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KDDIの新型iPhone販売にまつわる“スクープ騒ぎ”を読み解く本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/2 ページ)

9月22日に日経ビジネスオンラインが「KDDIが新型iPhoneを販売する」と報じ、新聞各社もそれを追いかける形で一斉にそのことを報道した。AppleやKDDIは「ノーコメント」を貫いているが、いずれソフトバンク以外からiPhoneが販売されることは予想されていた。むしろこれと連動して変化するさまざまな事象に目を向けていく必要がある。

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 9月22日夜から、KDDIにはひっきりなしに問い合わせがあるという。同社広報部は「ノーコメントと何度答えたことか」と話した。もちろん、「KDDIが新型iPhoneを販売する」と報道した日経ビジネスオンラインの記事が広まったためだ。各社が秋冬の新モデル発表会を控え、新型iPhoneが例年より遅れて発表される直前というタイミングでの、“KDDIによるiPhone発売”というニュースに、スマートフォンを取り巻くコミュニティは上を下への大騒ぎになった。

 筆者も23日に行った講演の内容に、このニュースを織り込む作業に追われたが、具体的な情報をつかんでいない報道陣は、もっと慌てていたはずだ。というのも、KDDIがiPhoneを端末ラインアップに入れてくるという話は、この業界をウォッチしている記者の間では“既定路線”と考えられていたからだ。

 あとは、いつ発売されるか? というタイミングだけ。そのタイミングがいつなのか、問題はそこだけだと考えていた。今回の日経ビジネスオンラインの記事に関しても、“KDDIが新型iPhoneを発売する”という部分には、ほとんどの記者や関係者が驚かなかったはずだ。驚いたのは“11月発売”という部分である。

 これまた業界内のゆるやかな共通認識として、“新型が出てから数カ月は、KDDIがiPhoneを発売することはないだろう”という認識もあったため、このタイミングでの報道に、慌てて記事を出したというのが真相といったところだろう。

 Windows Phone 7.5を採用する「Windows Phone IS12T」向けには、現在auのSMS、MMSサービス(CメールとEメール)が提供されていないが、これが実現するタイミングが、Cメールの仕様変更が行われる来年1月に予定されているということを考えれば、次期iPhoneもそれ以降に発売されると考える方が合理的だ。さらにAppleのパートナー企業など、周辺から漏れ伝わるiPhoneの2012年モデル(これは2機種に枝分かれするとの見方もある)の発売が、今年よりも早い6月と囁かれていることも考え合わせると、KDDIはCメールの仕様変更の準備が整い次第にiPhoneを発売しようとするのではないだろうか。このようにいくつかの状況証拠は11月発売ではなく“2012年1〜3月期”の発売を示している。

キャリアを増やさなければiPhoneの存在感は落ち続ける

 もっとも、いつKDDIからiPhoneが発売されるかは大事の前の小事だ。そのうち発売されるというのは、誰もが予想してきたことである。これまでソフトバンクモバイルが独占的に販売してきたiPhoneが、他社からも発売されるようになった経緯についてはさまざまな推測がされているが、この点において“ウェット”なメロドラマは完全に無視していい。これは純粋にビジネスの話だ。

 もともと、1カ国あたり1携帯電話事業者でiPhoneのビジネスを始めた背景には、iPhoneという商品が、それまでの携帯電話と大きく異なる特徴を持っていたことがある。携帯電話事業者と協業する上でも、商品の理解や認知を得ていく上でも、1つの事業者と綿密な関係を結んでいった方が、黎明期には利点が大きかった。

 しかし、iPhoneだけでなく、スマートフォンと呼ばれる新しいタイプの携帯端末は、今やすっかり市民権を得て世の中に定着しはじめた。スマートフォンの販売比率が、全端末の半分を超えた2011年、年末にはIP接続端末の大部分がスマートフォンになっていくのは間違いない。

 ソフトバンクモバイルはiPhoneの販売数を個別に発表していないが、同社が目標としている今年度のiPhoneの販売台数は450万台以上と聞いている。このうち60%以上が新規契約の見積もりだ。この450万台以上という数字が、いかに大きなものかは各社が掲げる今年度のスマートフォンの販売目標と比べれば分かる。NTTドコモの販売目標は600万台、KDDIは400万台(2011年春の時点での数字)だ。

 スマートフォンの販売がその後、さらに加速していることを勘案したとしても、iPhone単体で450万台というのは、国内市場を見るとかなり大きな数字だ。再三の3Gネットワーク強化をアナウンスしながら、トラフィック緩和どころか、日に日に都市部で接続しにくさが増しているソフトバンクモバイルのネットワーク基盤を考慮すれば、いかにiPhoneが魅力的な端末だとしても、これ以上に数字を伸ばしていくことは容易ではない。

 実際、右肩上がりを続けてきたiPhoneの売上げも、ここ数カ月はほとんど変化がなくなってきている。モデル末期でも市場拡大とともに売れ続けてきたのが、これまでのiPhoneだった。これはiPhone 4導入の際から指摘され続けてきたことだが、AppleがさらにiPhoneの売上を伸ばしたいと考えるならば、対応する通信事業者を増やす以外に方法はない。

 これは別の側面から見ても明らかだ。通常の携帯電話端末に比べ、15〜20倍のデータ通信を行うスマートフォンは、3Gネットワーク構築時の想定をはるかに上回るトラフィックを生む。同じエリアに共存できる端末数の上限も、当然に頭を抑えられてしまう。人口密集地で基地局密度を上げるのにも限界はあるわけで、通信方式の技術的な世代と割り当て周波数帯域で通信容量は自ずと決まる。

 現在、携帯電話事業者は3Gネットワークのさらなる強化と4Gネットワークの整備に懸命に取り組んでいるが、この2つの世代がバトンタッチできるとは到底思えない。想定外のトラフィック増加だからだ。iPhoneがその数を増やしていくには、別の周波数を持っているソフトバンク以外の携帯電話事業者でもiPhoneを使えるようにしていかねば、iPhoneユーザーを増やしていけないことは自明だ。

 そこを販売戦略でごり押しし、ネットワークの改善・整備、固定回線へのトラフィックオフロードなどがiPhone販売によるトラフィック増加に追いつけないようだと、ユーザーからの悪評は携帯電話事業者を経由し、Appleにまで降りかかりかねない。

 iPhoneは人気製品なので、どこの携帯電話事業者も扱いたいはずだ。だからこそ、どこがAppleの厳しい条件を呑むのか、という話題が取り沙汰されがちだ。しかし、そのような一方的な話ではなく、携帯電話事業者を増やさねばならない状況にApple自身も置かれていたのだ。

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