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つくりかた
 [第17回]

STN vs TFT,今後の液晶を制するのはどっち!?

今週もシャープの天理工場にて液晶について勉強中です。今回はSTNやTFTと呼ばれる液晶の制御について。どんな仕組みで動いているの? どっちがすごいの? などなど,いろいろな疑問を徹底解明です!

【国内記事】 2001年9月5日更新

 こんにちはー,もばいるのつくりかた第17回です。シャープの天理工場にお邪魔しての3回目は,よく耳にする「STN」と「TFT」という言葉について。今回もTFT液晶事業本部 事業戦略推進室 副参事の大下進次さんにお話を聞かせて頂きます。

 前回,液晶ディスプレイの基本的な構造について勉強して,画素(画を構成する「点」)の仕組みは理解しましたよね。今回はさらに,それがどう制御されているかのお話です。

 「はい,その制御の方式がまさに『STN』とか『TFT』と呼ばれている用語の内容なんですね。液晶ディスプレイは,前回お話したように画面を表示する一番小さい『点』である画素を制御することで,表示装置として機能します。ここまでは,いいですね」

 はい! ガラス板に「液晶物質」が分子配列のねじれた形で挟まれていて,そのねじれがガイドになって光が通るんですよね。で,そこに電圧がかかるとねじれが直るので光が通らなくなります。それが表示のオン・オフの仕組みなんですよね。

 「そうそう,そうすると,あとは『透明な部分=光を通している部分』を『光を通さないようにする=電圧をかける』にはどうしたらいいか,というお話ですね。そうそう,その前に絵本さんはパソコンの画面って,一体いくつの画素から構成されていると思いますか?」

パソコン用液晶の画素数は100万個以上!

 うーん,とにかくいっぱいあることは分かるんですが……。数年前に比べると,大きな画面の液晶ディスプレイの付いているノートパソコンも増えてきていますしね。

 「今から6年前,Windows 95というOSが発表された頃はVGAという画面サイズの規格が一般的でした。これは横が640個,縦が480個の点で構成されているものだったんですね。だから,その段階で30万7200個の点を制御して画像を表示していました。さらに,それはモノクロ液晶の場合で,カラー液晶の場合はR,G,Bの3色を1つの画素として扱いますが,実態は3つの画素から構成されていますのでその3倍になります」

 えーと,一・十・百・千……30万,かけることの……つまり100万個近くの点からできているんですね!

 「しかもそれは6年前のことですから,現在パソコン用に使われている液晶ディスプレイの画素数は,さらにその数倍ですね。その制御方式がSTNとかTFTと呼ばれる方式です。両方とも,明滅させたい画素にどうやって電圧をかけるか,という目的は同じなのですが,方式は全く違います。簡単に言えば,STNは明滅させたい画素にディスプレイの縦軸と横軸からタイミングを合わせて電気信号を送る方法で,TFTは全ての画素それぞれに個別の『スイッチ』が付いているという方式です」

コストに強いSTN,速度と画質のTFT

 「STN方式は,名前の意味としては前回お話した通り,液晶ディスプレイというものの仕組みそのものを表していますが,これは登場の時期が早かったことが理由です」

 そうですよね。だって,TFT方式も「ねじれたネマティック液晶」の仕組みで表示しているのは同じですものね。

 「では,TFTとはどういう意味なのかといいますと……Thin Film Transistor,つまり『薄膜トランジスタ』ですよね。この名前は,今回お話する『電圧のかけ方の違い』と深い関係があるんです。それでは,次の図を見てください」

Photo

 「まずSTNの構造からいきましょう。前回の話に出てきた『配向膜』を覚えていますか? その溝は,液晶ディスプレイを挟んでいる両面で90度クロスしていますよね。その溝の幅がまさに『画素』の幅ですから,その溝にそって電極を引きます。縦と横ですからX電極とY電極と呼ぶとすると,電圧をかけたい画素をX電極とY電極にタイミングを合わせて電圧をかけることで『狙い打ち』できますね」

 ふむふむ。縦軸と横軸で座標を指定するように,例えばXの3列とYの7列,というようにして,ある1点を制御することができるわけですね。では,それに対してTFTは個別にスイッチが付いているというのは?

 「TFTはSTNとは構造が全く違います。そうですね,先程パソコンのカラー液晶は100万個近くの画素でできていると話しましたが,その画素全てにトランジスタという部品が入っているんです。それの1つ1つに対して,制御用のICから個別に電圧を“かける・かけない”の信号を送って制御します。こちらの方がイメージはしやすいかもしれませんが,STNに比べると構造は複雑です。ですが,STNよりも反応速度やコントラスト,色表現で優れていますから現在ではこちらのほうが好まれますね」

 TFTは画素それぞれに個別に配線して制御する方式,というわけですね。でも,細か〜い画素1つ1つに部品を作り込むのは大変そう……。

 「そう,TFTは構造が複雑な分,コストは高くなりますね。ここでひとつ強調しておきたいのは“STNが古い技術でTFTのほうが断然いい”というわけではないということです。技術にはすべて特長があって,例えばSTNはTFTより一般にコストの面で有利です。……そうそうそれにもう1つ,STNに有利な点があるんですよ」

 そこで大下さんはニコっと笑い,そして「それは材質の問題についてなんです」と続けました。

プラスチックで液晶パネルを作りたい!

 「近年,特にモバイル機器用として,液晶パネルはより軽く,また耐久性が高いものが求められています。そこで液晶物質を挟む2枚の『板』の材質が問題になるのですが,これには通常ガラスが使われています。それをプラスチックで作りたい,そう考えた時,TFTは条件的に不利だったんです」

 ガラスをプラスチックに……眼鏡の材質の話みたいですね。でも,どうしてTFTはプラスチックで作りにくいんですか?

 「TFTはトランジスタで制御している,と話しましたよね。トランジスタというのは電子部品です。そしてプラスチックは……静電気が起きやすいんです」

 あ,分かった! 静電気でトランジスタが壊れちゃうんですね!

 「そう,それが問題で,TFT方式でのプラスチック製液晶パネルの実用化は難航しているんです。一方STN方式ではPFカラー液晶という世界初のプラスチックカラー液晶の開発に成功しました。これは薄い・軽い・衝撃に強いといった携帯機器に必要な特徴を持っているため,大画面化による携帯機器の厚み・質量の増加を軽減できます。また,色が鮮やかなこともこのPFカラー液晶の特徴なんですよ」

 なるほどー,プラスチック製の液晶パネルが作れる!という点でSTNも見直されているんですね。TFTとSTN,どちらも良いところがあって,まだまだどちらかが世界を席巻する! とは言い切れないようです。これからの液晶開発が楽しみですね。

 さてさて。これで液晶ディスプレイの表示の構造と制御の仕組みについては大分分かりました! 私ももうそろそろ液晶博士が名乗れるかな??

 「そうですね。表示の仕組みについては,ほぼ講義終了かな。でも,実際の製品としての構造はまだまだ(笑)。今度は,こんな言葉って聞いたことありますか?『反射型』とか『透過型』とか……」

 あ,知ってます! 携帯電話の機種を選ぶ時に,気になったりするんですよね。では,次回はその違いについて教えてください!

 ということで今回はここまで。知れば知るほど奥の深い液晶の世界,もう少しがんばってお伝えしますね。それでは来週もお楽しみに〜!

[絵本 智,ITmedia]

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