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「5G」でクルマ社会はどう変わる? 3キャリアに聞く特集・ミライのクルマ(2/3 ページ)

次世代通信規格の「5G」を生かした新しいビジネスモデルとして期待されている「コネクテッドカー」や「自動運転」。5Gでクルマ社会はどんな変化を遂げるのだろうか。ドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社に聞いた。

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コネクテッドカーに5Gを活用するメリット

 コネクテッドカーや自動運転に5Gが活用されると、どんなメリットがあるのか。NTTドコモ 先進技術研究所 5G推進室 5G無線技術研究グループ グループリーダー 主幹研究員 工学博士の岩村幹生氏は「通信があることで認知力が広がります」と話す。

コネクテッドカーコネクテッドカー NTTドコモの山口氏(写真=左)と岩村氏(写真=右)

 例えば数km先に障害物がある、事故車が止まっている、といった情報がモバイル通信を経由してリアルタイムにクルマに届き、「○○のレーンに移るべき」といった次の行動を提案する。5Gなら、500m先などの比較的近い距離の情報も、先に通過したクルマや路側機から遅延なく送られてくる。クルマが備えているセンサーでリアルタイムに通知をするのは難しいため、事故や渋滞を未然に回避する上で、V2Xは欠かせない技術となる。

 一方、「通信で100%満たせるわけではない」とNTTドコモ 法人ビジネス本部 コネクテッドカービジネス推進室 戦略企画担当課長の山口純一氏は話す。「クルマの制御は自立でできるので、付加価値を得るために通信を使いたいという要望は自動車メーカーからいただいています。通信では先々の状況や危険を予知するといった、補完的な役割が求められています」(同氏)

 KDDIの鶴沢氏は、5Gが持つ「超高速」「低遅延」「多接続」といった特徴は、いずれもコネクテッドカーにさまざまメリットをもたらすと話す。

コネクテッドカー
KDDIの中山氏(左)と鶴沢氏(右)

 技術開発戦略部 コネクティッド推進グループの中山典明グループリーダーは「LTEを使って広いエリアをカバーしつつ、5Gでは(通信が混雑しやすい場所を)スポットをカバーする」という使い方を想定していると語る。同社が参画したスマートデバイスリンクについても「5Gが広がることでより使いやすくなる」という。

 ソフトバンク 先端技術開発室 室長 IoT事業推進本部 副本部長の湧川隆次氏は「(5Gに比べて)遅延が大きいため、LTEだとできることが限られ、安心・安全には踏み込めません」と話す。低遅延の5Gならデータをスピーディーにやりとりできるため、「制御に近いところまではある程度できます」と同氏。

コネクテッドカーコネクテッドカー ソフトバンクの湧川氏(写真=左)と吉野氏(写真=右)

 このように、5Gではクルマに乗りながら多彩な情報をリアルタイムで得ることで、事故を未然に防いだり、(天気や交通状況などの)便利な情報を入手したりできるようになる。

実証実験の成果と課題

 3キャリアが実施してきた実証実験で、どんな成果が得られたのか。またコネクテッドカー自体にどんな課題があるのか。

 ドコモの場合「伝送容量、遅延、信頼性を、パートナーに期待されていることがあらためて分かった」(山口氏)という。一方で「通信の安定性に課題がある」と同氏。5Gでは高い周波数帯を活用するため電波の直進性が高くなり、障害物の裏側まで電波が届くよう工夫する必要がある。

 これは実証実験とは直接は関係ないが、V2Xで使用する周波数帯は、欧米では5.9GHz帯が候補の1つに挙がっているが、日本では5.9GHz帯は放送用に使われているため、日本で使える見込みがない。また隣接する5.8GHz帯はETCで使われている。岩村氏は「どの周波数帯を使えるのか、グローバルでどう調和するかは課題の1つです」と説明する。

 岩村氏は「誰が受益者で誰がコストを払うのか」といったビジネスモデルをどう作っていくのかも検討課題だとする。クルマが常時ネットワークに接続してダウンロードとアップロードを繰り返すと、そのデータ容量は膨大になる。そこで生じた通信料は自動車メーカー、ユーザー、はたまたキャリアが負担するのかは、検討の余地が残されている。

 KDDIでは、特に自動運転を想定すると「現状では通信以外の遅延をいかに抑えるか」(鶴沢氏)が課題だと分かったという。例えば自動運転に使うカメラの画像を送信する時を例に取ると、「カメラ→USBケーブル→車載コンピュータ→OS→通信デバイス→通信網」という経路で送信される。この各レイヤーで遅延が発生してしまう。5Gの特徴を生かすためには、それ以外のレイヤーの改善も同時に進める必要があるという立場だ。

 ソフトバンクでは、SBドライブの自動運転バスの実験で「ユーザーからの受容性があることが分かった」(吉野氏)という。実験では、スマートフォンのアプリを使ったバスの予約システムや遠隔監視システムを検証したが、「意外とシニアの方でもアプリを使いこなしていた」という。ニーズがあることはもちろんだが、使用するハードルが高くないことが分かったのは大きな収穫だ。

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