W-CDMAに戦いを挑むQualcomm──HDRサンプルチップも出荷

Qualcommは下り最大2.4Mbpsのデータ転送レートを実現する「CDMA2000 1x EV」(HDR)のサンプルチップを出荷したと発表した。なかなか予定通りに進まないW-CDMA陣営に比べ,CDMA2000は順調に進化を続けている。

【国内記事】 2001年7月23日更新

 “世界の流れはW-CDMAに向かっている”という言葉も聞く昨今の第3世代携帯電話の規格競争だが,テクノロジーおよび市場のニーズを見ても,“W-CDMAの勝ち”とは言い切れないようだ。

 先日来日したQualcomm CDMA Technologiesのマーケティングおよび製品担当シニア・バイスプレジデントのJohan Lodenius氏は,主に2つの点からCDMA2000(用語)の優位性を語った。

順調にロードマップを進むQualcomm

 CDMAテクノロジーに関する先端企業であり,世界中にcdmaOneのベースバンドチップを提供するQualcomm(用語)は,第3世代携帯電話に向けたロードマップを次のように考えている。

cdmaOne(IS-95A) 14.4Kbps
cdmaOne(IS-95B) 64Kbps
CDMA2000 1x 144Kbps(チップ自体は307Kbpsをサポート)
CDMA2000 1x EV(HDR) 最高2.4Mbps

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 現在,国内ではKDDIがcdmaOne(IS-95B)を展開中で,秋にはCDMA 2000 1xを導入する予定だ。既に韓国ではSKテレコム,LGテレコム,KTフリーテルの3社がCDMA 2000 1xサービスを始めており,「移行も問題なく済んだ」とLodenius氏は言う。

 CDMA 2000 1xの次,日本では2002年の9月に導入が予定されているのが,下り最大2.4Mbpsのデータ転送レートを実現する「CDMA2000 1x EV」(HDR)(用語)だ。米Qualcommは7月18日,対応チップセット「MSM5500」のサンプル出荷を開始したと発表している。

W-CDMAはまだ“スペック定義段階”

 Lodenius氏は,CDMA2000 1xが既にサービスを開始し,1x EVについてもサンプルチップが順調に出荷されているのに対し,W-CDMAは「まだスペックを定義している状況」(Lodenius氏)だという。

 欧州で試験中のW-CDMAを視察したLodenius氏は「ハンドオフ(ハンドオーバー)やパワーコントロールというCDMAの基本的な技術が達成されていない」という印象を持ったという。

 日本のW-CDMA,NTTドコモが提供しているFOMAでも状況は同じようなものかもしれない。FOMAの実機に触った人の中には「これは試験サービスじゃなくて,フィールドテストじゃないか?」と語る人もいる(6月5日の記事参照)。

ビジネスとしてW-CDMAが成り立つかは疑問

 もう1つ,Lodenius氏が重要だと考えるのはコストだ。CDMA2000 1xは,既存のcdmaOneネットワークの簡単な改修で導入できるのが最大のアピールポイントであり,「ローコストを達成するために1x EVを開発した」とLodenius氏は語る(7月18日の記事も参照)。

 「W-CDMAは何もかも高い。今のところは端末も導入コストも,(データ転送)ビット単価も安くない。普及するシステムではない。ビジネスでいえば,W-CDMAが成功するかは大いに疑問だ」(Lodenius氏)

 もちろんこれらの言葉は,Qualcommがある意味W-CDMAと対立する規格,CDMA2000の推進役であることを割り引いて考えるべきだろう。しかし,Qualcommと聞けばCDMAを連想するように,同社がCDMA技術に関しては長年の実績があることも忘れてはいけない。

 また,QualcommもW-CDMAのチップセットを開発している。「ここ数年でいえばCDMA2000だが,W-CDMAがビジネスとして成り立つ土台ができたときのために今から準備している」(Lodenius氏)

CDMA2000はアップグレード容易なテクノロジー

 Qualcommが提供する携帯電話端末向けのベースバンドチップセットには,cdmaOne用の「MSM3000」シリーズ,CDMA2000 1xなどの次世代携帯規格向けの「MSM5000」シリーズ,無線部分に新アーキテクチャ「RadioOne」を採用した「MSM6000」シリーズがある。

Qualcommの主なベースバンドチップ

ベースバンドチップ cdmaOne(IS-95A/B) CDMA2000 1x 1x EV 主な付加機能
MSM3000シリーズ 3300はgpsOneとBluetoothのベースバンド
MSM5100 gpsOne,Bluetoothベースバンドなど
MSM5500 gpsOne,Bluetoothベースバンドなど
MSM6050 RadioOne対応。gpsOne,Bluetoothベースバンドなど
MSM6100 RadioOne対応。gpsOne,Bluetoothベースバンド。Javaアクセラレータ搭載

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 現在ほとんどのcdmaOne携帯電話には「MSM3000」シリーズが採用されている。CDMA2000 1x導入時には「PCがCPUの交換でアップグレードできるように」(Lodenius氏)端末のチップを「MSM5000」シリーズに載せ替えることでアップグレードできるという。

 新たに基地局を1つずつ建てていかなくてはならないW-CDMAと異なり,CDMA2000の場合,基地局のアップグレードも簡単だ。「現在基地局にささっているCSMチップセットの載ったカードを,CSM5000チップが載ったカードに差し替えるだけで対応できる」(クアルコムジャパン)

 ちなみにQualcommのもう1つの大きなトピック,「BREW」(用語)は,「ベースバンドチップに依存するものではなく,ソフトウェアなのでどのチップにも載せられる。Qualcomm製以外のベースバンドチップにも移植予定」(クアルコムジャパン)だという。

携帯電話の高速化は時代の流れだが……

 高いデータ転送レートを活かす明確なキラーアプリケーションはまだ存在しないものの,携帯電話の通信速度が向上していくのは時代の流れ。しかし試験サービスを開始しながらも端末の交換が相次ぎ(7月16日の記事参照),通信状況も安定しないドコモのFOMAを見ても,W-CDMAには技術面でもコスト面でも課題は多い。

 ドコモをはじめとするW-CDMA採用通信キャリアが,“第3世代携帯電話が主流になるのは2005年”と語るのも納得できる(4月11日の記事参照)。

 技術としての実績と,導入コストの安さを打ち出すCDMA2000に,W-CDMAは対抗できるのか。戦いが幕を開けるのは今年の秋。本サービスが開始されるFOMAと,CDMA200 1xを導入するKDDIに注目だ。

[斎藤健二,ITmedia]

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