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つくりかた
 [第16回]

液晶はねじれている? ディスプレイの魔法

「STN液晶」は「Super Twisted Nematic液晶」の略。つまりはスーパーな,ねじれたネマティック液晶?? これ,意味不明の言葉のようですが,実は深〜い理由があるんです。今回もシャープにお邪魔して液晶ディスプレイの表示の仕組みについて勉強中です!

【国内記事】 2001年8月29日更新

 こんにちはー,もばいるのつくりかた第16回です。今週も,先週に引き続きシャープの天理工場にて,液晶ディスプレイについての勉強です!

 ということで,今回もTFT液晶事業本部 事業戦略推進室 副参事の大下進次さんにお話を聞かせて頂きます。それでは,よろしくおねがいします!

液晶物質の役割は?

 「はいはい,こちらこそよろしく。前回は液晶物質についてお話しましたが,今回はその液晶物質が“液晶ディスプレイ”のどこにどんなふうに使われているのかについてお話しましょう」

 「液晶物質」というもの自体の存在は,1880年にオーストリアのライニッツァ氏という植物学者によって発見されました。そしてその約100年後,1973年にシャープは電卓用の数字表示装置として,液晶ディスプレイの実用化に成功したのだそうです。

 「本当は一言で液晶物質といっても分子配列で数種類に分類できるんですが,携帯電話やパソコンに使用するTFTやSTNという方式に使用するのは,その中でも『ネマティック液晶』と呼ばれるものです。このタイプの液晶は分子の並びがゆるやかな規則性を持っていて,微細な溝のある板に乗せると分子がその溝に沿って並びます」

 前回のお話では「液晶パネルは単純に言えば,液晶物質が極めて薄い板に,極めて狭い間隔で挟まれているもの」だとのことでしたよね。……じゃあ,その溝のある板で液晶物質を挟めば液晶ディスプレイのできあがり?

 「いやいや,まだまだですよ(笑)。それはディスプレイの構造の10%くらいの部分かな。その,溝のある板で挟むというのはもちろんあっているけれど,さらに詳しく言うと,その板の溝は上と下の板で方向が90度クロスしているんです。つまり,挟まれた液晶の分子は板の間で緩やかに90度ねじれて並んでいるわけですね」

 クロスが分子で……むにゃむにゃ,難しい……。すみません,もう少し詳しく教えてくださーい!

液晶ディスプレイの作り方(表示の原理編)

 「つまりこういうことですよ」と,大下さんは鞄から2枚の薄いフィルムを取り出しました。

 「これには,先程お話した『微細な溝』と同じ幅で細い線がかかれています。これは液晶ディスプレイでは『偏光フィルタ』と呼ぶ部分で,ちなみに先程まで『溝のある板』と言っていたものは『配向板』と呼びます」

 ふむふむ。じゃあ,その偏光フィルタはどんな役割をするものなんですか?

 「簡単に言ってしまうと,たとえばこれをまっすぐに重ねると光が通るけれど……これを90度クロスさせて重ねると,光が通らない(下図参照)。これが液晶ディスプレイの表示の原理なんです」

Photo

 光が通る・通らない,が表示のオン・オフになるわけですね。ということは,液晶ディスプレイの裏ではこの偏光フィルタがぐりんぐりん縦になったり横になったり回転して動いている,と。……って,本当に??

 「そんなわけはないでしょう(笑)。第一,偏光フィルタ全体の方向が一度に動くのでは,画面全体に光が通るか通らないかのどちらかしか表示できないじゃないですか。もっと細かい操作ができないと」

 そりゃそうですよね。でも,じゃあどうやって?

 「まず,偏光フィルタと配向板は,共にクロスした形で置かれます。そのままだと光は通りませんよね。だから間に液晶が挟みこんであるんです。90度クロスした溝に挟み込まれている液晶は,徐々に分子をねじった形に配列させながら上と下の溝にはまっています。この液晶の分子配列が光の『ガイド』になって,ねじれながら光を運んでいくんです」

Photo

 「上の左側の図のように,90度ねじれた溝で挟んだ液晶物質があれば,光を通すことができます。ほら,光がねじれて進んで下のフィルタを通過しているでしょう? さらに面白いのは,このねじれた液晶の分子は,電圧をかけるとその『ねじれ』がなくなるんです。そうすると光はまっすぐに進むから,右側の図のように下の偏光フィルタを通過できない。つまり光が通らない状態になるわけです。これが表示のオン・オフの仕組みです」

 なるほど,偏光フィルタを回転させる代わりに,液晶の分子をねじったりまっすぐにしたりしているわけですね。この仕組みによって,常態では透明,電圧かけると不透明,という表示装置ができあがりました。

電圧をかける,ってどうやるの?

 「さてさて。これでやっと表示の原理については理解してもらえたかな。そうすると……次は,このオン・オフの制御する仕組みについてですね」

 というと,液晶の分子がねじれたりまっすぐになったり,それを電圧をかけて制御する仕組みのことですよね。

 「そうそう,絵本さんも聞いたことあるでしょ? TFTとかSTNって言葉」

 知ってます知ってます! TFTはThin Film Transistorの略で,STNはSuper Twisted Nematicの略なんですよね! 勉強してきましたものー,えっへん。  「よく覚えてきましたね。じゃあ,それらはどんなものですか?」

 えっと……。TFTはThin,薄い,膜の,トランジスタで……ごにょごにょ。STNはスーパーな……ねじれた,ネマティック……あれ? なんだか今回のお話に出てきたキーワードみたいですね。ねじれたネマティック液晶??

 「そう,STNという名前は,先程までの話に出てきた構造を表しているんですね。また,STNとTFTでは,液晶物質に電圧をかけて制御する際の仕組みが異なります。さきほど絵本さんは,TFTのことを説明しようとして『トランジスタ』という言葉を出しましたよね。それが,キーワードです。じゃあ話を続けましょうか,TFTというのは……」

 大下先生,ちょ,ちょっと待ってください! 一度に聞いたらパンクしてしまいますー。…… ということで,今回はここまで。皆さん,まずは液晶の表示の原理について,よーく理解しておいてくださいね。

 次回はさらに,その「制御」についてのお話です! TFTとSTNの違いについても,もちろんばっちり解説していただきますのでお楽しみに。

 それでは,また来週〜!もばいるのつくりかたでした!

[絵本 智,ITmedia]

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