人気の「ワイモバイル」 割安なSIMだけどMVNOじゃない?:SIM通
スマホ向けに安価な通信サービスを提供しているのは、全てMVNOだと思っている人も多いかもしれません。しかし、MVNOではない事業者もあり、その代表的存在が「Y!mobile(ワイモバイル)」です。
安価な料金でスマートフォンが利用できる通信サービスを提供しているのは、全て大手キャリアから回線を借りているMVNOだと思っている人も多いかもしれません。しかしMVNOではないけれど安価なサービスを提供している事業者も。その代表的存在が「Y!mobile(ワイモバイル)」です。
ワイモバイルはテレビCMを積極展開していることからご存じの方も多いと思いますが、大きな特徴が2つあり、その1つは最大10分間の通話が月300回利用できる音声通話サービスと高速データ通信容量がセットになった「スマホプラン」。こちら月額2980円から5980円までの3段階で提供しています。
スマートフォンを利用するのに6000円以上はかかる大手キャリアの料金プランと比べ安価に利用できるだけでなく、他のMVNOのサービスと比べ音声通話が充実していることから人気を呼んでいます。
もう1つはソフトバンクの回線を用いていること。ほとんどのMVNOはNTTドコモの回線を利用し、ケイ・オプティコムの「mineo」やUQコミュニケーションズの「UQ mobile」などはKDDI(au)の回線でサービス提供しています。
ソフトバンクの回線を用いているMVNOは、最近サービス開始が発表された飛騨高山ケーブルネットワークなど、小規模かつごく一部の事業者しか存在しないことから、ワイモバイルは貴重な存在でもある訳です。
ではなぜ、ワイモバイルはソフトバンクの回線を用いているのかというと、そもそもワイモバイル自体、ソフトバンクが運営しているからです。つまりワイモバイルはMVNOではなく、ソフトバンク自身が直接運営しているブランドの1つなのです。
ワイモバイルの歴史をたどると、実は元々ソフトバンクのライバル企業だった2社が、設立に大きく関係していることが分かります。そのうちの1社は、PHS事業を展開してきたウィルコム。ウィルコムは2010年に、リーマン・ショックの影響などから経営破たんした後、ソフトバンク(現在のソフトバンクグループ。以下、旧ソフトバンク)の下で再建を進め、2013年に子会社となりました。
そしてもう1社が、かつて「イー・モバイル」ブランドでモバイル通信サービスを提供してきたイー・アクセスです。データ通信端末と低価格パソコンをセットで安価に販売する「100円PC」で人気を獲得したイー・アクセスですが、LTE網の整備で拡大するインフラ投資によって資金繰りに苦しんでいたこともあってか、2012年にiPhoneで使える周波数帯を欲していた旧ソフトバンクが買収。傘下に収めました。
その後旧ソフトバンクは、2014年にイー・アクセスにウィルコムを吸収させる形で両社を合併。その際、合併したイー・アクセスにヤフーが出資するとした(後に撤回)ことから、ヤフーのブランドが付いたワイモバイルという会社が誕生するに至りました。
さらに2015年、旧ソフトバンクが持ち株会社のソフトバンクグループとなるのに伴い、同社は国内通信事業を再編。携帯電話事業のソフトバンクモバイルと、固定通信事業のソフトバンクテレコムとソフトバンクBB、そしてワイモバイルを合併し、現在のソフトバンクが誕生しました。
ソフトバンクは、従来路線の携帯電話サービスを提供する「ソフトバンク」だけでなく、低価格で分かりやすいサービスを提供する「ワイモバイル」も残し、2つのブランドで異なる層のユーザーを獲得する戦略を打ち出します。
その戦略は見事ヒットし、ワイモバイルは低価格な料金を求めるユーザーからの人気を獲得。ワイモバイルがヒットしている要因の多くは、ソフトバンク自身がサービスを提供していることに起因しています。
ワイモバイルのサービスは、月額数百円から利用できるMVNOのサービスと比べれば割高ですが、10分間の通話し放題を最初から提供し、さらに月額1000円プラスすることで完全通話定額も実現。通話サービスの充実ぶりは他のMVNOには真似することができないものです。
さらにワイモバイルは、かつて異なる会社だったこともあり、全国にワイモバイル独自のショップも構えているのでサポート面での安心感が高い。その上、アップルと取引のあるソフトバンク自身が運営していることから、型落ちではあるもののiPhoneを正規に取り扱えるなど、端末面でも優位性があります。大手キャリアと比べ安い料金を実現しながら、MVNOには真似のできないサービスや商品を提供し、安心感のあるサービスを提供できることが、ワイモバイルの人気の秘訣となっています。
一方でワイモバイルが大きく伸びることは、低価格を求めるユーザーがそちらに流れ、高価格のユーザーが離れるという、キャリアにとっては痛しかゆしな状況を招いているともいえます。ワイモバイルは現在、ソフトバンク以外からも多くのユーザーを獲得して成長していますが、今後ソフトバンクからもユーザーが流れてしまうようであれば、1人当たりの売上が減ってしまうだけに問題となってくるでしょう。
またユーザー視点からすると、ワイモバイルの好調で低価格ユーザーの獲得が順調に進むほど、安価な通信サービスを提供したいMVNOへの回線提供に、ソフトバンクが消極的になってしまうことも懸念されるところかもしれません。
安価なサービスを提供する多くのMVNOが台頭する中、キャリアが運営している強みを生かして独自のポジションを獲得することに成功したワイモバイル。最近ではOSのアップデートが保証されたグーグルの「Android One」に力を入れるなど新しい動きを見せていますが、一方でKDDI系のMVNOであるUQ mobileがワイモバイルに近い戦略を取り始めるなど、ライバルの追い上げも進んでいます。
それだけに、独自の取り組みで人気を継続できるか、今後が注目されるところです。
(文:佐野正弘)
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