「電気通信事業法」の改正で何が変わるのか?――ドコモに聞く、MVNOとの取り組み(1/2 ページ)
「電気通信事業法」が5月21日に改正され、これまでドコモに課されていた「禁止行為規制」が緩和される。これによってドコモのMVNOに対する取り組みはどのように変わっていくのか。またMVNOにとってはどんなメリットがあるのか。
通信事業者の枠組みを定めた法律である「電気通信事業法」が、5月21日に改正された。改正のポイントは多岐にわたるが、これによって、MNOとMVNOの関係にも変化をもたらす可能性がある。MVNOのネットワークの大半を占める、ドコモに対する規制が緩和されるからだ。
ドコモには、これまで「禁止行為規制」が課されていた。そのため、特定のMVNOを優遇できず、“平等に”ネットワークやその他のサービスを貸し出さなければならなかった。MVNOと密接に連携して、新サービスを打ち出すことが難しかったのだ。逆に言えば、5月21日以降は、そうしたことも可能になる。
この電気通信事業法の改正を、ドコモはどのように捉えているのか。また、これによってドコモのMVNOに対する取り組みはどのように変わっていくのか。改正電気通信事業法以降のMVNO戦略を、ドコモの企画調整室長 榊原啓治氏と、同室事業推進担当部長の鴻池庸一郎氏に聞いた。
MVNOとWIN-WINの関係を構築できるように
――(聞き手、石野純也) まずは、ドコモがMVNOに対して、どのような取り組みをしてきたのかを振り返っていただけないでしょうか。
榊原氏 今、総務省からは、2015年12月時点で1155万回線、普及率にして7.2%というデータが出ています。欧州も若干数は減っているものの、10%、20%の国もあり、これはまだまだ伸びる余地が大きいと思っています。この1155万回線を見ると、ざっくり言うと半分ぐらいがドコモです。M2Mの分野ではソフトバンクさんも、法人向けを相対で頑張られていますからね。
ただ、いわゆる格安スマホでいえば、ほとんどがドコモです。われわれも他社の正確な数は分かりませんが、MVNOの様子をうかがうと、ほとんどがドコモで、順調に数を伸ばしているようです。
なぜ数が伸びたのかというと、タスクフォースでもお話したことですが、これまでの取り組みがあります。まず、接続料が大幅に下がったこと。希望があったので、ALADIN(アラジン:ドコモの顧客情報管理システムのこと)もリファインして提供し、MNPの手続きが迅速化しました。また、ご要望のあった、MVNO専用SIMも出しています。それまでは、ドコモのロゴや連絡先が入っていて、実際に電話もかかってきてしまいましたからね(苦笑)。
他にも、エリア訪問調査もやっています。ドコモのユーザーに対しては、リピーターやフェムトセルなど、いろいろな対策をしていましたが、MVNOに対してはそこまでできていなかった。これも始めて、エリアに関しては、ドコモと同じになるようにしています。
また、これは阿佐美(取締役常務執行役員 経営企画部長)がスマートライフビジネス本部長だったころに始めたことですが、他社でもドコモのサービスを使えるようにしようという思想の元、サービスのキャリアフリー化をしています。それを、せっかくなのでMVNOの方々にも使っていただければと、連携を始めています。
―― 今、ドコモはMVNOをどのように捉えているのでしょうか。お話をうかがっていると、かなり前向きになったような印象を受けます。
榊原氏 昔はいろいろありましたが(笑)。それは、接続義務があったり、禁止行為規制があったりして、全員に同じものを提供しなければならなかったからで、そうなると受け身になるのは必定です。言い方を変えると、WIN-WINの関係を構築しづらい規制環境でしたが、まさに法改正によって、理由があれば特定のMVNOと相対取引もできるようになります。これができれば、さまざまな連携ができ、まさにWIN-WINの関係も構築できます。
―― AmazonのKindleの通信も、禁止行為規制を回避するために、いろいろと工夫をされたというお話を聞いたことがあります。
榊原氏 あれも、利用機能を制限して提携せざるをえませんでした。他人の通信を媒介したと見なされると、イコールフッティングで、他にも同条件で提供しなければいけなくなってしまうからです。ですから、通信先を限定し、通話やメール、インターネットの閲覧を制限せざるをえませんでした。こんなことはあまり言いたくはないのですが、あれ(禁止行為規制)によって、相当なアライアンスがつぶれてしまいました。
“顧客システムの連携”でMNPやオプション適用などが迅速に
―― その電気通信事業法が改正され、禁止行為規制も緩和されることになりました。直近でのドコモの動きを教えてください。
榊原氏 企画調整室の新部門として、事業推進部門ができました。この改正は、長年願っていたものです。これまでは、約款に基づき、同じ条件でしかできなかったところが、今後は相手によってはしっかり組んで、自由な協業を推進できます。その卸の推進をするために、新たな部門を設けました。
これまではいろいろありましたが、MVNOに対するスタンスも、ずいぶん変わってきたように思われるのではないでしょうか。組織として、これから目に見える形で取り組みをしていきたいと考えています。
―― 現状、具体的にはどのようなことが進んでいるのでしょうか。
榊原氏 プロジェクトも作り、加速度を上げていますが、残念ながらNDAもあって、あまりPRができません(苦笑)。サービスとして世に出れば、相手側からも発表があるとは思いますが、今はまだその前段階です。
―― 成果はいつごろになりそうですか。
榊原氏 dマーケットの販売取次などを今は3社がやっていて、次の会社も出てくるようになると思います。また、顧客システム連携に関しても、時期はまだ申し上げられませんが、年度内には出したい。これに関しては、既に仕様が固まっていて、申し込みのあった事業者には開示をしています。ただ、相手側の開発スケジュールもあるので、いつとは申し上げられないのが実情です。
―― 顧客システム連携によって、どのようなことができるようになるのでしょうか。
榊原氏 1つは24時間オペレーションが可能になります。もともとはHLR/HSSを持たないとできないといわれていたものですが、APIを使い、お互いの顧客システムをつなげればできる話です。今までは、どうしても2オペレーション必要で時間がかかっていましたが、それが短縮されるようになります。MVNOがこれをどう活用するのかにもよりますが、MNPや新規申し込みの時間短縮、MNP予約番号の即時発行、オプションの即時適用などが可能になります。
鴻池氏 プラン変更は、ドコモ側で処理が必要なものが速くなるということですね。MVNOにとってプラスαで、別オペレーションになるものがあると思いますが、ああいったものが短縮されます。また、よくある要望としては、盗難があったとき、今だと翌営業日対応になってしまうところが、即時の停止も可能になります。つまり、創意工夫をすれば、弊社がWebで提供しているものと同等のものが実現できるようになるということです。HLR/HSSと絡めて即時アクティベートのお話をする事業者(MVNO)もいますが、こういう取り組みでも、それはできるのです。
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