News 2000年8月25日 09:49 PM 更新

「骨太ベンチャーを育てる」――元インテル会長西岡氏

ビットバレーのプレスセミナーに,元インテル会長の西岡氏が登場。ITバブル崩壊以後,風当たりの強いベンチャー企業だが,西岡氏は「そんなに捨てたもんじゃない」と言う。

 元インテル会長で,現在はベンチャーキャピタルを運営している西岡郁夫氏が8月25日,東京・渋谷近辺のビットバレー企業が設立した任意団体のビットバレーアソシエーション(VBA)と富士通総研(FRI)が開催したプレスセミナーに出席。「ベンチャーバブルはじけたと言われるが,ベンチャー企業もそんなに捨てたものじゃない」(同氏)と語った。だが,同氏は単純にベンチャー企業を擁護しているわけではない。

 西岡氏は,1999年4月30日付けでインテルの会長職を退任。「硬直化した日本企業を立ち直らせるのはベンチャーしかない」(同氏)との思いから,インキュベーターへの転身を図った。西岡氏がNTTドコモなどと設立したベンチャーキャピタルの「モバイル・インターネットファンド」には現在,ソニーやNEC,ならびにマクドナルドなど35社が参加,65億円の資金を持つ。たが,「7月末に2社,8月末にもう2社に出資する予定」(西岡氏)というほど,投資案件が少ない。

 というのも,西岡氏には「ベンチャー企業にいたずらに出資するべきではない」という持論があるからだ。「寝る間を惜しんで,飲まず食わずで働いているベンチャー企業が,ある日突然,10億円を手にしたら旨いものを食べてよく寝るようになるのは当たり前。それでは,ベンチャー企業の真価は発揮されない」(同氏)

 西岡氏は自身の役割を,「大企業とベンチャー企業の橋渡し役」と位置付ける。西岡氏は,自らベンチャー企業各社をめぐって事業計画についてヒアリングを行い,プレゼンテーションさせる。そして,有望な企業があれば,同氏の個人的な人脈を活かして,大企業の社長や幹部クラスの前でプレゼンをする機会を提供する。しかも,紹介する企業とモバイル・インターネットファンドの資本関係の有無にかかわず,同様にチャンスを与えているという。

 「当然,すべてのベンチャー企業に将来性を感じるわけではなく,説教することもしばしばだが,刺激的なベンチャーも少なくない。ちなみに,よくあるケースは,アイデアは素晴らしいのだが,簡単に真似できてしまうもの。参入障壁が低すぎる事業では,IPO(株式公開)後も,勝ち続けることはできない」(西岡氏)

未熟なのは育てる側

 光通信の株価暴落に代表されるITバブル崩壊以降,ベンチャー企業への風当たりは厳しい。西岡氏によれば,同氏のコネクションがなければ,大企業には門前払いを食らってしまう状態だという。「ベンチャー企業が(大企業に)企画を持ち込むと,実績を見るという名目で,顧客名簿を持ってくるように言われる。提出できないことが前提にあり,決まって未熟だというレッテルを貼られる。」(同氏)

 こうした風潮に対し西岡氏は,「未熟なのは,ベンチャー企業の育て方を知らない大企業でありインキュベーターだ。ベンチャー企業は未熟で当たり前なのに,それを未熟だと批判するのは筋違い。良質なベンチャーまで切り捨ててしまっている」と指摘する。

 「米国では,自らベンチャーを立ち上げ,幾度の成功を経験した人物が,インキュベーターとなってそのノウハウを伝えている。残念ながら,日本にはそうしたシステムも企業もほとんどない」(西岡氏)

 という当の西岡氏も,実際にはベンチャー企業を立ち上げた経験はなく,「悪戦苦闘の日々」(同氏)と漏らすが,困難に屈しない強いベンチャースピリットを持つ「骨太なベンチャー企業を育てたい」という西岡氏の手腕には注目が集まっている。

 「現時点で,シリコンバレーやシリコンアレーのベンチャーをビットバレーと比べるのは無理がある。だが,ベンチャーを育てる風土ができあがれば,画期的なベンチャー企業が必ず登場する」(西岡氏)

 ちなみに,この日同時に発表された調査レポート「東京におけるネット企業の集積」(FRI)によると,都内には約1300社のネットベンチャーが存在。ビットバレー発祥の地である渋谷近辺,ならびにソフトバンクファイナンスグループが拠点を置く神田周辺に集中しているという。

[中村琢磨, ITmedia]

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