、商品化はできていません。あとは酷派(Coolpad)のスマートフォンがありますが、こちらは中国国内で一時的にテスト販売をしていました。

―― 「P1」というフィーチャーフォン型の端末もありました。

郁氏 P1はこのルーターと普通の電話が合体したような商品で、スイッチの切り替えで両方のことができるというものです。頻繁にデータ通信を使うというより、電話ができ、Wi-Fiルーターとしても使えるというのが特徴です。

―― そういえば、そんな端末がPHSでありましたね。

寺尾氏 ネタ的には面白いのですが、それならスマホでいいです(笑)。日本の中では、なかなか難しいのではと思います。

―― 今後、Y!mobileとしてこの商品をどう位置付けていく予定でしょうか。

寺尾氏 正直、今はテスト段階で、需要を見ていきたいと思っているところです。uCloudlinkさんがラインアップを充実させているので、第2弾、第3弾はあるとは思いますが、主力になるのかどうかはもう少し検討していきたいですね。

―― 逆に、可能性としては主力商品になることもありえるということですか。

寺尾氏 Pocket WiFiの市場はどんどん小さくなっているので、ある意味、生き残りのための策が必要です。料金もこの先変えていくかもしれませんし、需要に合わせて見定めていきたいと考えています。

―― ゴールデンウイーク前に発売しましたが、反響はいかがでしたか。

寺尾氏 まだまだこれからですね。初めてやるものなので、派手にずっこけたくないこともあって、アクセルが若干踏みにくいところはあります。ある程度見えてはいきましたが、マス広告をするような商品でもないので、ネット系メディアからの誘導など、そういう広告はやっていこうと思っています。

取材を終えて:Y!mobileだからこそ実現できた、意外性のある商品

 中国の展示会を取材した際に見かけて、uCloudlinkのクラウドSIMには以前から注目していた筆者だが、この仕組みが日本のキャリアに採用されるとは思ってもいなかったので、Y!mobileの導入には正直、驚かされた。ソフトバンクとはいえ、サブブランドであるY!mobileだからこその、思い切った判断だといえそうだ。

 もっとも寺尾氏が指摘していたように、島国の日本は陸続きで車で簡単に国境を超えられる他の国と比べると、海外渡航が少なくなりがちだ。海外渡航時の価格が安いという理由で、Wi-Fiルーターを買う人がどこまでいるのかは、未知数な部分もある。

 使い勝手を考えるとスマートフォンに内蔵するのがベストな解にも思えるが、クラウドSIMは標準化された技術ではないため、寺尾氏が挙げていような問題も残る。あくまで一例だが、Y!mobileのショップで渡航前にレンタルできるようにするなど、販売にこだわらない形へビジネスモデルを広げていく必要もありそうだ。

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