新iPadのインパクト/auスマパス強化の狙い/iPhone効果が現れたドコモ:石野純也のMobile Eye(10月15日〜10月25日)(1/3 ページ)
各社の冬モデル発売が相次ぐ中、Appleが「iPad Air」と「iPad mini Retinaディスプレイモデル」を発表。これら2機種はどれだけのインパクトがあるのか。このほか、KDDIが発表したauスマートパスの新戦略や、ドコモの決算会見について取り上げる。
キャリアの冬春商戦に向けたラインアップの発表も終わり、これらが続々と発売されている10月15日から25日の2週間。そんな中、Appleは、薄型化・軽量化を追求した「iPad Air」と、ディスプレイをRetina化した「iPad mini Retinaディスプレイモデル」を発表した。上位レイヤーとも言えるコンテンツでは、24日にKDDIがお披露目した「auスマートパス」の新戦略が目を引いた。auスマートパスはすでに800万の会員を集めており、ここで得た原資をクーポンなどの形でユーザーに還元していく。また、25日にはドコモが決算会見を行い、iPhoneの販売状況や、冬春商戦の緒戦の結果などが明らかになった。今回の連載では、これら3本ニュースを取り上げ、背景を解説していきたい。
10インチクラスで世界最軽量の「iPad Air」と、解像度を大きく上げた「iPad mini」
iPadでタブレットという新たな分野を切り開いてきたApple。数の上ではAndroid陣営に差をつけられたスマートフォンとは異なり、シェアは依然としてトップを維持している。とは言え、以前とは異なり世界シェアを見ると、徐々にパイを奪われつつある。また、Appleが主戦場としてきた10インチ(iPadは9.7インチ)から、タブレットのトレンドは7インチ台のコンパクトなモデルに移ってきた。この分野は、Googleの「Nexus 7」や、Samsungの「GALAXY Tab」、Amazonの「Kindle」などライバルも多く、Appleは2012年に7.9インチの「iPad mini」で参入したばかりだ。こうした激戦とも言えるタブレット市場で、開拓者のAppleはiPadのフルモデルチェンジを発表した。
1つ目が、歴代iPadはもちろん、「世界で最も軽いフルサイズタブレット」(ワールドワイドマーケティング担当シニアバイスプレジデント フィリップ・シラー氏)となる、「iPad Air」だ。その重量はちょうど1ポンド。メートル・グラム法に従うと469グラム(Wi-Fiモデル、以下同)となる。これまでのiPadは確かにパワフルで、同社のCEO ティム・クック氏が「ほかのタブレットのようにスマートフォン用アプリを引き伸ばしただけのアプリではない、専用のものが豊富にある」と言うように、エコシステムもうまく回っていた。iPad専用アプリの数は4万7500におよび、この数値は競合のプラットフォームを大きく引き離している。実際、Appleが言うようにiPadシリーズの満足度は各種調査でも非常に高い。
一方で、大きな弱点と言えたのが重量だった。タブレットというジャンルを切り開いた初代iPadの重さは680グラム。故スティーブ・ジョブズ氏はこのiPadをソファに座って操作し、見た人に利用シーンを印象づけていたが、逆にその重さがゆえに外に持ち出して使うのが少々厳しい印象だった。2世代目となる「iPad 2」は軽量化に成功し601グラムとなったが、Retinaディスプレイを搭載した「第3世代iPad」(新しいiPad)では消費電力の増加に伴いバッテリーを大型化したことで重さが650グラムになってしまった。第3世代iPadからCPUや端子を変えたマイナーチェンジモデルの第4世代iPadも、重さは第3世代とほぼ同じ652グラムだった。
ここから一気に約3割となる183グラムも重量を下げ、しかもデザインをiPad miniと同じテイストに仕立てあげたのがiPad Airだ。薄くてスタイリッシュな「MacBook」として人気を博した「Air」の名を冠していることからも、Appleの自信がうかがえる。469グラムという数値は、10インチクラスのタブレットとしては驚くような軽さを誇った「Xperia Tablet Z」の495グラムを下回る。また、軽量化と同時に薄型化も行っているのが、このモデルの特徴だ。Appleによると、ディスプレイやタッチセンサー、基板など、すべてを少しずつ削ったことで7.5ミリという薄さを実現できたという。
当然、その過程で第3世代や第4世代iPadの重量の原因となっていたバッテリーも減らしている。トレードオフとして駆動時間が短くなりそうだが、iPhone 5sと同じ64ビットの「A7チップ」と「M7モーションコプロセッサ」を採用し、処理にかかる電力を低下させた。そのうえで、おそらくディスプレイの省電力化も図っているはずだ。
183グラム、約3割の軽量化と数値で説明してもピンとこないかもしれないが、実際に手に取ってみると数値から受ける印象以上に軽さを感じられる。感覚的には「半分ぐらいの重さになったのでは?」と思ったのが、筆者の偽らざる印象だ。実際重さを試すため、あえて指でつまんで持ってみたが、iPad Airなら軽々と支えられた。第4世代iPadだと、背面がラウンドしていることも相まって、すぐに落としてしまいそうになる。ここまで軽くなると、用途の幅も広がりそうだ。例えば、今までのiPadは、ベッドで寝ながら使うのは少々大変だった。片手で持てないことはないが、しばらく使っているとかなり腕が疲れてしまう。寝ころびながら動画を見るのは、体勢を変えるなどの工夫が必要だった。
また、外に持ち出して使うのも、この重さなら現実的になる。片手でやすやすと支えられるため、混雑していなければ電車のつり革につかまりながら使うこともできるだろう。7インチ台のタブレットに押されがちだった10インチ前後のタブレットだが、ここまで軽量で持ち運びやすくなれば、人気が再燃するかもしれない。特にこのセグメントに強いAppleにとっての強力な武器にもなりそうだ。今まで7:3や8:2と言われていた、セルラー版とWi-Fi版の比率も変わってくるかもしれない。もちろん、セルラー版のハードルの高さは、端末の重さだけではない。キャリアが気軽に使えるの料金プランを整備することも必要だ。その意味で、28日の週に発表されるとみられる2社の料金プランにも注目したい。KDDIは9月に発表した「シェアプラン」をしっかりアピールしていく必要があるだろう。
重さと薄さで9.7インチiPadを刷新したのに対し、iPad miniはディスプレイのRetina化を行いユーザーの期待に応えたタブレットと言えるだろう。2012年に発売された「iPad mini」はスペック的には2世代前のiPad 2に近く、やや非力な印象も受けたが、Retinaディスプレイモデルではそれも改善されている。iPad Airと同じ「A7チップ」と「M7モーションコプロセッサ」を搭載。
ディスプレイのサイズこそ違えど、中身はiPad Airとほぼ同じだ。7.9インチとディスプレイが小さいぶん、ピクセルの密度は上がり、タブレットながら326ppiとなった。初代iPad miniは軽量で片手持ちもしやすいサイズ感だったが、その分、ディスプレイの粗さが目立ち、CPUやメモリのパワーも不足していたため、最新のスペックに合わせたアプリがどうしても遅くなりがちだった。こうした弱点が、Retinaディスプレイモデルではほぼ解消されたわけだ。9.7インチとの違いも少なくなり、ユーザーは純粋にサイズや用途でどちらかを選べるにようになった。
ただし、Retinaディスプレイを搭載した代償として、バッテリーを増やさざるをえず、結果として331グラムと、重量は前iPad miniの308グラムから上がってしまった。厚さが0.3ミリ増しているのも、先代との違いと言えるだろう。こうしたスペックアップを図ったゆえに、価格はWi-Fiモデルで4万1900円と、iPad miniより高価になってしまったのも気になるところだ。高い質感や先に挙げたようなiPadならではのエコシステムはほかのタブレットにない特徴だが、競合製品は3万円前後で販売されている。7インチ台のタブレットはNexus 7が低価格を武器にシェアを広げているほか、「Kindle fire HDX」も非常に安価でディスプレイの解像度も高い。Apple製品ならではのプレミアム感で、こうした競合とどこまで戦っていけるのかは注目しておきたい。
なお、iPhone 5s、5cからApple製品の取り扱いを開始したドコモだったが、今回は対応キャリアに挙がっていなかった。これについて同社の代表取締役社長 加藤薫氏は「魅力的なパッドだと思っている。社内でも検討中」と導入に前向きな姿勢を示している。「なかなか答えが難しい。いい端末だが、導入にはなかなか時間がかかる」というのが、その理由だ。発売はしたいが、今はできない。そんな状況と言えるだろう。ただ、2社に遅れて取り扱いを始める可能性もありそうだ。
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