News 2000年9月14日 06:55 PM 更新

コンセプトの見えないAVパソコン

 松下電器産業AVC社は9月13日,今後の同社のデジタル戦略の方向性を発表した。その核となるのは,年内にも発売となる新AVパソコン,「人──HITO“Human Information Technology Operation”」シリーズだ。同社は,この新シリーズPCをコアにしたクリエイティブ・ネットワークを構築するための商品群を,今後,順次発売していくという。

 お披露目された新パソコンは,いわゆるA4オールインワンノートブックで,液晶AI,ステレオスピーカー&ウーファー,DVD-ROMドライブなどを搭載,SDカードスロットや,i.LINK端子,光デジタル音声出力,S映像ビデオ出力,ワイヤレスCOMポートなどを持つ。また,Let's noteで定評のあるトラックボールを採用,ボールを囲むように装備されたジョグホイールも目新しい。この新パソコンは,10月3日から開催される「CEATEC JAPAN 2000」に出展され,正式発表を経て年内に発売されることになっている。

 冒頭に挨拶に立った松下電器産業AVC社社長,戸田一雄氏はデジタル時代のフェーズ1ではソニーが「VAIO」でがんばったとし,フェーズ2では,BSデジタルでパナソニックががんばっているとアピールした。第3コーナーを回り,ホームストレッチの疾走にかかろうとしている今,同社のお家芸ともいえる「巧の技」を発揮し,価値ある商品の連打が必要だと述べた。

 また,パナソニックの従来の戦略について,「単体の製品ではうまくやってきたが,システムや融合といったかけ算で値打ちをはかる商品は苦手だった」と省みる。戸田氏によれば,かつてのAVは基本的にコンテンツを楽しむだけの受け身的なものだったが,今のAVはユーザー自身が主役なのだという。だからこそ,若者の新しい文化として,パソコンを中心としたクリエイティブネットワークを作っていく必要がある。受信機の質だけを考えるのではなく,送り手側の質を高め,作ったものを伝送するプラットフォームをどうしていくかを考えなければならない。そうしなければ,今後,サービスが増殖するような時代に取り残されてしまう。こうした状況下でこそ,パナソニックは強いはずだ……。戸田氏の抱負はザッとこんな感じだ。

 結局のところ,今,求められているパソコンは,AVネットワークのプラットフォームになれるパソコンであると,同社では考えているようだ。だとすれば,本当にWindowsでいいのだろうか? しかし,この辺りに関しては,何も触れられなかった。

見えない利用状況

 これらの話の内容を,ぼくなりに吟味してみたが,このHITOシリーズが家庭にスンナリと入っていき,AVネットワークのプラットフォームとして受け入れられている姿というのがうまく見えてこない。ワイヤレス,ワイヤード,パッケージといったネットワークインタフェースで,いろんなものがつながることは分かる。でも,つないで何をするのか。そして,このパソコンは家族内個人が使うのか。それとも,家族がみんなで使うのか。リビングではなく,個室に置かれるものなのか。家の中を部屋から部屋に移動して使うものなのか。このあたりがちっとも見えてこないのだ。まして,パナソニックが一般コンシューマーに対して何を提案したいのかが全く見えない。それこそが,今まで欠けていたとされるパソコンのコンセプトなんじゃないだろうか。

 かたや同日,DVDステレオシステムとして「WILL THEATER」が発表され,「新しい消費スタイルを持つ20歳代〜30歳代の“ニュージェネレーション”と呼ばれる層をターゲットに展開していく」と高らかにリリース文をうたいあげた。やっていることは,まだまだバラバラのようだ。

 ちなみに,話題のBSデジタルだが,売れ行きも好調で,年内に70万台の出荷が予想されているとのことだ。松下電器は,その中でも,かなりのシェアを獲得できそうだという。ぼくも,70万台のうちの1台をなんとか入手したが,いかにコンテンツが重要かということを思い知らされた買い物だった。たった今の瞬間には無用の長物だ。でも,オリンピック期間中,どんな楽しみが得られるのかで評価は大きく変わるだろう。来週は,是非その感触をレポートしたい。

[山田祥平, ITmedia]

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