News 2000年9月22日 11:22 PM 更新

期待はずれのBSデジタル

 BSデジタルチューナーを入手した。9月1日のBSデジタル試験放送開始には間に合わなかったものの,シドニーオリンピックには間に合うように出荷が開始されたらしいが,それでも注文に応えられるだけの量は作れていないと聞く。

 うちで使っているテレビは,既に旧型となっているがハイビジョンテレビで,コンポーネントビデオ入力(Y,Pb/Cb,Pr/Cr)ができるようになっている。一方,入手したチューナーは,パナソニックの「TU-BHD100」。両者を別売りのケーブルで接続した。テレビ側はD端子の形状ではないが,信号的にはD3相当の接続ができていることになる。

 今のところ,BSデジタルで放送されている番組は,NHKのBSアナログ放送と全く同じ内容のBS1とBS2,WOWOWが標準画質放送で,さらに民放とNHKの共同によるデジタルハイビジョンを楽しめる。

 まず画質だが,外付けチューナーとテレビ内蔵チューナーとの比較なので厳密とはいえないが,BS1とBS2に関してはアナログの圧勝という印象を受けた。BSデジタルはザラザラとした感じで,滑らかさがない。

 また,ハイビジョン放送は,色に関してはデジタルの方が鮮やかで派手なので,一見よさそうに見えるが,ぼくの感覚では,ちょっと輪郭強調がきつく,アナログハイビジョンの方が見ていてラクな気がする。

お粗末なデータ放送

 BSデジタルのセールスポイントの1つに,番組内容に合わせたデータ放送がある。デジタルハイビジョンにチャンネルを合わせ,リモコンのデータボタンを押すと,データ放送のメニュー画面が呼び出され,各社が提供するデータ放送を選択して見ることができるというものだ。

 オリンピック期間中は,このデータ放送枠をNHKが占有し,オリンピック関係の情報の入手ができるということになっている。が,その内容を見て驚いた。あまりにもお粗末なのだ。そのとき画面で活躍しているチームや選手に関する詳しいプロフィールなどが逐次提供されるくらいの使い勝手を考えていたのだが,そこにあるのは,最新競技結果,日本選手の紹介,オリンピッククイズなど,放送とはほとんど連動していない固定メニューだけだ。

 そんなわけで,結局,せっかくオリンピックに間に合ったチューナーも,充実したBSアナログ放送にブラウン管を占拠され,ほとんど使われる機会がない。

 長野オリンピックのときも既にそうだったが,もはやオリンピック中継は,BSなしには楽しめなくなってきている。NHK総合や民放でも中継はされるが,ハイライト的なものはカバーされていても,とにかく網羅的に全部見たいという熱心なスポーツファンにとってBSは欠かせない存在だ。

 さらに,ハイビジョンの美しいワイド画面は,見ていて気持ちがいい。ところが,今,ハイビジョンでどんな番組をやっているのかといった情報,そして,競技の最新結果や選手の情報などは,テレビとWebを組み合わせて初めて満足できるものが得られる。それでも,裏話などは,スポーツ新聞にしか出てこないような情報もあったりして,オリンピックは奥が深い。

 日本アイ・ビー・エムの発表によれば,シドニーオリンピックの公式ホームページは,9月18日に1日のアクセス件数の世界新となる6億8300万件を記録したそうだ。すごいといって大騒ぎだった長野オリンピックの16日間分の記録を,たった1日で上回ったというのだから,いかに,この2年間でインターネットが急激に浸透したかを思い知らされる。公式ホームページだけではなく,NHKシドニーオリンピックオンラインをはじめ,各マスコミ,そして,Yahooをはじめとするポータルサイトなど,オリンピックページは実に充実している。この凄みが,BSデジタルのデータ放送には,今のところ,全く感じられない。

 今後の放送のカタチを牽引していくであろうBSデジタルが,試験放送とはいえ,こういう状況では,先行きがちょっと心配になる。なんだか,マルチメディア時代の幕開けをひっぱるはずだったキャプテンを連想してしまった。今後,放送と通信はどんどん融合し,コンテンツを受け取る側は,それが,どのようなメディアを通って手元に届いているのかを意識しないですむ時代がやってくる。誰かさんたちが,電波の利権を奪い合っている間に,ブロードバンドのインターネットが映像コンテンツ配信のメインストリームになることだってありえないわけではない。とりあえずは,本放送の開始を期待して待とう。このままでいいはずがない。

[山田祥平, ITmedia]

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