News 2000年8月17日 09:26 PM 更新

JASRACがネット配信時の楽曲使用料規定を策定――レコード業界の反発は必至

日本音楽著作権協会が音楽配信に関する楽曲の使用料規定を文化庁に申請した。「画期的」(同協会)というこの規定だが,各方面から反発の声もあがっている。

 日本音楽著作権協会(JASRAC)と音楽配信事業者の団体であるネットワーク音楽著作権連絡協会(NMRC)は8月17日,インターネットを通じた楽曲の商用/非商用配信サービスの使用料規定について合意,文化庁に認可を申請したと発表した。JASRACでは,10月には認可が下りる見込みだとしている。

 JASRACとNMRCではこれまで,楽曲をネット配信する際の使用料(事業者側がJASRACに支払う料金)について協議を重ねてきたが,最終的には,JASRAC側が主張していた7.7%に決着した(ただし,継続的に協議を行うことが条件になっている)。また,JASRACでは,個人が運営する非商用サイトでの楽曲の利用(個人サイトについては,楽曲の「配信」というよりも「利用」について規定されている)に関して明確なルールを設けることにより,「音楽はタダであるという誤解を払拭したい」としている。なお今回策定された規定は,2002年3月31日までの時限規定となる。

レコード協会は同意せず

 1曲あたり7.7%(または7.7円の多いほう)の使用料が発生するのは,営利目的の音楽配信事業者が,ダウンロード型の有償サービスを行っている場合(既存のサービスはこのタイプがほとんど)。広告収入だけの場合は6.6円,無料で楽曲を提供し,広告収入もない場合は,1曲につき5.5円となる。また,ファイルが残らないストリーミング型の場合は,より低額で楽曲を利用することができるほか,45秒間またはダウンロード後の再生が3回以内に制限される試聴形式のものについては,使用料は免除される仕組みになっている。さらにJASRACでは,着信メロディでの楽曲使用料金も定義。1曲あたり5円とされている。

 中心となる有償配信事業者向けの使用料については,JASRAC側の7.7%に対し,NMRCは,現在のパッケージ製品(CDなど)と同じ6%を主張。両者は3年間にわたって協議を重ね,2度の暫定合意に達しているが,「交渉の長期化は社会的な関心が高まっている音楽配信事業の健全な成長を阻害する」(JASRAC),「これ以上時間をかけてもしょうがない。まずは基本ルールの作成が急務だった。2年後にまた見直しを図ればよい」(NMRCの佐々木隆一代表世話人)との事情により,今回の本格合意となった。

 ただ,今回の規定では,日本レコード協会(RIAJ)の同意は得られていない。JASRACの加藤衛常任理事によれば,RIAJ側はNMRCの6%を下回る4.8%を要求。これまで3回折衝を行ったが,合意には至らなかったという。現在,ソニー・ミュージックエンタテインメントやエイベックスなど,RIAJに加盟するレコード会社が音楽配信事業に乗り出しているが,「現在,JASRACへの使用料は支払われていない」(JASRAC送信部ネットワーク課課長の野方英樹氏)という。「文化庁の認可が下りれば,全ての音楽配信事業者に対し,使用料の支払いを求めていく」(同氏)

 これに対しRIAJ側では,「音楽配信はまだ黎明期で,普及率も低くビジネス的にどうなるのか不透明だ。そのような状況で,厳格な料金規定を設けても意味がなく,世界的に見ても,現時点では暫定的なルールしか存在しない」と真っ向からJASRACに異を唱える。なおRIAJでは,JASRACとNMRCが合意した規定内容が公開された段階で,正式に反論を行う予定としている。

サービスの自由度が狭まる?

 今回の規定におけるもう1つのポイントは,「おそらく世界初」(JASRAC)という個人や学校などが運営する非商用サイトにおける楽曲利用についての取り決めだ。規定では,営利目的のサイトではなくても,JASRACが管理する楽曲(最大10曲まで)を利用する場合には,年額1万円または月額1000円を支払う必要があるとされている。なおJASRACでは,「個人サイトからの料金徴収には抵抗が予想され,周知期間が必要」との見方から,2001年4月1日より規定を適用する方針だ。

 ただ,規定料金を支払えば,MP3ファイルをサイトにアップロードできるわけではない。今回の規定では,「サイトにおけるMIDI音源の利用」(JASRAC)について主眼を置いており,例えば,アイドル関連サイトで,アクセスすると楽曲が再生されるページを掲載した場合などが想定される。

 以前からJASRACが取り締まりを行っている違法MP3サイトは,CD音源やラジオ放送などをMP3やそのほかの圧縮データに変換してアップロードしている。これを合法的に行おうとすると,仲介業務のJASRACだけではなく,レコード制作者や放送事業者などの著作隣接権者の同意も必要になり,「個人で交渉しても,まず同意は得られない」(JASRAC)ため,MIDI音源に限定したものとなった。

 著作権者の保護を目的に,インターネット音楽配信のルール作りに懸命なJASRACだが,「米国では定額でダウンロードし放題のサービスが登場し,注目を集めているが,このシステムではそのようなサービスはやりにくい。むやみにルールを作ってもサービスの自由度を狭めるだけ」(音楽業界関係筋)との指摘もある。さらに,世界的に例を見ない個人サイトに対する料金徴収システムなど,今回策定された規定は大きな波紋を呼びそうだ。

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関連リンク
▼ 日本音楽著作権協会
▼ 日本レコード協会

[中村琢磨, ITmedia]

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