「Ice Cream Sandwich」のチラ見せも――ジョン・ラーゲリン氏が語るAndroidの展望:Google mobile revolution
2008年に世界初のAndroid端末が発売されて以来、全世界でそのシェアを伸ばしてきたAndroid。新OS「Ice Cream Sandwich」では何が変わるのか。バージョンアップに対する考えは。アプリのセキュリティ面への配慮はあるのか。ジョン・ラーゲリン氏が説明した。
グーグルが7月19日、アジア太平洋地域の記者を対象とした「Google mobile revolution」を開催し、同社のモバイル事業に関する戦略を明かした。
その中の基調講演で、Android グローバルパートナーシップディレクターのジョン・ラーゲリン(John Lagerling)氏が「Androidの過去、現在そして未来」と題してAndroidの展望を説明した。ラーゲリン氏はアジア太平洋圏におけるグーグルのモバイル事業を統括し、NTTドコモやKDDIなどのキャリアや端末メーカーとの提携に尽力。NTTドコモに5年間勤めた経歴もあり、日本のケータイ事情にも造詣が深い。基調講演後には他の日本メディアと合同でラーゲリン氏と話す機会を得たので、そこで聞いた、同氏のAndroidや日本市場に対する考えや戦略もリポートしたい。
Androidの中核を担う機能は初期からあった
55万台のAndroid端末が毎日開通している――。ラーゲリン氏はAndroidがシェアを伸ばしている現状を説明する。「ユーザーが(OSの1つとして)Androidを選択できる環境が整ってきた。もちろんこれはグーグルだけの功績ではなく、エコシステムの一環でいろいろなプレーヤーが参加していることが大きい」
ラーゲリン氏は、世界初のAndroid搭載スマートフォン「T-Mobile G1」を取り出し、Androidの仕様について言及。T-Mobile G1は2008年に発売されたモデルだが、「通知バーやウィジェット、パワフルなブラウザ、アプリなど、Androidの中核を担う機能はすでに存在していた」(ラーゲリン氏)ことから、Androidの骨組みは当初から固まっていたことがうかがえる。同氏はAndroidのイメージとして、きれいに統合されたUIやマルチタスキングがあるとし、それらはHoneycomb(Android 3.0)でも生かされていると実感している。
日本でも「HT-03A」を皮切りに多種多様なAndroid端末が発売されたが、国や地域に合わせてカスタマイズできるのもAndroidのメリットだ。ラーゲリン氏が「この電話機はAndroidです」と言いながら取り出したのは、シャープ製のテンキー付きの折りたたみ端末「AQUOS PHONE THE HYBRID 007SH」。「日本のユーザーはシェルタイプのケータイが好きだから、このような端末が発売された。GALAXY S IIなど、日本のネットワークで稼働するグローバル発のモデルもある」(ラーゲリン氏)
ウイルス入りアプリを排除する措置も実施
Androidを語る上で外せないのがアプリだ。日本でのAndroid マーケットへのアプリ配信数は世界2位で、コンテンツプロバイダーもAndroidアプリの開発に注力し始めた。一方でAndroid マーケットは「目当てのアプリを探しにくい」「UIが分かりにくい」といった不満点もあり、ラーゲリン氏も「反省点や間に合っていなかったことがあった」と振り返る。そこで、リニューアルしたAndroid マーケットでは検索アルゴリズムを大きく改善し、いろいろなカテゴリからアプリを見つけやすくなるようUIも改善したという。
さらに、日本市場に合わせてアプリ内課金や月額モデルも展開する見通し。「コンテンツプロバイダーは日本で成功しないと世界でも成功できないので、Androidアプリの開発は重要な手段。ようやく日本のニーズを取り入れる段階になってきた」(ラーゲリン氏)
Android マーケットでは基本的に誰もが自由にアプリを配信できることから、セキュリティを脅かすウイルスの存在を危惧する声も多い。この点についてラーゲリン氏は「Androidにおけるウイルスの被害は実際のところものすごく少ないが、大きく見せるとメリットがあるプレーヤーもいる。エンドユーザーを怖がらせて無理に(ウイルスソフトを)買わせることは控えたい」と話す。
「とはいえ、たまに悪さをする人もいるので、ウイルスが混入したアプリを多くのユーザーがダウンロードするといった緊急事態が発生した場合、アプリを削除する手段も持っている。これは実際に米国で行っていること。良質なアプリを真似してウイルス付きで再アップロードし、何百人がダウンロードしたので、アプリの配信を停止した。このように、アンチウイルスソフトをインストールしなくても、気持ちよくアプリを使ってもらえる環境はそろってきている」と、ユーザーを守る対策を講じていることを力説した。
新OS「Ice Cream Sandwich」の機能をデモ
OSが速いスピードでバージョンアップするのもAndroidの特長だ。「Google全体のルーツはWebにあり、エンジニアはスピーディなイノベーション(革命)にも慣れている。我々は6カ月に1回、最新のAndroid OSをリリースしてきた。ネットワークと連携したデバイスなので、より早く新しいOSをリリースできるので、迅速なデバイスの最適化が可能だ」とラーゲリン氏は説明し、Webとの親和性が高いメリットが生かされていることを強調した。
ただ、日本ではOSバージョンアップをするために端末とPCを接続する必要がある場合が多いが、海外では珍しいという。「OSの設計上は通信だけでもバージョンアップできるようにしている。ケーブルを付けてバージョンアップするというのはほとんど聞かない」(ラーゲリン氏)とのことなので、今後の改善に期待したい。
Android OSのコードネームがお菓子の名前に由来しており、頭文字のアルファベット順に「Cupcake(1.5)」「Donut(1.6)」「Eclair(2.0/2.1)」「Froyo(2.2)」「Gingerbread(2.3)」「Honeycomb(3.0)」と進化してきた。中でも「Eclairは大きな転換期だった」とラーゲリン氏は振り返る。これらの進化を経てグーグルが提供する新しいバージョンが「Ice Cream Sandwich(アイスクリームサンドウィッチ)」だ。「すべてのイノベーションが詰まっている」と同氏が話す最新版のAndroidは、スマートフォンやタブレットといった端末の種類を問わず動作し、Android 3.0で取り入れたホログラフィックUI、より高性能なマルチタスキング、リッチなウィジェットなどが搭載される。
Ice Cream Sandwichの新機能の1つとして、ラーゲリン氏はインカメラを利用したトラッキング機能を紹介。カメラがとらえた頭の位置を判別し、頭の動きに応じて画面に表示されたイラストを回転したり、地図やブラウザをスクロールしたりといった操作が可能になる。つまり、指を使わずにスマートフォンやタブレットを操作できるわけだ。さらに、インカメラがとらえた人物のうち、口の動きを判別して、発言をした人の顔を自動でクローズアップする「バーチャルカメラマン」や、インカメラに写った顔のパーツを加工する機能も紹介された。前者はテレビ会議をする際、後者は友達とビデオチャットをするときに使えそうだ。デモは「MOTOROLA XOOM」に専用アプリを入れて実施しており、ハードウェア(カメラ)に特別な実装は必要ないとのこと。
スマホとタブレットのUIやバージョンは共通化する
デバイスを問わず搭載できるIce Cream Sandwichは、実際にどのようなUI(ユーザーインタフェース)になるのだろうか。ラーゲリン氏は「言葉で説明をするよりは実物を見せたい」と前置きした上で、ベースはAndroid 3.0になることを示唆した。「ウィジェットはGingerbreadよりもHoneycombの方がパワフル。通知バーに表示された内容もGingerbreadではまとめてクリアする仕様だが、Honeycombなら個別にクリアできる。Honeycombには熟成したUIがたくさんあるので、それらをスマートフォンにも持ち込みたい。完全にそのままHoneycombのUIを移植するわけではないが、Honeycombを使った人なら親しみやすいものになる」
Android 3.0では、アプリやウィジェットを編集する際、上段にページのサムネイル、下段にアプリやウィジェット一覧を表示するなど、7〜10インチの大画面に適したUIが想定されている。こうしたUIを、3〜4インチ程度のスマートフォンでどのように最適化するのかは気になるところ。ラーゲリン氏の言う「イノベーション」の中身に期待したい。また、Android 3.0ではGoogleの共通UIを採用するメーカーが多いが、「Googleが強制しているわけではない。(ホーム画面の)UIはアプリとしても配信されているし、さまざまなバリエーションがある。Acerや東芝など面白い発想をしているメーカーも多く、ユーザーはUIを選択できる」とした。
現在、Androidのバージョンはスマートフォンが2.x、タブレットが(一部を除き)3.xを採用しているが、Ice Cream Sandwichではこうしたバージョン差はなくなる。「4.0なのか5.0なのかは未定」(ラーゲリン氏)だが、画面サイズの違いを除けば、UIから得られる体験はスマートフォンもタブレットも違いはなくなると考えてよさそうだ。なお、既存のAndroid端末をIce Cream Sandwichにバージョンアップできるかは端末のスペックに依存する。「ハードウェアが十分なスペックを持っているか。メーカーが移植してくれるのか。強くお願いはしているが、グーグルに決定権はない。キャリアとメーカーが協議して決めること」(ラーゲリン氏)
1機種あたりの寿命は18カ月
Ice Cream SandwichでAndroid OSは新しいフェーズに入るが、今後もバージョンアップがスローダウンしそうな様子はないという。「やりたいことはたくさんあるので、リストを作って優先順位を決めている」とラーゲリン氏は話す。OSのバージョンアップによって端末が進化していくのはユーザーにとっては喜ばしいが、メーカーやキャリアの負担はその分増えることになる。だがラーゲリン氏は、ソフトウェア更新に対する考え方が変わりつつあると考える。
「今までの携帯電話では、1度ソフトウェアを作ったらよほどのエラーがない限りは直さなかったが、世界観が変わってきた。メーカーは端末を売った後でもお客さんをサポートしないといけないが、2011年からは改善されたと感じている。例えば、Sony Ericssonが今年発売したAndroid端末はすべて2.3を採用している。グーグルとしても、もう少し早くから情報を開示して、メーカーと緊密に付き合っていきたい。既存端末のバージョンアップの速度が上がるようにしたい」
バージョンアップをする際の1つの指標となるのが端末の「寿命」だという。ラーゲリン氏は、1機種の寿命は「できれば18カ月にしたい」と話す。「この18カ月の間にどれだけ新しいものを提供できるか。メーカー、キャリアと一緒にコミットしていきたい」とした。
Androidの普及がさらに加速することで、「1〜2年後はスマートフォンという呼び方がなくなっているのでは」とラーゲリン氏はみる。「Androidはモダンなスマートフォンの唯一のOSになるだろう。今までフィーチャーフォンを作っていたメーカーもスマートフォン製造にシフトしてきているので、価格が下がり、使い勝手も良くなっていくだろう。開発者、キャリア、メーカーにとっても大きな機会が生まれている」と期待を込めた。
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