News 2000年8月2日 09:04 PM 更新

DVD-Audioの再出発,延期された製品は出そろったが……?

 日本ビクターは8月1日,DVD-Audio/Videoプレーヤー「XV-D9000」を再発表した。これは,昨年10月に一度発表され,本来なら12月中には出荷されていたはずの製品。これにより,「DeCSS」の騒ぎ(12月1日の記事を参照)で発売が延期されていた各社のDVD-Audioプレーヤーが,ようやく出そろうことになった。しかし,対応ソフトの出荷については,未だ目途がたっていない。

 CSS2の代わりに採用されたコピーガードシステムは,「CPPM」(Content Protection for Prerecorded Media)と呼ばれる方式。東芝,松下電器産業,米IBM,米Intelからなる「4CエンティティLLC」が開発したもので,松下によると「暗号化プロセスの大幅強化に加え,ハッキング対策が盛り込まれている」のが特徴だという。暗号システムは56ビットとなり,DVD-Videoに使われている「CSS1」が40ビットだったことに比べるとその差は歴然。しかも,例えハッキングによって鍵が暴露されても,その鍵を無効化する鍵更新システムを備えている。ハッキングが防げないのなら,鍵自体を変えてしまえというわけだ。「映画の場合,たとえコピーされても膨大なファイル容量となり,そのままの画質でネットに流れる危険性は少ない。しかし,オーディオの場合は1曲単位で流通する危険性が高く,業界も神経質になっている」(松下)。ただし,CPPMを巡ってはいくつかの問題も指摘されている。

ライセンサーに有利?

 問題の1つめは,ライセンスをする側(ライセンサー)と,される側(ライセンシー)に生じた時差だ。4CエンティティLLCの一員である東芝と松下は,6月中旬にCPPM対応DVDオーディオプレーヤーを発表,6月30日には松下から製品化第1弾となる「DVD-A10」「DVD-A7」が発売された。しかし,昨年の段階で製品開発をほぼ終えていたはずの日本ビクターがXV-D9000(および普及機の「XV-D721」)をリリースしたのは8月1日と,前の2社とは約1カ月半の時差がある。その理由は,「CPPMに関する契約を待っていたためだ」(日本ビクター)。

 通常,ライセンスを受けるには,ライセンサーが情報を開示したあとで契約に向けた協議を開始するが,ビクターによると,4CエンティティLLCがWebサイトに情報を掲載するのが遅れたため,次の段階に進めなかったという。東芝と松下以外では,日本コロムビア(DENON)が「DVD-3300-N」を7月下旬に発売しているが,同社はCPPMの関連部品をOEM調達するという手段で出荷を早めた模様だ。「設計と製造は自社だが,一部パーツはOEM調達している」(コロムビア)。

 また,DVDフォーマットのリーダー的存在であるパイオニアも,CPPM対応の具体的な予定を明らかにしていない。同社は,昨年末に「DV-S10A」と「DV-AX10」をCSS2のままで発売に踏み切り,「新コピーガードシステム開発後に無償アップグレードする」と明言していた。実際,既に販売された約5000台には案内はがきが同梱されており,登録したユーザーに対しては,準備完了後に改めてアップグレード方法を通知するという。「まだ具体的に公表できる段階ではないが,8月中には(開始日と方法を)明らかにする」(パイオニア)。

ソフトの不在は誰のせい?

 もっとも,CPPM対応プレーヤーの投入時期に差が生じても,問題になるのは各メーカーの体裁だけで,実際の販売やユーザーメリットにはほとんど影響はない。というのも,対応するソフトがまだ出荷されていないからだ。

 ソフト不在の理由は,レコード業界との話し合いが決着していないこと。焦点は2つあり,その1つは「レコード会社が支払うライセンス料の額」(DVDフォーラム),そしてもう1つが「デジタルコピーの可否」(あるメーカーの担当者)だ。CPPMは,DVD-AudioソフトからMDなどにデジタルコピーできる回数を,権利者側の意向によって変更できる柔軟な仕様になっている。しかし,原則として1世代のデジタルコピーを認めるかという点を巡り,「レコード会社側が1回でも困ると主張して,話し合いが続いている」(あるメーカー)という。

 ここで貧乏くじを引いたのは,プレーヤーメーカーとDVD-Audioに積極的なレコード会社だ。例えば日本コロムビアでは,クラシックを中心に14タイトルのDVD-Audioソフトを予定しており,「ユーザーのために具体的な内容まで公表しているが,発売日だけがみえない」(同社)という。パイオニアLDCなど,数社のレコードメーカーも同じ状況であり,中にはコピーガードなしでリリースを計画しているところまで出てきたという。DVDフォーラムでは,「ソフトの発売は,早くても秋口になるだろう」と予想しており,まだしばらくは待つ必要がありそうだ。

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関連リンク
▼ 日本ビクターの製品リリース
▼ 松下電器産業の製品リリース
▼ 東芝の製品リリース
▼ 日本コロムビア
▼ パイオニア
▼ 4CエンティティLLC

[芹澤隆徳, ITmedia]

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