XR誕生の背景、eSIM採用の狙い Appleフィル・シラー氏が語る「2018年のiPhone」:石野純也のMobile Eye(1/2 ページ)
2018年に「iPhone XS」「iPhone XS Max」「iPhone XR」を発表したApple。バリエーションを広げ、USB Type-CやeSIMも採用した。Appleは、どのような考えでiPhoneを進化させているのか。上級副社長のフィル・シラー氏が、インタビューに答えた。
2017年に「iPhone X」を打ち出し、「次の10年の方向性を示す」とうたったAppleだが、2018年はその言葉通り、Xのバリエーションを拡大した。その1つが、ディスプレイサイズを6.5型にまで広げたiPhone XS Max。もう1つが、より幅広いユーザーに向け、価格を抑えたiPhone XRだ。
iPhone Xの純粋な後継機となるiPhone XSと合わせて、ラインアップは全3機種になり、フルスクリーンのiPhoneへの移行を加速させている。バリエーションを広げたことに加え、eSIMなどの最新技術を取り込んでいるのも、18年のiPhoneの見どころといえる。
では、Appleは、どのような考えでiPhoneを進化させているのか。同社でワールドワイドマーケティングを担当する、上級副社長のフィル・シラー氏が、インタビューに答えた。
Appleが考える、スマートフォンの「次の10年」
「スマートフォンの、次の10年の方向性を示す」――これは、iPhone X発表時に、AppleのCEO、ティム・クック氏が語っていた言葉だ。iPhone Xは、これまで伝統的に搭載されてきたホームボタンを廃し、ジェスチャーによる操作を拡大。A11 Bionicに機械学習の処理を専用に行う「ニューラルエンジン」を取り入れるなど、これまでのiPhoneから大幅な進化を遂げた。
Face IDのために利用するTrueDepthカメラも、iPhone Xシリーズの大きな特徴といえる。実際、ノッチ付きのディスプレイや、Face ID風の顔認証は、多くのメーカーが追随してきた。
Appleは、この中に10年先まで磨いていく、重要な技術が詰まっていると考えているようだ。「次の10年とは、具体的に何を指しているのか」という筆者の質問に対し、シラー氏は「企業秘密を全て明かすわけにはいかない」と笑いながら前置きしつつ、その方向性を解説した。まず、重要なのが、本体いっぱいまでディスプレイを広げたことだという。
「当たり前に思えるかもしれませんが、大切なことに、スクリーンが端から端まで広がることで、魔法のようなエクスペリエンスを生み出せるようになったことがあります。これは必要なことだと考えています」
結果として、iPhone 8、8 PlusまでのiPhoneとは、操作の仕方も大きく変わった。「フルスクリーンにしたことで、より直感的なジェスチャー操作が可能になりました。120Hzのタッチシステムでより直感的に、自然な動作が可能になりました」
次に挙げたのが、Face IDとTrueDepthカメラだ。Face IDは誤検知の確率が100万分の1と低く、セキュリティに優れる一方で、ユーザーがどこか特定の場所をタッチする必要がなく、自然にロックが外れる。
ただし、セキュリティだけがTrueDepthカメラの役割ではない。シラー氏が「顔認証を使って本体やアプリのロック解除ができるだけでなく、アニ文字やミー文字なども使えるようになりました」と語っていたように、顔の動きを操作に取り込めるのも、この機能の特徴だ。今後、精度を上げていけば、アニ文字だけでなく、iPhoneの操作のより深い部分にTrueDepthカメラを使えるようになるかもしれない。
ニューラルエンジンやそれによって実現する機械学習を活用したアプリも、次の10年に必要な要素だという。iPhone XS、XS Max、XRに搭載した「A12 Bionic」では、「パフォーマンスが大きく上がり、より多くの機械学習を、デバイス上で処理できるようになった」。また、シラー氏は、性能が上がったことに加え、Core MLというAPIを通じて、それをサードパーティーの開発者が利用できるよう開放していることも重要だと語る。
「デベロッパーにはCore MLを公開しています。Bionicチップは、CPUを使った方がいいのか、GPUにすべきなのか、ニューラルエンジンがいいのかを自動的に考えてベストなものを選んでくれます。これによって、バッテリー消費を抑え、今まで考えつかなかったようなアプリを実現できます」
機械学習の性能向上は、カメラの画質向上にもつながっている。「シャッターボタンを押すと複数枚の写真を撮り、1枚にして、ライティングもAIが決めてくれる」という「スマートHDR」も、カメラとニューラルエンジンの進化が相まって生まれた機能だ。実際、最新のiPhoneで写真を撮ると、白飛びや黒つぶれが少なくなり、ディテールまで鮮明に記録できるようになっていることが分かる。
こうしたチップレベルのハードウェアからソフトウェアまでを一貫して手掛けているのは、Appleの強みだ。垂直統合的な端末を開発するのはAppleの伝統芸で、初代iPhoneから踏襲されてきている手法だが、iPhone Xから始まる次の10年では、それをより強化しようとしている。
なぜiPhone XRが生まれたのか
もともとiPhoneは、年1機種で全てのユーザーのニーズを満たしていた。ただ、iPhone 5s、5cでラインアップを2機種に拡大。ここでは価格や性能を広げた格好だが、翌年のiPhone 6、6 Plusでは、ディスプレイサイズにバリエーションを持たせてきた。ご存じの通り、iPhone Xが登場した2017年は、過去10年の集大成として、iPhone 8、8 Plusも発売。2018年は3機種ともiPhone Xシリーズに集約しつつ、ディスプレイサイズや価格で選択肢を広げている。
シラー氏は「Appleはラインアップをできるだけシンプルにとどめていきたいと考えています」と語る。一方で、iPhoneは年間販売台数が2億台を超えており、「1つの製品だけでは、全てのニーズを満たすことはできない」という。他社のように、ハイエンドからローエンドまでをフルラインアップでそろえることはしないが、市場の声にはあらがえない。
例えば、シラー氏が「(iPhone Xのような)フルスクリーン体験は欲しいが、できるだけ小さな本体がいいという人もいれば、より大きなディスプレイがいいという人もいる」と述べていたように、ディスプレイサイズ1つ取っても、ニーズはさまざまだ。さらに、iPhone XS、XS Maxは有機ELのディスプレイやステンレススチールのフレーム、デュアルカメラと、どうしてもコストがかさみがちになる。
iPhone XRが生まれたのはそのためで、シラー氏は「フルスクリーン体験をより多くの人が使えるようにしたかった」と語る。「サイズと価格のレンジを広げて、より多くの人に届くようにした」というわけだ。単に価格を抑えただけでなく、「より低い価格でというのも重要だが、質感や性能は犠牲にしていない」のも重要なポイントだという。
ただ、1年でiPhone Xのバリエーションを3機種に広げるのは、Appleといえども簡単ではなかったという。シラー氏は、「これまででも最も多くの新規開発を行いました」と開発当時を振り返りながら、「エンジニアチームには本当に厳しい要件を課しましたが、彼らは本当にいい仕事をしてくれました」と語る。
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