News 2000年11月10日 07:58 PM 更新

時代は小型・軽量から,極小に──マイクロマシン展

1ミリの1000分の1という,“マイクロ”の世界。次世代の産業技術の基盤といわれるマイクロマシン技術を,関連企業,団体,国立研究所,大学などが展示した。

 11月8日から10日にわたって,「第11回マイクロマシン展」が東京・科学技術館で開催された。今年は,10年計画で進められてきた通産省の産業科学技術研究開発制度における「マイクロマシン技術の研究開発プロジェクト」の最終年度となる。93の出展者が,10年間の研究成果の集大成を発表した。

 「マイクロマシン」とは,1ミリの1000分の1という単位で計られる微小機械のことだ。夢のような話だが,人類の技術は確実にそのレベルに近付いてきている。しかし,そんな小さなマイクロマシンを使うと,いったい何ができるというのだろう? まずは「子供が描くマイクロマシンの未来」という,会場に展示されたパネルを見て欲しい。

 これは「マイクロマシンができたらこんなことができるようになる!」と,小中学生が想像力を働かせて描いたものだ。

  • O157探知撃退機 マイクロマシンが病原体O157を自動的に探知し,やっつける
  • スネークレスキュー 蛇状のカメラが災害地に入っていき,生き埋めになった人などを探知する
  • 指輪型携帯電話 指輪に携帯電話が埋め込まれている
  • 隅々まできれいにする歯磨き粉 マイクロマシン入りの歯磨き粉が掃除をしてくれる
  • 小骨取り太郎 調理した魚にマイクロマシンが入り,小骨を分解してくれる
  • ボールになっちゃった 野球ボールにカメラを埋め込み,臨場感溢れる映像を楽しむ

 これらは決して夢物語ではない。例えば,スネークレスキューなどは,東芝,日本電装などが実際に1センチのパイプの中を自律走行し,映像を送ってくるマシンを展示している。


東芝がCCDと制御部,日本電装が映像送信と電力供給を開発した「マイクロ視覚」。太さ1センチのパイプの中を進み,CCDで撮影した映像を無線で送信してくる。映像の向きや焦点距離も外部から操作でき,電力は無線で供給される

マイクロの次はナノテクノロジー

 もっとも,調理した魚の小骨を分解するのはマイクロマシンではさすがに難しく,マイクロのさらに1000分の1の大きさとなる,「ナノ」の単位で作られた「ナノマシン」が必要となる。

 人体の必要な部位に適切な薬品を運ぶという「ドラッグデリバリーシステム」を研究している「日本DDS学界」では,ナノレベルのマシンで医療がどのように変わるかをパネル展示していた。


未来の微小機械,「ドラッグターゲッティングマシン」。ガンの薬をガンの部位だけに的確に届けるといった用途に利用される

 人体に微小機械を投入する場合,なぜナノサイズの大きさが必要になるかというと,マイクロサイズでは腎臓から排出されてしまい,血流に長時間留まれないためだという。また小さすぎると肝臓に溜まってしまったり,肺に分布してしまったりする。「100〜200ナノの大きさが望ましい」(解説員)。

 人の身体の中にマシンが突入して……というと,SF作家アイザック・アシモフ原作の「ミクロの決死圏」が有名だ。DDS学会の説明員によると,現在すでに,そのような試みは行われており,ガン細胞に薬を届けるといったことはある程度実現しているという。ただし,これらは薬物を包み込む膜を高分子で作るなどの化学的アプローチで実現しており,体内での移動は血液の流れに頼っている。「自律的に移動する推進システムには,どうしても機械的な方法が必要になる」(解説員)

 なんとも途方もない話だが,会場にはSRI Internationalによる人口筋肉などの研究成果も展示されていた。マイクロマシンはもう目と鼻の先,ナノマシンも案外早く実現するかもしれない。

 ちなみに,微小機械では1つや2つのマシンではなく,同じマシンを複数投入して作業に当たる方法が考えられている。川崎重工では,それぞれのマイクロマシンが協調して行動し,作業を行うアルゴリズムを展示していた。これは,プラントや発電所など進入経路が狭く危険な場所のメンテナンスを,複数のマシンが行うものだ。

 例えば,ある1台が傷を発見すると,ほかのマシンを呼び集め,作業に適した形態に集合する。すべてのハード,ソフトは完全に同一で,外部から操作する必要もない。


アルゴリズムの展示用に用意されたロボット。今年のアルゴリズムに追加されたのは,自己修復機能と同期機能(足並みをそろえて行動すること)だという

 子供たちの夢の世界は,果たしていつやってくるのか? ナノテクノロジーは,今でこそグレッグ・イーガンの小説に出てくるようなSFネタだ。しかし,世界を一変させるであろう微小技術は確実に進歩を続けている。

関連リンク
▼ マイクロマシン展
▼ 日本DDS学界

[斎藤健二, ITmedia]

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