俺色にそまれ!特製ケータイのつくりかた(2)こんにちは,「もばいるのつくりかた」です。前回に引き続き,ここ茨城県の彩工房にて代表の富田裕二さんに,モバイルグッズのオリジナルペイントについて,お話を聞いています。アナタ色のケータイ,こうやってできちゃいます!
●●●一皮はいで,その上で塗る?さてさて,前回,おおまかな作業の流れについては説明してもらったので,今度はさらにそれぞれの工程の詳しい内容について教えてください。 「それでは手順の紹介ですが,まず,引き受けた品物が届くと,注意深く分解します。分解したパーツごとに塗っていくためなんですが,携帯電話などは基本的に専門の方しか分解しないように作られていますから,ちょっと自信がないものについては,できる限りならほかで試してから手がけます」
え? でも,ケータイの分解って,特殊なドライバーとかがいるんじゃないんですか? 「ええ,普通のプラスとかマイナスのものとは違いますね。だから,最初,上野のアメ横とかに注文して取り寄せていたんですが……ある時,こんなのを見つけまして」 と言って,富田さんが取り出して見せてくれたのは,「携帯電話用ドライバーセット」……なんじゃこりゃ?? うわ,「ドコモ」「J-PHONE」「TU-KA」……って,キャリア別のドライバーが全種類入ってる! 「これがねー,近所の普通のホームセンターに並んでいたのを見た時は,目を疑いましたよ」 私もびっくりしました。だって,ごくごく一般の市場に出回るものにしては,マニアックすぎませんか? それも1キャリア用でなくて,全キャリア用セット。そんなに携帯を分解したい人っているんですか? そもそも,このドライバー買っていく人ってどんな人なんですか?? そのホームセンターに行って聞いてみたいくらい,謎です。 「いえ,でも,これを見つけた時は嬉しかったですよ」 にこにこしながらそう言う富田さん。そりゃ,富田さんみたいな人には,どんぴしゃの商品でしょうけれど……やっぱり不思議です。世の中には,想像もつかないような需要があるのねぇ。うーん。 「で,そうやって携帯を分解するわけですが,ごくまれに,構造的に無理なものもあります。例えば,パーツ間にまたがって配線してあったりするものは,無理ですね。でも,そういうものは,これまで1機種しかなかったですけれども」 富田さんは,以前電気関係のお仕事をしていたこともあって,携帯内部の機械的な部分への配慮も慎重を極めています。携帯を分解する上で,内部の機構に決して影響がないように,注意を払って作業を進めていきます。 「そして分解ができたら,今度は塗りたいところの塗装をはがしていきます。そうですね,塗装をはぐというよりは“一皮むく”って感じです。そうしないと,こちらの作業で塗った塗料の厚みがきいてしまって,組むことができなくなりますから。で,それに使う道具は,っと,これです」 何やら取り出されたドリルのようなものに富田さんがスイッチをいれると……キュイーーン! う,歯医者さんキライ。 その「一皮むく」ためのドリル(?)や,ドリルの先の付け替え用のアタッチメントをよく見せてもらうと,歯医者さんの道具にそっくりなんです(というか,もしかしたら同じものかも)。 で,これも「普通に買えますよ」(富田さん)とのこと。……世の中不思議なことだらけです。 ●●●写真もOK? 手法はいろいろこれらの段階の後,いよいよ塗りに入ります。前回,「木目」は実は手描きなのだ,という話がありましたが,そのほかにもいろいろな技法があるようです。 「下地を作ってから,色々な手段で塗っていきます。木目などは手描きですけれど,筆を使うのは木目くらいかな? 基本はエアブラシや,マスキングによる吹き付け塗装です」 さらに,絵つけをする場合,塗ったり描いたりしない方法もあるとか。例えば,お客さんから送られてきた写真や画像をそのまま張り込むこともできるのだそうです。 写真や画像を,パソコン上で最適なデザイン・大きさに加工し,色なども調整した後,それを「雁皮紙」(がんぴし)という紙にプリント。これをクリア塗装の中に塗りこめると,紙のインクの乗っていない地の部分が透き通って消えてしまうのだそうです。そうすると,印刷した写真や画像が,塗装の中に浮き上がっているように見えるんです。 この雁皮紙はとても薄くて,和紙みたいな感じの紙です。少し透けていて,習字で使う半紙に似ているかな? これも普通にお店で買える紙だとのこと。 「使っている材料は,そこらへんにあるものばかりなんですが,これはこんな風に使える! というのを見つけるのも楽しいですよね。デザインしたり絵を描くのも大変ですが,新しい手法を見つけていくのも大変です。でも,それがまた面白いところでもあるんです」 ●●●表面つるつるぴかぴかの理由さて,絵やデザインを色々な手法で描きこみつつ,塗装は進められます。塗料が端からはげてこないように,分解した部品の接合面をまきこむように塗るなど,細かく気を使って綺麗に塗り上げていきます。それで,やっと完成かな? と思いきや,まだ最後の仕上げがあるとのこと。 「最後の大事な作業がありますよ。塗装した表面を守るためにクリア塗装というのを行います。これを厚めに塗っていって,そして,最後は表面処理をして一応の完成です」 なんでも,この「厚めのクリア塗装」が彩工房の特徴で,かつ,大切なところなのだそうです。これを行うためにも,最初に部品を「一皮むく」作業が大事になってくるとのこと。 さらに,これも塗りっぱなしにはしない,と富田さんは言います。塗装が完全に乾くのを待って,その後ヤスリで表面全体を整えていきます。ここでもまた,塗装を「一皮むく」ことになるので,そのためにもクリア塗装は厚めにしておくのだそうです。 「たとえば,このヘルメットなんですけれども……分かるかな? 緑の方は塗ったままのもので,白い方は塗ったうえで表面処理をしたものです(写真参照)。写っている蛍光灯の形が,緑の方はでこぼこしてて,白の方は綺麗に映ってるでしょ? この最後のヤスリがけの作業は,根気もいるし大変です。でも,これをしないと許せませんね。仕上がりが全く違いますから」 比べると,確かに全然違います。富田さんの話によると,現在,ほかにも彩工房さんと同じようなオリジナルペイントをしてくれる工房はいくつかあるそうなのですが,それぞれに「得意技」が違うのだとのこと。その中で,富田さんの彩工房では,この綺麗な表面処理にこだわっているのだそうです。はー,気が遠くなる作業を延々としないと,このクオリティが生まれないんですね。私には,例え同じ道具を渡されても,とても無理です。 「基本はね,真面目にやることなんですよ。自分でも,自分の真面目さがイヤなんですけどね」 なんて,ちょっと照れて話す富田さんでしたが,その真面目さ・誠実さはペイントの完成度の高さに現れています。しかも,電気の知識も持った上で,こんなにアートなことをしてしまう富田さんは,まさにIT時代の匠! なんて思った私でした。 ●●●これからの彩工房彩工房では,最初に紹介したように携帯電話だけではなく,バイクのタンクも,MDウォークマンも,色々とお客さんのオーダーに応じて相談しながら,作業を請け負っているとのこと。 「お客さんと相談していると色んなイメージが浮かぶんですよ。作業のイメージや仕上がりのイメージもそうですが,その中で新しい方法を編み出したりね。作業の完成度もさらに上げて,もっとクオリティを上げていきたいです。到底,“これで完璧”なんて方法はないので,進歩しつづけますよ」 モノを新たに生まれ変わらせるデザインと,精密な作業をされる集中力や,根気。色々な富田さんの個性自体がまさに「彩工房」なのでしょうね。 さてさて。取材を終えた後も,自分のケータイをいろいろひっくりかえしては「ここに桜の模様入れてもらったら可愛いかなあ,いや,夏に向けてブルーのお魚とか……」と悩む私なのでした。やっぱり,みんなと同じじゃ,つまらないですものね。と,いうことで,今回の「もばいるのつくりかた」は俺色ケータイのつくりかた,でした! それでは,また来週〜! [絵本 智,ITmedia] 連載バックナンバー 関連リンク Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved. モバイルショップ
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