そして今回のイベント全体のメインテーマである5G対応だ。Samsung Electronics Americaシニアバイスプレジデントでモバイル製品戦略&マーケティング担当のJustin Denison氏は、Qualcommとのパートナーシップに基づいた5G対応スマートフォンを2019年中に投入することを予告している。タイミングは不明だが、各国での商用ローンチの展開状況を鑑みて、2019年春までには何らかの形で発表されている可能性が高いと。これがGalaxy Sシリーズになるかは不明だが、春先にSamsungが実施すると予想される発表イベントに注目したい。なお、会場にはプロトタイプではあるものの、米Verizon Wirelessのネットワークと協調して動作する5G対応端末が展示されており、「5G UWB」の表示が確認できた。
Qualcommがモバイル端末の世界でのトレンドを握る存在であり、かつ多数のパートナーを掲げて一大プラットフォームを築き上げているのは、通信技術の高さだけでなく、最新スマートフォンに求められる技術の数々を網羅して、それを実際に製品に組み込んでリリースするための障壁を下げている点にある。
この一翼を担うのがレファレンスモデルの存在で、特にミリ波(30GHz強の電波)に対応した、特殊なアンテナ実装技術を必要とする5Gでは重要な意味を持つ。5G対応のX50モデムは2017年のTech Summitで正式発表されたが、それに続く形で「QTM052」と呼ばれるミリ波対応のアンテナモジュール、2018年10月に香港で開催された4G/5G Summitで紹介された「5Gレファレンスモデル」、そして同レファレンスモデルに搭載される5G対応プロセッサの「Snapdragon 855」と、5Gスマホへの実装に必要な要素は全て出そろった。
米QualcommプレジデントのCristiano Amon氏は世界各国での2019年の5G商用サービスローンチのスケジュールについて説明する。世界どの地域においても先行する携帯キャリアは2019年内での5Gローンチを計画しているが、一部地域ではSub-6の6GHz帯が先行し、ミリ波対応は2019年後半とそれを追いかける形となる。例えば、韓国ではKorea Telecom、LG U+、SK Telecomの3社が2018年12月1日に5Gローンチで先行するが、ミリ波対応は2019年後半以降となる。
一方で、米国のAT&T、Sprint、Verizon Wirelessは2019年前半での5G商用ローンチを一部都市で先行し、こちらはミリ波対応を含んでいるとみられる。実際、デモ環境ではあるが、Tech Summit会場でもAT&TとVerizonの両ネットワークでのミリ波を使った送受信の様子が紹介されている。一方で日本は、2019年9月にNTTドコモが、2020年初頭にはKDDIが5Gローンチを表明している。
5Gに関する話題の後半では、Amon氏がQualcommと5Gに関するタイムラインやどのような問題があるかの説明に時間が割かれた。過去の3Gや4Gと比較しても、5Gのローンチは比較的難産だったと予想される。同氏の説明を聞く限り、その課題の多くは「ミリ波」の性質にあると思われる。大容量伝送に対応できる反面、直進性が高く、障害物の迂回(うかい)や通過が非常に厳しい。到達距離などの問題から、アンテナを密に配置する必要があり、面展開が難しいという側面だ。
そのため、実際の5G展開にあたっては都市部などの密集地域を中心にミリ波のカバー範囲とし、その弱点を補う形でSub-6のカバレッジを広げる。これでは国土の広い地域では対応し切れないため、LTEでの面展開を行って隙間を埋める。Qualcommでは昨今同社がアピールしているGigabit LTEが、この5G NR(Next Radio)のエリア展開の弱点をカバーする存在になると考えており、4G・5Gの両対応できるプラットフォームが重要となる。
そして、5Gのパフォーマンスを最大限に生かすためにCA(キャリアアグリゲーション)が必要となり、4Gと5Gを組み合わせたCAの組み合わせは4G時代の1000程度から1万程度まで一気に増加して実装難易度が上昇するため、世界各国の携帯キャリアに製品を提供するQualcommはその技術力をアピールする必要があるというわけだ。
端末側の問題もある。ミリ波の直進性が高いということは、端末を握ってアンテナの一部を覆うだけで通信が困難になることを意味する。そのため、レファレンスデザインではアンテナを小型化し、左右上端の3面にアンテナを配置することでアンテナに関する問題を回避し、さらに基地局側アンテナのビームフォーミング技術でより細かい通信制御を実施するなど、相応の工夫が行われている。
5Gでは高速通信のためにより多くの電力を消費し、それに応じた発熱もある。アンテナの実装スペース確保や消費電力増に合わせたバッテリーの大容量化、熱設計に余裕を持たせるための本体の大型化など、会場で披露されたプロトタイプの数々を見る限りは昨今の4G端末と比較しても全体に大型化傾向がみられるが、このあたりは今後の各社の工夫や技術向上で順次解決していくとみられる。
Qualcommとしては「『ミリ波対応は難しい、不可能だ』という意見を払拭(ふっしょく)し、困難を乗り越えて現実のものにした」という点で技術力の高さをアピールするのが狙いであり、イベントでの2時間以上にわたる5G関係の説明も、これを反映したものだといえる。
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