秘密基地潜入レポート! 液晶のふるさとシャープ天理工場さて,約1カ月にわたってお送りした「液晶のつくりかた」も今回が最終回。締めくくりは待望の工場見学です。「撮影は禁止ですので……」と念押しされたその製造ラインで見たものは!?
●●●事前の勉強も終わって,製造ラインにいざ突撃!こんにちはー,もばいるのつくりかた第19回です。今回はシャープ天理工場にお邪魔しての「液晶のつくりかた」最終回。液晶について基本の基本から勉強してきた締めくくりは,待望の工場見学です! ご案内頂くのは,もうすっかりおなじみになりました,TFT液晶事業本部事業戦略推進室,副参事の大下進次さんです。よろしくお願いします! 「はいはい,ご案内しますね。あ,カメラは置いていってください」 う,やっぱり撮影禁止なんですね。じゃあ隠しカメラの準備を……って冗談ですよ! ●●●直接見るなんてとんでもない! 「安全第一」な最新鋭工場タバコ型カメラっていくらぐらいで買えるのかなー,などと馬鹿なことを考えているうちに,工場棟に到着。靴を脱いで,エレベーターで何階か上がります。 あのー,工場の中に入る時はやっぱり,ブオーって風の出る機械に入って体中の埃を取ったりするんですか?(ちょっとドキドキ) 「いいえ,そういうことはしません。というより,工場の製造ラインに直接入って見て頂くことはできないんです。ラインの中は非常に高いレベルで環境を管理をしています。ですからガラスごしの見学になりますが,我慢してくださいね。でも,十分驚かれると思いますよ」 まず案内されたのは液晶を製造するための各種化学物質のタンクが見えるところでした。照明は薄暗いオレンジ色で,なんだか秘密基地のような雰囲気です。 「はい,ここの天井を見上げてみてください。網の目みたいになっているでしょう? その網目の上,ちょうどこの真上で実際の製造ラインが動いています。下の化学物質のタンクから直接上の製造ラインにつなげて,距離を近くしているんですね」 ふむふむ。近い方が効率もいいですし,安全面でも安心ですものね。……あれ? 大下さん,網の目の上を歩いている人がいますよ? 「あ,あれはロボットです。製造はすべて製造機械とロボットが行っています。人間が入るのはメンテナンスのためのみですね」 人間はいらないんですか……。というよりも,まるで人間を閉め出しているようにも見えますね。 「うーん,そういう面もないとはいえないかもしれません。というのは,この製造ラインの部屋の空気は,非常に高いレベルで管理されているんです。製造している液晶ディスプレイには,0.3ミクロンくらいのゴミが浮いていても品質に影響が出てしまうので……」 えーと,ミクロンって,1000分の1ミリでしたっけ? 小さすぎてイメージが沸かないなあ。 「3ミクロンというと,バクテリアよりもタバコの煙の粒子よりも小さいチリです。例えば,タバコを吸った後,この部屋に入ったりしたら大変ですよ。その人の肺に残っていたタバコの煙の粒子がばらまかれてしまいますからね」 うわっ,厳しいんですねー。煙の粒子が影響を及ぼす,というほどのレベルで,この部屋の中の空気は厳密に管理されているんですね。あ,あともしかすると製造に必要な材料には人体に有害なものもあるのでしょうか? 「そうですね。モノを作るには安全な物質ばかりを使用しているわけではありません。ですから,それを扱うための技術の十分な確立も大切です。環境対策も『できるだけ』ではなくて『完璧に』しなくてはいけません。また,安全対策についても同じで,たとえば場所1つとっても,この工場の建設地は地盤としても非常に頑健なところを選んで建てているんですよ」 例えばそれは地震などを想定してのことなのでしょうか。でも,もしも大きな地震が起こったら……。 「もし基準以上の揺れが感知されたら,製造に関わる機械は一斉にストップします。もちろん,このタンクの薬剤もバチン! と供給を停止します。そして,安全が確認された後に,ゆっくり,バルブをひとつひとつ注意深く開けていくんです」 ●●●量産の秘訣は「ほどほどにゆっくり」。「歩留まり」に挑め!「さて,ではさらに1階上ってもらいましょう。待望の製造ラインが見えますよ」 と,階段を上がると……。わあっ! ガラス越しにシャコシャコといろいろな機械が動いています。 お盆くらいの大きさのガラス板を,マシンの手が受け渡しています。上流から流れてきたお盆をつかんで,隣にある棚に差し込んでは,また引き抜いて,下流にある棚に並べています。大下さん,ここでは何をしているんですか? 「ここはTFTのベースとなるトランジスタをガラス板に作り込む工程です。厳密には異なりますが,フィルムに写真を焼き付けるとの同じような技術で,いわばトランジスタを『印刷』しているんですね」 前々回に説明してもらったTFT方式のお話だと,何百万個というトランジスタをひとつひとつに作り込んでさらに配線して……という工程が必要とのことでした。でも,確かにこの「印刷式」の方法だと一気に作り込めてしまいますよね。 あれ? でも,なんだかロボットの腕って,何も持っていないときはシャコシャコ早いのですけれど,ガラス板を持っている時はちょっとゆっくりめに動いていませんか? 大事なものだから丁寧に扱っているのかしら。 「いいところに気づきましたね。それがまさにノウハウの部分なんです。実は以前,ある製造メーカーの方が工場の見学にいらっしゃったんですが,その時にも同じことを言われました。そのメーカーさんでは生産効率を上げようと,ロボットの動きを早くしてがんばっていたそうなんですが,工程は早く進んでも不良品の率=歩留まりが良くなかったのだそうです。その原因にはずいぶん悩まれていたそうなのですが,それを改善する方法はこの“ゆっくりめ”にあったんです」 つまり,ロボットがガラス板をゆっくりめに運ぶことが,不良品を少なくする方法だった,ということですか? でも一体どうして?? 「実は,この工程で量産の効率を上げようとしてガラス板を早く動かしすぎると,空気との摩擦で静電気が起こってしまうんです。TFTは微細なトランジスタを精密に配置したものですよね。なのでその構造は,この工程では静電気にものすごく弱いんです。これが不良率が上がってしまう原因でした。つまり,いっぱい作りたければ『ほどほどにゆっくり』というのがミソなんですよ」 ……おそれ入りました。この工場のいろいろなことすべてにそういうノウハウがつまっているかと思うと,なんだか感動してしまう私なのでした。 ●●●かしこい働き者! おなかがすいたら自分で充電するロボット「あ,来ましたね。彼を見ていてください」 大下さんが指さす方を見ると,おお! ちょうど人間くらいの背丈の箱型ロボットが,ゆっくり歩いて近づいてきました。そして,先ほど大切に運ばれてきて「印刷」処理をされた後のガラス板をおなかの中にいっぱいしまい込んで,また移動していってしまいました。 「彼は,ここまでの工程で出来たガラス板を別の工程のラインまで運んでいきます。ものすごく滑らかに動いているでしょう? 彼の足下の床を見ると,ラインが引っ張ってあると思うんですが,あのロボットはそのラインを見て,それに沿って動いていきます。自律していろいろなことをしますので,充電してある電池が切れかけると,自分で『受電スタンド』に行って充電して,また動き出すんですよ。賢いでしょう?」 すごいすごい! それだったら人間が手を入れなくても,故障しない限りずっと動き続けられますね。自分でご飯を食べるのかー,偉いなー。でも,そんな賢いロボットって,一体いくらくらいするんですか?ベンツとか,買えちゃうくらいなのかな? 「うーん,フェラーリ数台買えちゃうかも……」 またまた,おそれ入りました……。 ●●●液晶の未来と,モノづくりのシャープ!ところで大下さん,これからの「液晶ディスプレイ」ってどうなるんでしょう? 「そうですね。TFTのようにトランジスタを作り込んでいくという技術の延長には,液晶ディスプレイ自体が半導体メモリを兼ねている構造というのも考えられますよね。それがさらに進化したら,液晶ディスプレイ自体がそのままパソコンになることも考えられます。シャープはこれからも『モノづくり』にこだわり続けますので,液晶の進化にはどうぞ期待していてください」 夢は広がりますね! その技術が確立された頃に,また大下さんのところにお伺いして,ぜひお話を聞きたいな,と思いつつ液晶のふるさとシャープ天理工場を後にした私なのでした。 さてさて,5週にわたってお送りしたシャープからの「液晶のつくりかた」,いかがでしたか? 私も,これを読んでくれたあなたも,もう立派な液晶博士です! それでは,来週からもまたいろいろな技術の世界に飛び込んでいきたいと思います。以上「もばいるのつくりかた」でした! [絵本 智,ITmedia] 連載バックナンバー Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved. モバイルショップ
最新スペック搭載ゲームパソコン
最新CPU搭載パソコンはドスパラで!!
FEED BACK |