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つくりかた
 [第15回]

液晶ってなんだろう?「液晶=イカ墨」説の謎

TFTにSTN,反射型に半透過型……。カタログなどでよく見かける言葉だけれど,どういう意味なんだろう? ということで今回は液晶について。シャープに話を聞いてきました!

【国内記事】 2001年8月22日更新

カラー? 反射型? TFT?

 今や携帯電話の液晶は,ほとんどがカラーになってしまった気がしますが,実はそれはつい最近のこと。ちょっと前までモノクロの液晶ばかりだったのは,皆さん覚えていますよね。

 その頃は単に画面の大きさのことばかりが取り沙汰されていた気がしますが,カラーになってからはいろいろな言葉がカタログに載るようになりました。「TFT」とか,「STN」「反射型」「半透過型」……。なんだか分からないけれどとにかくすごいんだなー,と納得していたのです(薬のCMとかでもジンクピリチオンなんとかが効く! と言われたら,よく分からないけど効きそうだなー,と思ってしまうじゃないですか)。

 分からないことを解決するのが「もばいるのつくりかた」。ということで今回は液晶の秘密に迫ります!

 まずは勉強勉強。えーと,TFTは「Thin Film Transistor」の略で,STNは「Super Twisted Nematic」の略……ふむふむなるほどー。って,全然分からん! ダメだー誰か教えてよーう!!

液晶のふるさと,シャープ天理工場

 液晶といったらやっぱりシャープ。ということで東京のシャープ広報部に相談したところ,そういうことならば実際に工場見学もしてみては? との提案をいただいて,喜び勇んでやって参りました,ここ奈良県。

 近鉄の奈良駅からタクシーで移動中,「あー,シカだー」などと喜んでいたのもつかの間,1つの山がまるごと秘密基地のようになった,液晶のふるさとシャープの天理工場が見えてきました。

 ここ天理工場はシャープの液晶に関する研究と製造の総本山とのこと。いやはや,とにかく大きくて広いです。団地のような建物も建ち並んでいて,まるで1つの町のよう。米軍基地の入り口のような厳重なゲートを抜けて,まだまだてくてくと歩き,やっと待ち合わせのビルにたどり着きました。

液晶はシャープ! の歴史と理由

 今回液晶について教えてくださるのは,TFT液晶事業本部 事業戦略推進室 副参事の大下進次さん。

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 まずは,シャープの液晶の歴史についてのミュージアムから案内して頂きます。液晶開発の歴史を年代別に展示しているコーナーで立ち止まり,大下さんは1つの電卓を手に取り,思い出深そうに話し始めました。

 「この電卓からね,すべては始まったんですよ。シャープの液晶のスタートでした」

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 当時,既に電卓は市場に出ていたものの,蛍光表示管など携帯機器用としては消費電力の大きい部品を使うものが主でした。そんな折,シャープは当時実用化の目処のたった液晶を使用した第一号機を製品化したのだそうです。

 「今見るとね,現在の液晶とは白黒が逆なんです。ほら,現在の液晶は黒い線で数字を表示するけれど,これは黒地に白く数字が見えるでしょう? これは,この後すぐに今の形に変わったんだけどね」

 この電卓からスタートする液晶の歴史年表には,ワープロや,私が見たこともないような機械がいろいろと展示してありました。私たちが実際に使っているような機械は,シャープにとってはつい最近の製品だったんですね。

 「単純に液晶を部品として作っているだけだと,液晶自体もここまで進歩しなかったのではと思います。シャープは,液晶を使った実際の製品まですべてを作ることで,液晶自体の応用範囲も広げつつ製品に有効な進化を遂げさせることができたんです。用途あっての進化ですからね」

 ミュージアムには本当にいろいろな液晶が展示されていました。表示の美しさを追求した液晶はテレビに,熱などの環境変化に強い液晶はカーナビに向いていて……などなど,一言で「液晶」といっても様々な種類があるんですね。その応用範囲の広さと可能性に驚かされました。

 「これからは,液晶パネル自体にメモリを持たせることなども考えていますし,まだまだ,どんどん進化していきますよ」

ところで,「液晶」ってなんなのかな?

 さてさて,場所をミュージアムから会議室に場所を移して「液晶」についての勉強開始です! そもそも,液晶って何なのでしょう?

 「まず,『液晶』という言葉は,現在は『液晶ディスプレイ』という表示装置のことを指すように使われていますが,厳密に言えば『物質の状態の1つ』を指す言葉なんです」

 物質には「固体・液体・気体」の3つがあって,これを物質の3態といいます。たとえば水だと「氷・水・水蒸気」の3つですね。固体の中には原子や分子が規則正しく並んで「結晶」を作るものがあって,「液晶」はこの結晶と液体の中間の状態,すなわち分子が結晶のように並んで液体のように流動性がある状態のことをいうのだそうです。また,液晶は分子が規則正しく並んでいるので,結晶のような光学的性質を持つとのこと。

 うーん,分かったような分からないような……

 「そうですね,実際に見てもらえれば分かるかな。『液晶』の物質自体はまさに,コレなんです。液晶パネルは単純に言えば,こういう物質が極めて薄い板に,極めて狭い間隔ではさまれているものだと思ってみてください」

 と,大下さんは薬の入っているようなガラスの瓶を見せてくれました。振ると中で液体がちゃぽちゃぽ揺れています。

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 「この瓶の中にあるのは,液晶状態の物質の一種です。現在確認されているこういう物質は200種類くらいあって,製品として液晶パネルを作る時には,それらをお酒のカクテルのように混ぜ合わせて最適なものを作ります。たとえば,こういう混ぜ方をすると熱に強い,とかね。そうするとカーナビに向いている表示装置が作れるわけです」

 ふむふむ。つまり,その混ぜ方というのがノウハウなんですね。カクテルのレシピみたい。

 あ,もしかして,その中には「イカの墨」も混ぜるんですか? あれも液晶の一種だって聞いたことがありますよ。有名な話ですよね!

 「ところが,実は私たちもどこからそういう話が出てきたのか分からないんですが……『イカ墨は液晶』というのが確認された事実は見当たらないんですよ」

 え! もしかしてデマなんでしょうか(しょんぼり)。うーん,今回の取材では,この話でちょっと物知りなところを見せようと思っていたので残念です。

 なんて,ちょっとがっくりきたところで,今回はここまで。次回は「TFT」「STN」などの構造の違いを中心に,勉強していきたいと思います。

 それでは次週もお楽しみに! 以上「もばいるのつくりかた」でした!

[絵本 智,ITmedia]

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