価格競争から広告・コンテンツ連動へ――レンジャーシステム玉井氏が語る今後のMVNOビジネス:ワイヤレスジャパン 2015
価格競争が激化し厳しさを増すMVNOビジネス。だがレンジャーシステムの玉井康裕氏は、今後のMVNOビジネスはネットワークに対価を支払うビジネスから、SIMとコンテンツが連動し、より広い視点で収益を上げるビジネスに変化していくと予想している。
「ワイヤレスジャパン2015」の3日目となる5月29日、MVNOの支援事業を展開するレンジャーシステムの取締役 玉井康裕氏が「これからのMVNOサービスで求められるものとは?」と題した講演を実施。急速に競争が激化するMVNOのビジネスが、今後どのように変化していくのかを解説した。
「レイヤー2接続型」のMVNOが14〜15年に増えている
玉井氏はまず、MVNOの業界に現在起きていることに言及する。5月1日からSIMロック解除が義務化され、端末とネットワークが切り離されるようになったことをきっかけとして、MVNOに参入する企業が大幅に増えたとのこと。また2020年の東京五輪開催に向け訪日外国人が増えており、2020年には年間2500〜3000万に達すると予測されていることから、訪日外国人にSIMを販売しようというMVNOも増えているという。
だが一口にMVNOといっても、その事業形態は2つ存在する。1つは、自社で交換機を持ちキャリアのネットワークとダイレクトに接続してサービスを展開する「レイヤー2接続型」の事業者。そしてもう1つは、レイヤー2接続型事業者のネットワークを再販してサービスを提供する「SIM再販型」の事業者だ。SIM再販型事業者はレイヤー2接続型事業者のネットワークを超えたサービスを提供することはできないため、価格競争に陥りやすい。
そのため、2014年から2015年にかけて、通信インフラを直接持つことで多くのプロフィットが得られる、レイヤー2接続型事業者が増えているとのこと。こうした動きは「今後価格戦略だけで競争を勝ち抜くのが厳しいと感じ始めた証拠ではないか」と、玉井氏は話している。
5Gの世界ではデータ通信でフルセグが視聴できる?
一方、2020年にはLTEの次の世代となる「5G」の通信方式が導入されると見られており、通信速度が理論値で現在の100倍に達することから、「世界が変わる」と玉井氏は話す。その象徴的な事例として玉井氏はテレビの例を挙げ、5Gではワンセグやフルセグを搭載することなく、モバイルのデータ通信でテレビが視聴できる世界が来ると予測している。
現在はモバイル通信サービスで価格競争をしているMVNOだが、5Gに向けた大きな変化を迎えるにあたって、MVNO自体の役割が今後大きく変化すると玉井氏は考える。具体的には、SIMを無料で配信し、特定のコンテンツや広告などへ誘導するなど、「SIMを情報の入口として活用し、通信費自体は実質無料で利用できるサービスが登場してくる」(玉井氏)とのこと。ISPが主役となっている現在とは、MVNOのビジネススタイルが大きく変化すると同氏はみる。
SIMを介してコンテンツをマッチングする企業が増える
それゆえ今後は、通信ビジネス自体に興味はなく、会員基盤と魅力あるコンテンツを持つ企業になり、SIMを介して自社のコンテンツとネットワークをマッチングさせることに注力したMVNOが増えてくると、玉井氏は考えているようだ。そこでレンジャーシステムでは、例えば訪日外国人をターゲットとしたSIMを挿すだけで、特定の観光情報コンテンツに誘導できる「コンテンツ連動型次世代モバイルサービスプラットフォーム」を、東京都の助成事業として開発を進めているという。
中でも玉井氏が注目するのが「テレビ」。現在、民放の地上波テレビ局が無料で視聴できるのは広告モデルを採用しているためだが、5Gの時代になれば、テレビ局がテレビ番組を広告付きでモバイルに配信することにより、広告料でユーザーの高速通信料を負担し無料で番組視聴ができる時代が来る――と同氏は考える。
もっとも、コンテンツとネットワークを連動させたサービスを実現できるのは、レイヤー2接続型の事業者に限られる。だがレイヤー2接続型事業者がSIM再販型事業者に対し、コンテンツや広告との連動などができる、付加価値の高いサービスを提供するようになれば、SIM再販型事業者も多様なサービスが提供できるようになり、付加価値による差別化戦略が一層広がるのではないか――と玉井氏は話す。
上限を超えても条件付きで高速通信が可能に?
現在、MVNOは高速通信容量の大小に応じて料金プランを設定しているが、今後のサービスは上限を超えた後も、自社のアプリや特定のURLだけは高速通信でアクセスできる、低速な料金プランのユーザーも回線が空いている時は高速で利用できる、あるいは広告を見たり、指定のお店に訪れて買い物をしたりすることで高速通信が無料で利用できるなど、高速通信の仕組み自体も多様になってくるのではないかと、玉井氏は予測する。
ユーザーが求めているのは“お仕着せのコンテンツ”ではない
MVNOが現在のような低価格戦略を続けていけば、かつてのISPのように過当競争の上で、合併を繰り返し大幅な業界再編が起きるのは時間の問題だと感じる。それだけに、ネットワークの柔軟性が高いMVNOの特徴を生かしたサービスをいかに提供するかが大きな課題の1つであるし、そこに情報やコンテンツを結び付けることで、ビジネススタイル自体を大きく変えるという発想は非常に面白いと感じる。
だが一方で、現在多くのスマートフォンユーザーが求めているのは、お仕着せのコンテンツではなく、ユーザーが自由にサービスを選んで利用できることでもあり、それがOTTサービスの人気へとつながっているのも事実だ。コンテンツや広告との連動が“押しつけ”感につながれば、サービスが無料であっても利用してもらえない可能性が高まるだけに、コンテンツ連動と自由度のバランスをいかに取っていくかが、こうしたサービスを展開する上では重要になってくるだろう。
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