なぜいま日本で「QRコード決済」が注目を集めているのか?:鈴木淳也のモバイル決済業界地図(2/3 ページ)
LINEや楽天に加え、ドコモも参入することが決まった「QRコード決済」。国内3大メガバンクがQRコード決済で規格を統一するという報道もある。なぜ今、QRコード決済が注目を集めているのか。
ユーザーのメリットは?
2018年から2019年にかけて、QRコード決済(アプリ決済)拡大の最大で最後のチャンスがやってくるというのは、楽天をはじめ、関係各社共通の見解だ。
理由は2つある。1つは、2020年の東京五輪に向けた「キャッシュレス」化の潮流の中で小売店側も多くが興味を示しており、QRコード決済を導入しやすい土壌ができつつあること。そしてもう1つは、全国チェーンでの導入が一気に進み、ユーザーにとって身近な場面で利用できる機会が増えることにある。
特に後者は今後1〜2年で「10万店舗」(NTTドコモ)や「100万店舗」(LINE)といったように、ほとんどの人にとって生活圏に必ずといっていいほど対応店舗が出現する状況となるため、“ユーザーにとってメリットがある”ならば決済における選択肢の1つとなる可能性が高い。LINE Pay取締役COOの長福久弘氏は「2018年は業界各社で市場を開拓するフェーズとなり、2019年にはその中で頭1つ抜き出るベンダーが出現するかもしれない」と指摘している。
日本でこうしたQRコード決済の仕組みが一気に拡大するきっかけとなったのは、AlipayとWeChat Payの興隆によるところが大きい。中国人旅行客を対象にしたインバウンド需要に応えるため、本国で利用できる決済手段を日本でも用意するというのは自然な流れだ。
こうした取り組みは「銀聯カード(China UnionPay)」からスタートしたが、ここ1〜2年ほどはAlipayとWeChat Payの取り扱いが拡大しつつある。既存のカード決済インフラに相乗りする形の銀聯とは異なり、この新しい決済手段はQRコード(またはバーコード)を使うため、「店舗側がQRコードを掲出してユーザーがスマートフォンのカメラで読み取る」または「客が自身のスマートフォンに表示したQRコード(またはバーコード)を店舗がカメラまたは赤外線(IR)スキャナーで読み取る」という、いずれかの方式に対応する必要がある。
コンビニのローソンのケースでは、POSレジに改修を加えて商品を読み取るバーコードでそのままAlipayの決済処理を可能にしている。こうしたPOS改修が難しい店舗や、そもそもPOSを導入していないような中小規模の小売店舗では、タブレットやスマートフォンにレジ処理用のアプリを導入して、こうしたニーズに応えている。あるいはリクルートのmPOS型決済サービス「Airレジ」のように、クレジットカード決済のメニューの他に「Alipay」「LINE Pay」も選択可能なものもあり、こうした仕組みを活用することで複数のQRコード決済への対応が容易になる。
同様に、ローソンの場合も「新たなQRコード決済(バーコード決済)への対応はPOSにアプリケーションを追加するだけ」であり、同社はAlipayの他に楽天ペイ、LINE Pay、d払いにも対応を表明している。ドコモの前田義晃氏が指摘しているように、「もともとインバウンド対応に熱心な業界ほどQRコード決済の導入に興味を示す傾向がある」ため、この恩恵を受けやすいドラッグストアチェーンでの対応が一気に進んだという背景がある。
「決済手段が増えて、利用できる場所が増えるのはいいけど、それでQRコード決済を使うメリットはあるの?」と思う方も多いかもしれない。メリットの1つは「カードを複数枚持たずともスマートフォンさえあれば支払える」という点にある。それなら、既におサイフケータイやApple Payなどを使っているユーザーは「何をいまさら」と思うかもしれない。
だが、その前段階にある人々にとっては「手軽にキャッシュレスの世界に入るための一歩」だといえる。楽天ペイでは「10秒セットアップ」などと呼んでいるが、楽天の会員IDさえあれば、アプリをダウンロードして誰でもすぐに利用開始できる。QRコード方式であれば、基本的に全てのAndroid端末やiPhoneで利用できる点も大きい。
LINE Payでの銀行口座ひも付けなど、本人確認を必要とされる場合もあり、より便利に使おうとしたときにまだ若干のハードルは存在するが、極力設定をシンプルにして間口を広げるというのがサービス提供者側の狙いにある。また、デフォルトで「ポイントプログラムと連動」する点もメリットであり、これは支払い手段とポイントカード(ロイヤリティーカード)が分離しているApple Payにはない特徴だ。
まとめると、利用できる店舗が急速に増えつつあり、さらにこれまでスマートフォンを使ったことがないようなユーザーに「より簡単で便利に利用できる仕組み」として訴求している点がQRコード決済の特徴だといえる。その意味では、既におサイフケータイやApple Payを使っているユーザーには、あまり意味がないサービスかもしれない。だからこそ、「1つの店舗が複数の決済手段に対応する」ことが重要となる。「方法は1つじゃない。あらゆる手段をもってキャッシュレス社会を実現する」というわけだ。
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