News 2000年8月4日 09:53 PM 更新

IT化の波が変える大企業のあり方

 松下電器にeネット事業本部という部署がある。同社の中では珍しく,カタカナ英語混じりの本部なのだそうだ。松下は家電のイメージが強く,常にソニーと比較されることが多い企業だが,知名度という点では群を抜く,日本を代表する企業だ。その松下のeネット事業本部は,6月末にできたばかりだが,既に決定しているIT関連投資1000億円とあわせ,デジタルネットワーク事業への出資参画,社内外ベンチャービジネスの育成拡大を目的に,さらに500億円の投資を今後3年間で実施することを決定した。

 発表会の会場では,本部長の前川洋一郎氏が,松下はコンテンツの分野で遅れをとっていることを認めた上で,今後の事業展開を説明した。が,そこには,ソニーのように,本格的なコンテンツビジネスへの展開という目論見はない。どちらかといえば,部品や製品を売る企業であると同時に,サービスを売る企業としての存在感をかもし出そうとしているようだ。

 ちなみに,これまでは,同社の需要予測などのデータシートに「情報ソフト,サービス」といった単語が出てくることはなかったという。それが,今後は,その分野が大きくクローズアップされていくらしい。ECの世界では,流通の方法が変わり,カネの回収方法が従来とは大きく違ってきている。だからこそ家電メーカーも変わらなければならないというのが松下の論調だ。


松下電器産業の前川洋一郎本部長

 具体的な戦略としては,

1. BSデジタルを中核としたモバイル,PC,ネット家電と連動したeプラットフォーム事業を創出
2. 社内アイデアのスピンアップ,社外ベンチャーとのアライアンスによる放送,モバイル,インターネットでのサービスコンテンツ事業の開発加速
3. 現行プロバイダサービスのHi-HO事業を拡大し,インターネットインフラ,インターネットビジネスを強化
という3点になる。

.NETにみる企業の転身

 IT化の流れは,松下のような大企業まで変えようとしていることがよく分かる。同社では,これから,パソコンのダイレクト販売も開始する予定だという。松下幸之助の作った偉大なるショップ展開に,抜本的な変革期が訪れようとしているということだ。

 今後は,冷蔵庫や電子レンジなど,いわゆる白物家電と呼ばれてきたカテゴリの製品も,どんどんITの波にさらされていくことになるだろう。情報家電と白物家電の境目が,どんどん曖昧なものになっていくということだ。この連載のタイトルであるコンシューマーエレクトロニクスという分野も同様で,ちっとも特別なものではなくなろうとしている。今年前半からの動きを見ていても,SDメモリを電子レンジに搭載するなど,松下電器の製品展開は,かなり興味深いものがある。これだけのサイズの企業ということで,今までは製品にしにくかったようなものまで,われわれの手に届くような状況がやってきそうな予感がする。

 大きな企業が,従来のビジネスモデルにメスを入れ,新しいビジネスを模索するというパターンは,最近では,マイクロソフトの発表がセンセーショナルだった。パッケージソフト販売のビジネスだけでは今後やっていくことはできないと判断し,.NETの戦略を強く打ち出すことで,サービスを売る企業に転身していくという声明を発表したのだから驚きだ。こうした戦略の柔軟な修正は,大きな企業にはなかなか難しいと思うが,それをやらなかったら生き残れない。

 ただ,モノよりもサービスに対してカネを払うという状況にコンシューマーが慣れ親しむことができるかどうかは,まだ難しい面がある。それは,国民性のようなものとも深い関連性があるわけで,日本におけるITビジネスにもたらす影響についても考えなければならない。松下の動きは,こうした点を,どう解決していくかを含め,実にスリリングだ。

[山田祥平, ITmedia]

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