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インタビュー

イオンのスマホ、音声プラン、SIMロック解除――福田氏が語る 日本通信の戦略とMVNOの課題MVNOに聞く(1/2 ページ)

MVNOの老舗ともいえる日本通信は、これまでにさまざまな通信サービスを提供してきた。現在は多数のMVNOが参入し、総務省がSIMロック解除の方針を打ち出すなど、日本通信の参入当初から状況が大きく変わってきている。日本通信は現在のMVNO市場をどうみているのだろうか。

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 「格安SIM」や「格安スマホ」というキーワードが話題を集めるなか、MVNOの老舗とも呼べる日本通信もさまざまなサービスを世に送り出している。最近では、SIMカードの単体提供にとどまらず、イオンとタッグを組み、「Nexus 4」とSIMカードをセットにして販売したことが記憶に新しい。ヨドバシカメラで実施されたSIMフリー端末とSIMカードのセット販売にも、同社が一役買っている。

 ただ、こうしたサービス提供事業者としての日本通信は、あくまで同社の一側面でしかない。同社は既存の制度や通信事業者に対しても激しく“異議”を唱えることでも有名だ。今では当たり前になっているMNOへのデータ通信の「接続」も、日本通信がさまざまな戦いを経て勝ち取ってきた方式の1つ。直近では17日に、ドコモに対して音声通話の接続も申し入れている。

 このように国や他社を巻き込んだ激しい交渉の仕方についてはさまざまな意見があり、「パフォーマンスだ」「他社に便乗している」などと批判する人も確かにいる。一方で、それによってMVNOという仕組みが前に進み、徐々に一般層に定着してきたのも事実。MVNOのビジネスについても、老舗だけに他社が着手していない新しい取り組みが目立つ。少なくとも、MVNOの先駆け的な存在と言っても過言ではないだろう。

 その日本通信の代表取締役副社長 福田尚久氏に、同社の目指す方向や、現状の制度の問題点を聞いた。

3社の新料金プランが一緒なのは「ちょっとおかしい」

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日本通信 代表取締役副社長 福田尚久氏

―― 日本通信は、早くからMVNOを事業化してきました。ここ最近「格安SIM」「格安スマホ」というキーワードが一般的になりましたが、その日本通信からは今の市場がどのように見えますか。

福田氏 三田(社長)が日本通信を創業してから、今19年目に入っています。当初からこの会社はMVNOをやるために作られました。それが市場として広がっているのは、うれしいことですね。

 MVNOには、2つのファクターで意義があります。1つ目は、サービス競争の促進です。携帯電話業界は設備投資に何十兆円ものコストがかかる業界で、どうしても寡占化が進みます。ほかの国を見ても、せいぜい(日本と同じ)3〜4社です。日本でも、日本通信が創業したときは、50数社の携帯電話会社がありました。地域ごとに通信事業者が分かれていましたからね。それが徐々に統合され、4社になっています。ただし、そうなると、サービス競争がなかなか起きません。実際に、今でも3社の料金プラン(音声定額の新料金プラン)はみんな一緒です。あれはやはり、ちょっとおかしいという思いがあります。

 もう1つの側面が、サービスの多様化です。モバイルといえば昔は携帯電話でしたが、今はインターネットが中心です。インターネットになると、1人ずつの使い方が違ってきます。それぞれのニーズが異なるからです。その異なるニーズに対して、数社でサービスを満たせるわけがありません。対応しようと思うと、どうしてもサービス事業者がたくさん必要になります。それがMVNOで、ようやく世間的にも認識されてきたということだと思います。

―― 一方で、MNOの接続料がカッチリと決まっている中で、MVNOの料金も1Gバイト、900円前後で横並びになりつつあります。次のステップとして、MVNO、そして日本通信はどのように差別化していくのでしょうか。

福田氏 MVNOのSIMは現在100万加入ぐらいです。これが1000万、市場全体で言うと7%ぐらいまで伸びるのが1つのしきい値だと思っています。そこに行くまでに何が必要か。SIMカードだけを一生懸命売っていても、絶対に到達できません。SIMカードは、あくまで(携帯電話の)部品の1つですからね。ほかの産業を見ても、部品だけでそんなに成長しているものはない。つまり、完成品を提供する必要があります。

 イオンさんとNexus 4を2980円で出したのも、そのような仮説があったからです。実際、Nexus 4を販売してみて、その仮説が合っていることが分かりました。8000台という数は全体からしてみれば小さいものかもしれませんが、顧客層が今までとまったく違いました。

 SIMカードという部品をアピールできるのは、秋葉原にいるような20〜30代の男性ですが、イオンのNexus 4の場合は8割以上が40代以上です。男女比もSIMカード単品だと15%なのに対して、Nexus 4のセットでは4割ぐらいになっています。4割が女性というのは、携帯電話全体とそこまで変わらないのではないでしょうか。地域分布もそうです。SIMカードはとにかく東京と大阪。大都市中心でしたが、イオンは地方にもバラけていて、人口分布に近くなっています。

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「イオンのスマートフォン」

 ですから、今一番進めなければいけないことが、完成品にすること。完成品といっても、単にセットして売るのは1つ目のステップで、その後の展開も必要です。その1つが、ヨドバシさんが始めた(SIMフリーの)端末を選べて、分割払いが選べるというものになります。セットアップサービスもいっぱい用意していて、例えばこのアカウントなら2000円、これが1000円とういようにサポートしています。これが地味なようで非常に重要で、最初の入口からきちんと使えるようにしてあげることを、丁寧にやる必要があります。

 次の段階としては、ウェアラブルなど、スマートフォンとは全然違う製品があると思います。もっともっと仕掛けられるか。これが重要になると思います。

 ただし、仕掛けるといってもあくまでうちがハードウェアを作るわけではありません。今までの携帯電話事業者は垂直統合で全部をやってきましたが、私たちが目指しているのは水平分業型です。販売には販売の方々がいて、うちはうちでいて、メーカーさんがいろいろなものを作ってくる。切磋琢磨(せっさたくま)で競争すると、今までとは違う形のデバイスも出てきます。そういった意味では、これが本当のサービス競争だと思っていますし、質問にお答えすると、SIMカードの料金プランがサービス競争だとはそもそも思っていません。確かに格安SIM、格安スマホは重要で、それも1つの差別化の形ではありますが、あくまで「one of them」ということです。

「接続」の方が安心して参入できる

―― 料金については、接続の制度で自由度が出ないという意見もあります。また、ドコモからは、接続という制度そのものを見直したいという声も出ています。こうした意見については、いかがでしょうか。MVNOの中にも、賛否両論あるようですが……。

福田氏 (MVNOの中に)賛成の声があるのは、そもそもこの制度の意義を分かってないからではないでしょうか。もともと日本通信は、ウィルコムさんと卸契約でやっていましたが、その結果、これはまずいと思い接続にした経緯があります。卸は1回契約すると見直しの義務がなく、現実問題として当初に契約した8Mbps、3000万円程度の料金をずっと払い続けてきました。交渉をしても、全然変わらない。通信事業者はユーザーへの料金を下げていますが、仕入れ額が変わらないと勝負になりません。

 一方で、接続は、原価+適正利潤が法律で担保されています。これがあれば、将来にわたって安心して参入することができます。接続と卸の両方がある場合、携帯電話事業者は卸に誘導するために接続と条件を同じにしていますが、接続がなくなるとそれ(原価+適正利潤)が止まってしまう可能性もあります。それでいいんですかと聞けば、それは困ると(どのMVNOも)言うはずです。

 2007年の総務大臣裁定があったとき、最後は約1500万円で決着しました。こちらの推定金額は10Mbpsあたり、500〜600万円。一方で、ドコモさんの主張ではそれが2億円ぐらいでした。そのくらい隔たりがある中で、接続のない卸だけにしてしまうと、料金が野放図に上がってしまいます。

Nexus 4は、普通の人が普通に使える端末

―― イオンの件に話を戻すと、発表時に端末がNexus 4だということにまず驚きました。Nexus 4はグローバルでの登場した時点ではいい端末だとは思っていましたが、そこから1年近く経ったあの時点でそこまで売れたのは正直言うと意外でした。

福田氏 あそこでNexus 4にしたのが、いろいろな意味でのミソですね。従来のSIMカードだけを買う方にとっては「1年前の機種」というイメージかもしれませんが、多くの方にとっては、「まさにこれがいい」という端末でした。普通の方が普通に使えるもの。しかも、価格的にはそれなりにインパクトがあるものという点で、いい端末だったと思います。

―― 素のAndroidだと、アップデートが頻繁で、UI(ユーザーインタフェース)も大胆に変わることがあります。初心者が多い中で、クレームなどはなかったのでしょうか。

福田氏 それがほとんどありませんでした。皆さん、単機能で使われるからです。高齢者の方もいますが、一番の使い道は何かというと、お孫さんとの写真のやり取りです。あとは電話としても使いますが、相手は限られています。例えば、うちの社員の70代の親御さんが買うというので理由を尋ねたところ、「LINEがしたいため」でした。

 我々はスマートフォンのさまざまな機能を使っていますが、そうではない方もいるのです。Neuxs 4でも、単機能で使うぶんにはすごく分かりやすい。Webを見るわけでもないので、通信速度も200kbpsで十分です。実際、速度に対する不満の声もそこまではありませんでした。今までスマートフォンを買ってきた50%の人たちは、少しでも安定した、安くて速い回線が必要かもしれませんが、残りの50%はそうではありません。あれも、これもというのではなく、1つ、2つのアプリが使えればいいわけですから、通信速度がどうというよりも、月々その金額ならという方が重要です。Nexus 4に関しては、お子さんが買ってあげたとケースも随分あったようです。先ほどのお話になりますが、そういうものも含めて、これまでの携帯電話事業者だけでは満たされないことがたくさんあります。

―― そういう人にとっては、先ほどご紹介されていたヨドバシカメラのセットアップサービスは、便利なのかもしれませんね。サービスが限られていれば、そこまで料金もかかりませんし、何より既存のキャリアショップだと無料の相談で混みすぎて詳しい人が待たされるという不公平感もあります。

福田氏 週末の昼過ぎに行ったら、夕方の5時ぐらいにまた来てくださいという状況になってますからね。丁寧に1つ1つやっているということはありますが、一方でそれが必要ない方もいます。

 携帯電話事業者が伸びた原動力の1つは確かにショップですが、それが最大の負債にもなっています。成長しているときは、販売拠点がものすごく大事です。ただ、ユーザーも2台目、3台目になってくると、専門性の高いところで手間暇なく買えた方がよくなってきます。成熟したモバイルの世界の中で、販売はどうあるべきかとやってきたのがイオンであり、ヨドバシであり、Amazonなのです。

 設定が分からないからどうにかしてほしいという人には、有料でやっていけばいいと思います。やってもらう方にしても、有料の方が気兼ねなく頼めるということはありますからね。

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