解説:さまざまなARMプロセッサ 〜16ビットから32ビットまで〜

一口にARMプロセッサといっても,ARM7とかARM10と呼ぶこともあれば,ARM V5とかARM V6という言い方をする場合もある。ARMプロセッサはどのように進化し,どのようなバリエーションを持っているのだろうか。

【国内記事】 2001年8月22日更新

 前回はARMプロセッサの概略を説明したが(8月20日の記事参照),もう少し細かい説明をお届けしたい。一口にARMプロセッサといっても,ARM7とかARM10なんて言い方をすることもあれば,ARM V5とかARM V6なんて言い方をする場合もある。実はこの両者,全く異なった事を指しているのだが,ぱっとこれを理解するのは難しい。そこで今回はARMプロセッサの系譜をご紹介する。

ARMアーキテクチャの変遷

 ARMプロセッサを分類する場合,アーキテクチャと実際のプロセッサを分けて考える必要がある。これは別にARMだけの話ではない。たとえばIntelのプロセッサを考えると,32ビットプロセッサだけを見ても,

386アーキテクチャ
486アーキテクチャ
Pentiumアーキテクチャ
PentiumII(PentiumPro)アーキテクチャ
PentiumIIIアーキテクチャ
Pentium4アーキテクチャ

 の6種類のアーキテクチャに分類される。その上で,PentiumIIIならばKatmaiコアのSlot1タイプ,CoppermineコアのSlot1タイプとSocket370タイプ,TualatinコアのSocket370タイプ,Coppermine-128KコアのCeleronがデスクトップ用にリリースされている。ではARMの場合はどうだろう。

 ARMの場合,現在のところ5つのアーキテクチャが存在する。名称は簡単で,それぞれARM Version 1/2/3/4/5と名前を付けられている。最近IntelとTIが,新アーキテクチャであるARM Version 6のライセンス供与を受けるというニュースが発表になったが(7月31日の記事参照),こちらはまだ詳細が未発表の将来製品であり,とりあえずはVersion 5が最新製品である。

 以下,簡単に説明すると,

  • Version 1

 Acornが作成した初代ARMプロセッサに採用された,26ビットアドレッシングの製品。機能は極めて簡素で,コプロセッサも存在せず,極めて少数のCPUのみが生産された。

  • Version 2

 量産出荷された最初のバージョン。基本的にはVersion1と互換ながら,32ビットの演算命令を追加し,外部のコプロセッサをサポートするようになった。また,オンチップキャッシュを搭載したVersion 2aというアーキテクチャも存在する。

  • Version 3

 ARMがAcornから独立して最初に設計したプロセッサ。32ビットアドレッシングや仮想メモリサポートなど,本格的なプロセッサといえる数々の機能強化を受けている。このVersion 3はVersion 2aと後方互換性を持っているが,ほかにVersion 2aとの後方互換性を切り捨てたVersion 3G,あるいは64ビット演算命令を追加したVersion 3Mも存在する。

  • Version 4

 特権モードという概念が導入されたほか,データ処理命令が強化された。また,Thumbと呼ばれる16ビット圧縮形式命令をサポートした,Version 4Tも存在する。

  • Version 5

 パイプラインの深化による性能向上とDSP命令のサポート,それとベクタ演算コプロセッサのサポートが主な違いである。

 といったところだ。細かく違いを挙げるとキリがないが,大まかにはこんなところだ。

ARMプロセッサの変遷

 次に,このARMアーキテクチャが,どのARMプロセッサに採用されているかを見てみよう。

プロセッサ名称 アーキテクチャ
プロセッサの説明
ARM1 ARM Version 1
Acornが当時製造していたArchimedesというマシンのプロトタイプに少数利用されただけである。
ARM2 ARM Version 2
8MHzで動作し,最大4.7MIPS程度の性能を出した。Archimedesの製品版ほかいくつかのマシンに搭載され,大量に販売された。
ARM3 ARM Version 2a
24〜37MHzで動作し,33MHz動作時には18MIPS程度の性能を出している。これもAcornのワークステーションに搭載され,販売された。なお。ARM3コアに周辺回路を搭載し,キャッシュを削除したARM250というCPUも存在する。
ARM4&5 N/A
AcornからARMに会社が変更された過程で,この2つはスキップされた。
ARM6 ARM Version 3/3M
多くのバージョンが存在する。例えばARMからリリースされているだけで,ARM60(ARM6コアをそのままワンチップ化した)/ARM61(ARM6の回路の一部をハードワイアード化)/ARM600(周辺回路を内蔵)/ARM601(ARM600の低消費電力版)/ARM610(ARM600の高性能版)/ARM650(RAMを内蔵)などがある。ARM610の場合36万トランジスタで構成され,33MHz動作時に27〜28MIPSの性能を出す。このARM610は,Appleの「Newton Message Pad」に搭載された。
ARM7 ARM Version 3/3M
ARM6の高性能版と考えればいい。オンチップのキャッシュサイズが増加され,メモリ管理機構が一部改良されている。また電源が+5Vから+3.3Vに下げられた。こちらも製品レベルでは,山のように派生型がある。40MHz動作時のARM710は,ほぼ36MIPSの性能を出す。
AMULET1 ARM Version 3/3M
アーキテクチャ的にはARM6/7と同じながら,整数演算部にこれまでとは異なる5段のパイプラインを導入することで高性能化を図ったものである。これにより,72MHz動作のARMは最大86MIPSを叩き出し,遂にMIPS値が動作クロックを上回った。
StrongARM ARM Version 4
ARMと旧DECが共同開発した製品。修正ハーバードアーキテクチャ(命令とデータに別々のキャッシュを割り当てる)を採用すると共に,パイプラインの全体の構成を見直し,更に内部のデータ構造をチューニングしたことで,これまでとはけた違いに高速に動作するようになった。200MHz動作のSA110は230MIPSもの性能を出し,しかも500mW程度の消費電力でしかない。ちなみにその後DECのStrongARM部門はIntelに買収され,XScaleと名前を変えて更に進化している。
ARM9 ARM Version 4/4T
ARM8にStrongARMと同様の改良を施したもの。その意味ではStrongARMの派生型といえなくもない。ただし大きな違いとして,Thumbをサポートしていることが挙げられる。先ほどはさらっと流したThumbだが,実際にはパフォーマンスと消費電力(=発熱)のバランスを考えたときに,非常に有効な命令セットである。Thumbは命令を16ビットに限定し,その分命令コードを(物理的に)圧縮したものである。これにより必要とするメモリ量が減少し,外部メモリ用の電力を抑えられるほか,(16ビット命令に限っては)処理速度自体も向上するため,動作クロックを下げられるという優れものである。ただし絶対性能の面では32ビットのほうが高速なため,後はこれを使う設計者が,目的に応じてトレードオフできるというものである。ちなみに150MHz動作のARM9TDMIの場合,165MIPSの処理性能を225mWの消費電力で実現できる。
ARM10 ARM Version 5
最近のPC並にプロセスルールを0.15〜0.25μmに引き下げ,300MHz動作時に400MIPS程度の演算性能を実現し,その際でも1W未満の消費電力を実現した製品。またARM VFP10と呼ばれるコプロセッサと組み合わせるとSIMD演算が可能になり,例えばページプリンタのベクトルフォント展開とか,PDAでのビデオ再生機能などに大きく貢献するとしている。ちなみにStrongARMを改良したIntelのXScaleも,現在はこのVersion5相当と考えてよい。

 ここまで示してきたのは,あくまで単体のプロセッサだが,実際にはほかのチップと組み合わせた例が非常に多いのがARMプロセッサの特徴である。

 例えば,携帯電話向けにDSP(Digital Signal Processor:音声をデータ化し,適切なフィルタリングを行ったり,その逆を行うのに適したチップ)とARMプロセッサを一体化した製品が多く発売されており,多くの携帯電話が採用している。同様に,フラッシュメモリと一体化された製品も多い。

 もう1つの特徴は,古い製品も未だに入手可能ということだ。例えばARM7を生産するメーカーは,未だに20社以上存在する。これはARMの方針(ライセンス供与はまずARM7から開始し,次第に高機能のARMプロセッサを生産できるようになる)もさることながら,需要があることが最大の動機である。それほど高い性能が不要な場合,最新プロセスを利用した極めて小さなARM7プロセッサは,コスト・消費電力の両面で極めて魅力的であり,しかもそうした製品が複数ベンダーから入手できるから,供給面でも魅力的である。

 こうしたマーケットのおかげで,開発ツールをはじめとするサポートも当然充実しており,ARMプロセッサを新規に使い始める場合でもそれほどの困難がない。これがまたマーケットの拡大に役立つ。PalmがARMを採用するに至った決断の中には,こうした部分も少なからず含まれているのは確かだろう。

[大原雄介,ITmedia]

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