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災害時における「ケータイ」の可能性を考える(4)小寺信良「ケータイの力学」

音声通話はもちろん、メールやSNS、Webサイトなどのネットサービスが利用でき、ワンセグによるテレビ視聴も可能な携帯電話・スマートフォン。今後の大災害時には“ケータイ”を使った情報収集と情報発信の能力が問われるのは間違いなさそうだ。

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 学校と保護者間の災害時緊急連絡の問題をテーマした番組が、先日放送された。堅い話題にもかかわらず3万人超の方々にご試聴いただき、感謝する次第である。

 さてこれまで災害時における携帯電話の可能性について検討してきたが、まとめると以下のようになるだろう。

  1. 大災害直後は携帯電話網が使えない可能性がある。ワンセグ、ラジオはかなり使える。
  2. 携帯電話網が復旧しても、従来の速度は保証されない。ダウンさせないために、少量パケットで済む方法を工夫する。
  3. 携帯電話網の復旧は、事業者以外にはできない。しかし民間はインターネット網の復旧で貢献できる。

 さてここからは、今後の話をしたいと思う。現在の携帯電話市場は、iPhoneシリーズとGALAXY Sシリーズに牽引されて、スマートフォン化が進むことは明白のようである。スマートフォンの魅力は今更ここで述べることではないが、災害時の用途とという観点でいうと、携帯電話網だけでなくWi-Fi網にも繋がることは大きい。

 もちろん、従来型の携帯電話でもWi-Fiに繋がるものがあるし、携帯ゲーム機も繋がるものが多い。子供には携帯電話を持たせないといった動きもある中で、それらゲーム機が命を救うことになるかもしれない。今回はたまたま学校にいる時間に地震があったので、まだ運がよかっただけだ。

 少なくとも、手持ちの機器がWi-Fiに接続できるならば、接続方法ぐらいは親子で勉強しておくべきだろう。普段、子供がネットに繋いで問題ないようにするのは親の管理責任で行なえばいい話で、ネットに接続すること自体を禁止することはない。

これまで「備え」になかったもの

 ワンセグに関しては、iPhoneのようなグローバルモデルでは搭載しようもないが、日本市場向けにカスタマイズされた端末であれば、対応機種も増えてきている。この中で一つ注意が必要なのは、SIMを抜いたらワンセグが利用禁止となる端末の存在だ。

 災害時に機種変前の古い携帯端末でワンセグを受信できれば、情報入手の手段を持たない周囲の人に貸すことができるわけだが、SIMを抜くとワンセグが見られなくなる端末はけっこうある。

 この機能制限はキャリアの囲い込みの中で生まれてきたもので、放送側の縛りではない。最近ではこの機能制限も減っているという話だが、いまだこのようないわれなき機能制限がある端末は、明示的に避けるべきだろう。

 情報網として、案外携帯電話から遠いサービスが、ラジオである。以前はラジオが受信できる携帯電話が発売されていたこともあったが、あまり普及しなかったようだ。今なら多少事情は違うかもしれない。スマートフォンならradikoやau LISMO WAVEのようなサービスがあるからいいと思われるかもしれないが、これらは携帯電話網やWi-Fi網が生きていないと利用できない。

 車に戻ればラジオが聴けると考えている人もいるかもしれないが、大災害では車が流される、落下物につぶされる、浸水してバッテリーが使えないといったことも起こりうる。あまり全面的に車に依存するのも万全とは言えない。

 JEITAが6月に発表した「民生用電子機器国内出荷実績」によれば、5月にはラジオの出荷が金額ベースで前年同期比223.6%と爆発的な延びを見せている。あきらかにラジオは、緊急時の情報収集手段として見直されてきているということだろう。

 しかしラジオ単体を買っても、なかなか普段から持ち歩かないだろう。普段持ち歩くものとしてならば、ポータブル音楽プレーヤーでラジオチューナー付きのものがあるので、探してみるのもいい。ただしほとんどはFMのみで、AMが受信できるものはあまり見たことがないのが難点だ。

 さらに携帯電話に機能を求めるならば、自分の位置情報を発信する緊急ビーコンのような機能はあってもいい。今回の津波では、難は逃れたものの避難場所から孤立して動けないケースも多かった。この場合、安全な場所が救援隊から発見しやすい場所とは限らない。平時はプライバシーの問題と背中合わせになる機能ではあるが、なんとか方法を考えられないものだろうか。

 最終的に災害時に携帯電話を利用する上でもっとも大事なことは、常時予備バッテリーを携帯することではないかと思う。今回の震災では、データが出ていない、というか取りようもないと思うが、バッテリーの切れ目が生死を分けたケースも相当あるのではないだろうか。少なくとも1回分のフル充電できる程度の予備バッテリーなら、それほど高くもないし、かさばらない。

 次に大災害が起こった時には、文字通り情報サバイバルといった状況になり得る。高い情報アクセス能力が、自分だけでなく周りの大勢の命を救うことになるかもしれない。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は津田大介氏とともにさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社)(amazon.co.jpで購入)。


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