「端末の単体販売」や「割引の適用」を拒否された――総務省が「情報提供窓口」に寄せられた消費者からの通報内容を一部公開半年で合計701件の通報

» 2022年03月15日 06時00分 公開
[井上翔ITmedia]

 総務省は3月14日、 電気通信市場検証会議に付属する会議体「競争ルールの検証に関するワーキンググループ」の第26回会合の開催に合わせて、同省が設置した「携帯電話販売代理店に関する情報提供窓口」に2021年9月10日から2022年2月28日までに寄せられた通報に関する状況を公開した。通報は合わせて701件あり、その56.2%(394件)が「通信料金と端末代金の完全分離違反」に関する通報だったという。この結果は、ワーキンググループにおける議論のたたき台の1つとなりそうだ。

 なお、この記事で記載する料金や代金は全て税別で記載する。

調査の概要 携帯電話販売代理店に関する情報提供窓口に2021年9月からの半年間で寄せられた通報内容の比率。全通報のうち、56.2%が「通信料金と端末代金の完全分離」に関する違反だった

情報提供窓口の概要

 携帯電話販売代理店に関する情報提供窓口は、「販売代理店における不適切な行為や、それを助長していると思われる電気通信事業者の評価指標、指示、圧力、不作為等」を通報できるようにすべく2021年9月10日に開設された。

 この窓口は、電気通信事業法第27条の3に定める「移動電気通信役務を提供する電気通信事業者の禁止行為」をいち早く把握することを主な目的としている。現行の同法、および関連する総務省令/ガイドラインでは、MNO(大手キャリア)と契約数が100万件を超えるMVNOに対して以下の禁止行為が定められている。

  • 回線契約の継続と端末購入を条件とする利益提供(割引やキャッシュバック)
  • 回線契約とひも付く端末購入時における2万円を超える利益提供
    • 販売価格が2万円以下となる場合は0円を下回らないようにする
    • 新しい通信方式(新しい周波数帯)に移行するための端末は2万円を超える割引も可(0円未満としてはいけない)
    • 在庫端末(最後の調達から24カ月を経過した端末)、または製造中止から12カ月を経過した端末は半額まで、製造中止から24カ月を経過した端末は8割引きまで可能
    • 移動して使えない措置を講じた通信役務(固定回線を代替する電話サービスやブロードバンドサービスなど)は対象外
  • 回線解約(MNP転出を含む)における不当な引き留め
    • 定期契約プランの契約解除料(違約金/解約金)は1000円までとする
    • 定期契約の有無による月額料金差は170円までとする

キャリア別の法令違反嫌疑は「ソフトバンク」「KDDI」が多い

 総務省の資料によると、2021年9月10日から2022年2月28日までの期間おける電気通信事業法第27条の3に違反する疑いのある通報は352件あった(※1)。それを電気通信事業者(キャリア)別にまとめると、以下の通りになったという。

  • NTTドコモ:62件
  • KDDI(※2):130件
  • ソフトバンク:139件
  • 楽天モバイル:3件
  • 不明:18件

(※1)1回の通報で複数の違反嫌疑がある場合は、嫌疑ごとに個別計上している。通報者が通信キャリアへの開示を希望しなかったものは控除されている
(※2)沖縄セルラー電話を含む(以下同)

 累積件数の最多はソフトバンク(139件)で、KDDI(130件)がそれに続いている。ただし、累積では件数が比較的少ないNTTドコモ(62件)も、2021年12月と2022年2月は通報件数が一番多くなっている。

キャリア別通報件数 キャリア別に集計した結果

販路別での法令違反嫌疑は「量販店」が多い

 電気通信事業法第27条の3に違反する疑いのある352件の通報を販路別に集計した場合は、以下の通りになったという。

  • キャリアショップ:126件
  • 量販店など:185件
  • 属性不明:41件

 この件数を店舗数(※3)で割ると、キャリアショップは100店舗当たり1.8件、量販店などでは100店舗当たり14.3件の通報を受けたことになる。端的にいうと、法令違反が疑われる事案は量販店などで発生する可能性が高いと暗に示されている。

(※3)手続きできる窓口の数が4つ以上ある店舗の数

販路別 販路別に集計の結果

実際にどんなことがあった?

 情報提供窓口に寄せられた通報はさまざまだが、主に「端末の単体販売の拒否」「端末単体販売時の割引拒否」「利益提供の上限超過疑義」が多かったようだ。

端末の単体販売の拒否

 端末の単体販売の拒否の事案では、端末単体での在庫を別に用意している、あるいは契約種別別に在庫管理をしているという旨の“言い訳”が目立っている。在庫があることを確認した上で店舗に出向いたにもかかわらず、単体購入を申し出たら突然「在庫がない」と言われた事例もある。

 端末の単体販売でも適用される割引を提供する場合、端末の単体販売を拒否すると法令違反となる。

事案 端末の単体販売の拒否事案の通報例

端末単体販売時の割引拒否

 一部は先述しているが、回線契約を伴う端末購入において2万円を超える端末割引を実施するには以下のいずれかの条件を満たす必要がある。

  • 新しい通信方式(新しい周波数帯)への移行
  • 在庫端末あるいは製造中止端末の処分
  • 端末単体販売でも同一条件の割引を適用

 割引を3つ目の条件で提供する場合は、販売店が端末の単体販売に応じることが大前提(必須)となる。しかし、端末単体販売時の割引拒否の事案を見てみると、単体販売時にも適用できるはずの割引が「適用できない」と案内されることがあるようだ。端末の単体販売でも適用できるはずの割引を端末の単体販売で適用できないとなると、これもまた法令違反である。

 1つ目の条件は、同じキャリア内での移行(契約変更)だけではなく他キャリアに新規契約(新しい電話番号での移行)またはMNP契約で移行する場合も適用できる。ただし、他キャリアへの移行で2万円を超える端末代金の割引を受ける場合は移行前のキャリアにおいて終了を予定している通信サービスを使っていたことを確認しなければいけない

 一部の通報例を読むと終了予定の通信サービスの利用者かどうかを確認することなく、新規/MNP契約するユーザーに2万円超の割引を提供している事案もありそうである。意図的かどうかは分からないが、これも法令違反となる。

事案 端末単体販売時の割引拒否事案の通報例
乗り換え 新しい通信方式(または新しい周波数帯)に移行するための端末を販売する場合は、2万円を超える割引を提供できる。別のキャリアからの新規/MNP契約による移行でも構わないが、適用時に移行前のキャリアで終了予定の通信サービスを使っているかどうかを確認しなければならない(画像はauの「3Gとりかえ割(スマホ)」「3Gとりかえ割プラス」だが、他キャリアも同様の割引を提供している)

利益提供の上限超過疑義

 先述の通り、MNOや契約数が100万件を超えるMVNOでは、回線契約とひも付く端末購入における利益提供は2万円まで……なのだが、ここで盲点となるのが販売価格の設定である。

 現行の法令では、同一店舗内で同一端末に対して複数の販売価格を設定する場合、販売価格の“差額”も「利益」の一部と見なされる。例えば、販売価格を端末単体販売時は4万円、新規契約/機種変更時は3万円、MNP契約時は2万円と設定した場合、MNP契約で端末を購入した人には2万円の利益が提供されることになるため、先述の例外に当てはまる場合を除いてこれ以上の割引を適用できない。

 総務省への通報例を見てみると、「手数料」を設定したり「定価販売」をしたりすることで契約形態による利益の差額が2万円を超えてしまっている事案が見受けられる。これも法令違反である。割引の内訳をはぐらかされた例もあるようだ。

事案 利益提供の上限超過疑義事案の通報例

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