iOS 11の「Apple Pay」は何が便利になったのか(3/3 ページ)
iOS 11によって「Apple Pay」は何が変わったのか。注目の新機能をはじめ、カード会社やサービスの対応状況、今後の見通しを解説する。
VisaのApple Pay国内参入はあるのか
日本国内で現在Apple Payを利用可能なのは、Appleが公開している対応カードのいずれかになる。このうちアプリまたはWebブラウザ経由のオンライン決済で使えるのは、アメリカンエクスプレス、JCB、Mastercardの3つのカードブランドで、Visaについては「iDまたはQUICPay」のみでの利用となる。
これは「Visaが日本でのApple Payに対応していない」ことによるもので、特にアプリ経由での支払いやSuicaのオンラインチャージなどの面で利便性を大きく左右する(VisaはSuicaアプリで別途ユーザー登録する必要がある)。
Visaが未対応の理由だが、関係者らの話によれば「iDまたはQUICPay経由での相乗りによる決済」を嫌った他、世界標準であるEMV Contactlessによる非接触決済のインフラ展開を推進する立場として、初期の日本版Apple Payにあったような仕様は受け入れられないと判断したからだと言われている。
Visaにしてみれば、「Visaという1つのブランドできちんと決済できる」ということが重要で、ユーザーの混乱を招く相乗り方式は論外なのだろう。
ところが今回、日本版Apple PayについてもMastercardコンタクトレス(PayPass)やJ/SpeedyといったType-A/B方式(ISO 14443)の非接触決済がサポートされ、その潮目が変わってきた。
対応カードのiDまたはQUICPayへのひも付けという問題はあるが、少なくともType-A/B方式への対応によって同インフラ展開の阻害という側面は弱くなり、VisaがApple Payに参入するハードルが低くなっている。同社がApple Payに参加することで、同じ非接触決済技術の「Visa payWave」の提供が可能になるからだ。
Visaに同件について問い合わせたところ「ノーコメント」との回答だったが、東京五輪のワールドワイドパートナーという立場も合わせて、次のような声明を発表している。
Visaは金融機関を始めパートナーの皆さまとともに東京2020オリンピックに向けて、国際標準として定められた非接触ICカードの規格ISO 14443に準拠すると共に、高いセキュリティレベルが要求される決済に特化したEMV基準を満たす非接触決済を、カード発行サイドでも加盟店サイドでも拡大していくように努めております。近い将来日本でも世界基準の非接触決済が普及していくと期待しており、高い利便性と安全性を消費者にもたらすものと考えています。これからも、その普及に努め、官民一体となったキャッシュレス化の促進に貢献してまいりたいと思います。
Visaの立場は複雑だが、Type-A/B方式の日本国内での普及において、Apple Payはほぼ必須のパートナーとも言える。それはインフラ整備以前の話として、payWaveを利用可能なICカードやモバイル端末向けの提供がほとんど進んでおらず、「鶏と卵」のような関係に陥ってしまっており、もしApple PayがpayWaveをサポートすれば、この状況を一気に打破できる可能性が高いからだ。
実際、VisaのApple Pay参入を示唆するような動きが幾つか出てきている。例えばオリコが提供していたモバイル端末向け決済サービスの「Orico Mobile Visa payWave」は、2017年9月中での終了がアナウンスされている。もともと設定が面倒などの理由であまり評判の芳しくなかったサービスだが、日本のユーザーがpayWaveを利用するための数少ない手段の1つであり、この動きはVisaにとって大きなマイナスだ。
しかしVisaがApple Payに対応するならば、国内携帯電話市場で半数近くを占めるというiPhoneユーザーを軸に、一気に利用者を増やすことが可能なわけで、オリコのサービス終了はこれを見込んでのものだと考えられなくもない。
また日本版Apple PayがType-A/B方式を標準サポートすることで、Visaと同じく同インフラの整備を見込むMastercard側にも大きな影響がある。
例えば、日本のユーザーが海外でMastercardコンタクトレス(PayPass)を利用する手段として、NTTドコモが提供しているおサイフケータイ向けの「iD/NFC(旧iD/PayPass)」があるが、このサービスが終了するといううわさが出ている。
前述のオリコと同様に利用者が少ないという理由もあるが、これもまたApple Payの今回の新機能提供を受けた動きだと考えれば合点がいく。その場合、Androidユーザーが利用可能なサービスを失うことになるが、遠からずおサイフケータイとAndroid Payは何らかの抜本的な改善策が必要となるだろう。
Apple Payの参入が契機となって、長らく停滞期にあった日本のモバイル決済サービス事情が動いており、図らずも「黒船」的な存在となりつつある。
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