日本通信がVAIOスマホと格安SIMで大幅赤字を計上――格安スマホは「いつまで経っても儲からないビジネス」なのか:石川温のスマホ業界新聞
日本のMVNO(仮想移動体通信事業者)の草分け的存在である日本通信が、2016年3月期の連結業績見通しを大幅に下方修正した。「格安スマホ」と銘打たれたMVNOサービスは、利益を出すことが困難になってしまったのだろうか。
1月22日、日本通信は2016年3月期の連結業績予想を大幅に下方修正。11億円の黒字としていた営業損益が15億円の赤字になる見通しだと発表した。
この記事について
この記事は、毎週土曜日に配信されているメールマガジン「石川温のスマホ業界新聞」から、一部を転載したものです。今回の記事は2016年1月23日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額540円)の申し込みはこちらから。
格安SIM市場での競争激化が進む中、昨年春に発売した「VAIO Phone」の在庫評価減が影響した。
同社の福田尚久社長は「MVNOで儲かっているところはないのではないか」とぼやく。格安スマホ市場は、参入企業も多く、価格競争も激しいレッドオーシャンとなっている。どんなにユーザーを獲得しても「毎年、接続料が下がり、それによる価格競争が起こる。顧客基盤が増えたところで、規模の経済が全く働かず、儲けが出ない」というのだ。
MVNO以外のビジネスがあり、MVNOは本業に付加価値を与える位置づけにできる企業であれば、利益を度外視して格安スマホサービスを提供できる。しかし、通信サービスが本業となると、厳しい価格競争にさらされるというわけだ。
MVNO市場でのシェアも低下する中、MVNOのパイオニアであった日本通信が選んだのが、「MSEnabler」(モバイル・ソリューション・イネイブラー)へのシフトだ。HRS/HSS機能の解放を視野に、「黒子に徹する」(福田社長)として、法人向け通信事業を主力にしていくという。
MVNO市場は良くも悪くも「格安スマホ」と名付けられた段階で、命運が決まってしまった感がある。
格安スマホと名付けられたことで、注目され、市場が一気に広がったものの、安さを求める人と大量にデータを消費する上級者しかユーザーにならなかった。上級者は、各社が手がけるキャンペーンや料金改定にめざとく反応し、MVNOを短期間で渡り歩く。一方、安さを求める人は頑なに最低料金プランで使い続ける。
様々な属性のユーザーがバランス良く加入していれば、ネットワークの負荷も分散されるが、偏ったユーザーとなるとどうしてもネットワークを効率的に使うのは難しくなる。帯域を借りるとしても無駄が出てきてしまうのだ。
福田社長は「他のMVNOも2、3年、事業を手がけることで、いろいろなことが見えてくるのではないか」と語る。
日本通信は、自社ブランド「b-Mobile」を立ち上げ、イオンと組んで「格安スマホ」を仕掛けたものの失速し、「VAIO Phone」で端末事業に進出したが、大失敗して大やけどを負った。
日本通信がいち早く、事業戦略の見直しを発表したが、2016年は他のMVNOも似たような方向転換を迫られるのかも知れない。
関連記事
- タスクフォース議論、真の勝者はMVNO? 戦略転換の日本通信「HLR/HSS開放のコストは大きくない」
日本通信は総務省タスクフォースによる第2の規制緩和を受け、事業戦略を展開する。自社HLR/HSSによる多様なサービスで、低価格競争からの脱却が狙い。 - 「HLR/HSS」を開放すると「格安SIM」ではなくなる?
今後、MVNOが発展するうえで大きなキーワードとなるのが、「加入者管理機能」を意味する「HLR/HSS」。これを大手キャリアが開放することで、MVNOのサービス拡張が可能になるが、まだ課題も多い。開放のメリットと課題をIIJ佐々木氏が説明した。 - 総務省の「携帯電話値下げ議論」が決着――1GBプランが登場し、実質0円がなくなる?
総務省が議論を進めている「携帯電話の値下げ」についての結論が出された。スマートフォンの料金や、端末の価格はどう変わるのだろうか? タスクフォースでの話し合いの中から読み解いていきたい。 - 料金の公平負担に向けた課題は――総務省、携帯料金タスクフォースの第2回会合を開催
安倍内閣総理大臣の発言から始まった、携帯電話料金の値下げに向けた検討。提言をまとめるために設置されたタスクフォースの第2回会合では、消費者相談員の団体、キャリア、MVNOからの意見聴取が行われた。 - 最初に要請書を手渡されたのはソフトバンク・宮内謙社長――「(値下げしても)ワイモバイルとソフトバンクは棲み分けできる」
12月18日、ソフトバンク・KDDI・NTTドコモの3社が高市早苗総務大臣から「携帯電話事業者への要請」を受け取った。最初に要請書を受け取ったソフトバンクの宮内謙社長は、受け取り後に囲み取材に応じた。
関連リンク
© DWANGO Co., Ltd.