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スマートデバイス時代への備えは万全か――NTTドコモ 山田社長に聞く(前編)(1/2 ページ)

急激に拡大したスマートフォン市場に対して、NTTドコモはどう備え、どのように対応しているのか。山田隆持社長に聞いた。

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 1999年2月のiモード開始をきっかけに、急速な成長・発展を遂げた日本のモバイルIT産業。それが今、新たなきざはしを上がりはじめている。スマートフォンやタブレットなど、モバイル端末は進化・多様化し、従来のケータイコンテンツの世界は、これらスマートデバイス向けのアプリ・コンテンツ市場へと変化しつつある。また、インターネットの“モバイル化”とクラウドサービスの広がりは、新市場・新ビジネスを創出するとともに、爆発的なトラフィック増という問題にもなっている。過去10年に匹敵するほどの変化が、今後2〜3年の短い間で起こるのは間違いない。

 そのような中で、国内最大手のキャリアであるNTTドコモはどのような舵取りをするのか。NTTドコモの山田隆持社長にインタビューを行った。

スマートフォン市場の現況とXiの新料金体系

――(聞き手:神尾寿) スマートフォン市場が急拡大していますが、この市場におけるドコモの現況はいかがでしょうか。

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NTTドコモ代表取締役社長の山田隆持氏

山田隆持氏 4月から6月の第一四半期で129万台を販売しました。2010年度は年間で252万台の販売実績ですので、すでにその半分(の販売台数)を達成していることになります。今年度のスマートフォン目標販売台数は600万台で、それを鑑みると四半期ベースの目標ラインを下回っているように見えますが、我々は年度の後半でぐっと販売台数が伸びるという計画をたてています。ですから、現在の129万台は我々の(第一四半期の)販売計画の数字を上まわっており、年度計画の目標台数600万台を超えるのではないかと見ています。このあたりは第二四半期の結果を見て、好調が続くようでしたら目標販売台数の上方修正をしたいと思っています。

―― 夏商戦のスマートフォンも好調な滑り出しですか。

山田氏 ええ。例えば、「Galaxy S II SC-02C」は発売から10日余りで20万台も売れました。売れているのは海外メーカー製のモデルだけではありません。NECカシオの「MEDIAS WP N-06C」もすでに11万台売れています。「Xperia acro SO-02C」はドコモショップの事前予約分だけで10万台を超えています。家電量販店の予約分は把握できていませんが、それも合わせれば予約だけで17〜18万台になっているでしょう。このように日本メーカーのスマートフォンも好調です。

―― スマートフォンの普及に弾みがつくことはよい傾向ですが、一方で、キャリアから見ると「スマートフォンによるトラフィックの急増」がインフラ負担の増大につながります。ドコモはインフラ力の高さが競争優位性の1つなっていますが、昨今のスマートフォンの急速な普及への対策は取れているのでしょうか。

山田氏 結論から言いますと、現時点では(スマートフォンによるトラフィック急増を)さばききれています。2年ぐらい先までは十分に対応できるでしょう。

 我々は1年先のトラフィック需要を予測してインフラ投資を行っています。その上で2009年から2010年の実績で見ますと、ドコモのインフラ全体のトラフィックは1.7倍に増えています。2010年から2011年にかけては、(1.7倍に増えた)前年のさらに2倍のトラフィック量になると判断し、そのための工事を進めています。ですから昨年比でトラフィックが2倍になっても問題ない。そもそものインフラ側の余力を鑑みますと、(昨年比で)4倍になっても大丈夫だと思っています。

―― とはいえ、現行の3Gインフラでのトラフィック収容は限界があります。

山田氏 そのとおりです。ですからドコモとしては、今後のトラフィック急増に2つのアプローチをいたします。

 1つは「Xi(クロッシィ)」です。こちらの対応端末を増やすとともに、すでに実施しているようにXiでは料金体系でも(トラフィック増への)対策を行います。これをあまり言うと叱られますが、ヘビーユーザーがあまりに多くの通信を行う場合は、それにブレーキがかかるような料金体系にしていきたいと考えています。

―― Xiの料金体系は従来のFOMAのように、「完全定額」になっていませんね。現在はキャンペーン価格で定額ですが、正規の料金プランは5Gバイト以上の利用で段階的に料金が上がる。これは確かにヘビーユーザーの大容量通信を抑制する効果が期待できますが、一方で、料金が青天井なのはユーザーからすると高額請求の不安があります。店頭競争上も不利でしょう。

山田氏 今は確かにキャンペーン価格です。そして、私どももお客さまの声を聞いていくと、「やはりフラット(定額制)の方がいい。段階的に料金が上がるのは不安だ」という声が多い。

 そこで今、我々が検討しているのが、データ通信の利用量が一定の閾値をこえたら、“通信速度は遅くなるけれども、料金は定額のまま”という料金プランです。

―― そちらの方が使いやすいですね。

山田氏 そうでしょう。しかも、(Xiで検討中の)新料金プランは1カ月単位での利用量を見ますので、月末頃に上限に到達しても数日間がまんしたら、(翌月になれば)元のスピードで使える。もしくは速度制限された月内にやはり高速通信をしたいということでしたら、追加料金を支払っていただく、といった形でお客さまが選択できるようにしたい。

 また、現在は5Gバイトとなっている閾値そのものも、スマートフォンやノートPCでの利用実態に沿ったものに見直します。

ドコモの「オフロード戦略」と、今後の課題

―― スマートフォンなどによるトラフィック急増に、まずはXiの普及と移行促進で対応する。これが“1つめ”の対策とすると、もう1つは何でしょうか。

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Wi-Fiへのオフロードとフェムトセルの設置を進める必要があると山田氏

山田氏 データ通信のオフロードです。まずWi-Fiへのオフロードという点では、ドコモはNTT-BPと提携して公衆無線LANアクセスを展開しています。ですから、NTT-BPにスポットエリアを積極的に増やしてもらうよう依頼しています。

 あと、オフロード戦略のもう1つの要がフェムトセルです。今後は、ヘビーユーザーのお客さまには、私どもの方から「フェムトセルを設置させてください」とお願いしていくことを考えています。

―― フェムトセルについては、屋外基地局との干渉の恐れがあることから、これまでドコモはその展開に消極的だったと認識しています。マンションの高層階など不感地対策にしぼって展開していたわけですが、その方針が変わる、ということでしょうか。

山田氏 ええ。今のフェムトセルのサービスは不感地対策の有料のものですが、今後のヘビーユーザー対策では無料のものを作って、我々の方から「フェムトセルを設置させてください」とお願いします。こうすることでヘビーユーザーのお客さまはフェムトセルを使って高速にデータ通信ができますし、我々は(ヘビーユーザーのトラフィックを)固定網にオフロードできます。

―― ホームユーザーのデータトラフィックは、Wi-Fiではなくフェムトに流す、という方針なのでしょうか。

山田氏 もちろん、Wi-Fiでもいいと思いますよ。そういう意味では、Wi-Fiとフェムトセルのどちらを使って固定網にオフロードするかは、最終的にはお客さまが判断することになるでしょう。

―― なるほど。ドコモからヘビーユーザーに設置提案するのはフェムトセルですが、ユーザー自身がWi-Fiを使ったオフロードをするのはウェルカムなわけですね。

 ところで、“家庭内のトラフィックを固定網に流す”ことは、今後のモバイルキャリアの至上命題になります。モバイル通信と固定通信の両方のサービスを持つ「総合通信キャリア」である重要性が高まっており、この流れは世界中のオペレーターに広がっています。日本市場で見ても、ドコモのライバルであるKDDIやソフトバンクは総合通信キャリアであり、ドコモだけがNTT法による規制で総合通信キャリアになれない状況にある。モバイルと固定網の一体的なサービス・料金プランを作れないことは、ドコモにとって不利な要因だと思うのですが、いかがでしょうか。

山田氏 原点に立ち返れば不利ですよね。現時点では、(フェムトセルでも)NTT東西の設備を使わせていただかなければならないということになり、自前の設備ではない分、他社より不利な面はあります。このあたりは何とかやっていかなければならないと思っています。

―― モバイル通信キャリアが固定網のサービスを取り込むことはグローバル市場での潮流です。それにドコモだけ時代遅れの規制で“乗れない”ことは、ドコモのビジネスにとって不利なのはもちろんですが、長い目で見たときには日本市場のイノベーションや一般ユーザーにとっても不利益な部分があるように思うのですが……。

山田氏 それを声を大にして言っていただきたいですね(笑)

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