News 2000年8月25日 02:13 PM 更新

P2Pのワーキンググループ設立――Intelの狙いは広帯域インフラへの投資拡大か

IDF最終日の8月23日,Intelはピア・ツー・ピア(P2P)の環境整備にあたるワーキンググループの発足を発表した。IBM,HPなどが参加。

 米カリフォルニア州サンノゼで開催のIntel Developers Forum(IDF)で,最終日8月24日の基調講演を務めたIntel副社長兼最後技術責任者のPat Gelsinger氏は,ピア・ツー・ピア(P2P)によるコンピューティング環境を整備する「Peer-to Peer Working Group」の発足を発表した。同ワーキンググループのホームページは本日オープン。来月26日,Intel本社のあるサンタクララで初の会合が開かれる。IntelのほかIBM,Hewlett-Packerd(HP)など19社が参加する。

 IDF初日にCEO(最高経営責任者)のCraig Barrett氏が,最終日にP2Pに関する提案を行うと予告していた(8月23日の記事参照)。Barrett氏はP2Pを成功させるための要素として「共通プロトコルの確立」「使いやすさ」「セキュリティ機能」「スケーラビリティの高さ」「標準化の推進」の5点を挙げている。これらを解決するためのソリューションとして用意したのが,今回のワーキンググループ立ち上げだったようだ。

 Gelsinger氏は「プロセッサ,ディスクなどを共有するP2Pのネットワークが広く使われようとしている。その中にはよく知られたNapsterも存在する。ここでIntelの立場を明確にしておきたい。IntelはP2Pを支持している。また知的財産権の保護を支援する。しかしNapsterについて,Intelは特に意見は持っていない。彼らの是非は裁判所が決めることであり,われわれは中立だ」と牽制してから,詳細について話し始めた。

Mosaicと同等のインパクト

 Gelsinger氏はインターネットの歴史を振り返り,以下のように語った。「インターネットはごく最近,急激な技術的革新が起きたわけではない。1957年以来の長い歴史の中で,インターネットの技術は少しずつ育ち,さまざまな要素技術が発達した。しかし1993年にMosaicが登場する前と後で,世界は大きく変わった。WWWは1990年に開発されたが,1992年には,Webサーバは世界中に50台しか存在しなかった。Mosaicの1年後,1994年には1万サーバにまで急増する」

 技術的な要素がそろった中で,Mosaicが既存技術を結びつけ,それらの持つ潜在的な能力を引き出したわけだ。

 「Mosaicを初めて見た時のことを思い出してほしい。さまざまな可能性を感じて興奮しなかったか? しかし,現在実現されているような具体的なサービスまでは想像できなかったはずだ。Webサービスの進化に伴い,具体的な変化がインターネットの世界に加わっている。その引き金となったものがMosaicだ。P2PはMosaicと同じ役割を演じ,次世代インターネットへの引き金を引く」と,同氏は新時代への突入を宣言した。

 Mosaicが普及した陰には,共通プロトコルの確立,簡単な利用法,標準化,スケーラビリティ,セキュリティといったキーエレメントがすべて揃っていたという事実がある。IntelはNapster,Gnutella,FreeNetを引き金に,ディスク共有やファイル転送など従来の使い方が別の次元へと進むと捉え,そのために前述の「成功のための5箇条」をキーエレメントとして用意すべく基盤技術の構築に努力するという。

70%のプロセッサは動いていない

 Gelsinger氏はP2Pによる効果を,資源の有効利用という視点からアピールする。Intelの調査によると,クライアントコンピュータは,稼働している時間の70%は何の処理も行っていないアイドル状態。サーバの場合でも50%は,じっと次の仕事を待っている。

 そこでIntelは10年前から,「NetBatch」というアプリケーションを運用している。仕事の仲介を行うコンピュータを通して,半導体設計に必要な処理を他のコンピュータに依頼し,それをネット経由で受け取るというものだ。

 現在,IntelのNetBatchには1万台以上のコンピュータが接続されており,毎月270万件のジョブが実行されているという。プロセッサ能力の30%しか利用していなかったのが,NetBatchの運用が進むにつれて利用率が向上。現在は70%程度という高い利用率を実現している。「NetBatchによって5億ドル程度のコスト削減を図っている」とGelsinger氏。

 Gelsinger氏はほかにも,サーバレスで運用可能なエッジサービスの例を紹介。たとえばインターネットを通じて米国から欧州にファイル転送を行うとき,転送するファイルがLAN内の他のコンピュータにあるならば,WANを経由せずにLANから高速にファイルを入手できる。どこにどのようなファイルが存在するかを示す仲介役のコンピュータがあれば,クライアントのハードディスクを利用してネットワーク帯域と時間を削減できる。

 1000台当たりのデータストレージのコストはクライアントサーバの20分の1,LANはWANよりも75倍高速,プロセッサの利用率は今日の2.4倍といった数字を挙げ,これをビジネスに利用しない手はない,とGelsinger氏は力説する。

 もっとも,分散コンピューティングの研究は,20年以上も前から続けられている。技術的な要素は,既に存在しているのだ。ここで必要なのが,Mosaicを引き金にインターネットが変化した時と同じようなキーエレメントの整備というわけだ。

最終的な狙いは

 P2Pはさまざまな用途へと応用することができる。P2Pワーキンググループが標準化などの基盤整備に成功すれば,最初は社内のLANで,次にインターネットを通じたWAN内で,最後にB2B市場へと,徐々に用途やユーザーが広がるはずだ。社内に潜んでいるコンピュータのリソース利用率を向上させようという発想は,企業IT管理者を惹き付けるだけの魅力を持っている。

 P2Pが社内WANやB2Bで応用されるようになると,ユーザーは広帯域のネットワークを余すことなく利用するようになるはずだ。広帯域は,単純なファイル転送の速度やビデオストリーム,データベース同期速度のアップといった用途で,現在もメリットを作り出しているが,P2Pになれば,より情報の交換やデータの転送が頻繁に起こるようになる。

 違う見方をすると,P2Pが企業の競争力に影響力を持つようになると,帯域そのものの広さが業務のキャパシティを決定づける要因になる。その結果,企業はインターネットインフラに向けての投資を拡大することになるだろう。

 インターネットインフラを支える企業への転身を図っている最中のIntelは,広帯域がより積極的に利用され,またさらなる広帯域が求められる世の中になることを望んでいる。インターネットインフラ向けの機器に対し,現在よりも多くの能力が要求されるようになれば,それはIntelに利益をもたらすからだ。

 Intelの優位性は言うまでもなく半導体技術にある。より高い能力を求められたとき,それに対応できる製品を,タイムリーに提供できる自信がIntelにはある。

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[本田雅一, ITmedia]

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