News 2000年11月20日 09:12 PM 更新

ソニーがSo-netを手放さない理由

ソニーは,子会社への支配力を維持できる「トラッキングストック」として,So-netを運営するSCNの新株を発行する。

 ソニーは11月20日,インターネットサービスプロバイダー(ISP)の「So-net」を運営するソニーコミュニケーションネットワーク(SCN)のIPO(株式公開)計画を取り止め,トラッキングストックとして東証1部に上場させると発表した。


ソニーの出井伸之会長(左)とSCNの山本泉二社長

 トラッキングストックは,特定の事業部門/子会社に対する支配力を維持しながら株式を公開し,その事業価値を顕在化して資金調達するための手段。SCNは今年3月,2000年度事業計画発表の際に株式公開を1つのポイントとして挙げていたが,「ソニーの支配力が弱まる」(ソニーの出井伸之会長)との考えから,トラッキングストックを採用することにした。

 現行商法では,改正の動きはあるものの,子会社の業績と連動するトラッキングストックの発行は認められていない。そのためソニーでは,トラッキングストックを「種類株」の1種として解釈。定款を変更し,普通株式とは別にソニーの種類株式としてSCNの新株を疑似トラッキングストックとして発行する予定だ。発行株式数や公募価格などの詳細については,来年1月に開催する臨時株主総会後に詰める。

 「株式を公開すれば,M&Aなど独自の拡大戦略を打ち出すなど経営の自由度は増すが,反面,ソニーの支配力が希薄化し,グループとしてのシナジーが期待できなくなる。かといって,トラッキングストックが商法で認められるまで待つ時間的余裕もない」(徳中輝久CFO)

 ソニーが「SCNへのコントロールの維持」にこだわるのは,単独のISPとして生き抜くのが困難な状況にあるためだ。So-netは,富士通の「@nifty」やNECの「BIGLOBE」に会員数で大きく差をつけられているうえ,自前で回線を保有する日本テレコムの「ODN」やKDDIの「DION」に対しても,料金プランの自由度という面ではかなわない。

 そこでソニーでは以前から,「So-netは,単なるISPではなく,PCやTV,PS2をベースとした個人ユーザーのインターネットゲートウェイだ」と強調。IPOではなく,トラッキングストックを選択したのも,ISPとしての価値よりも,グループ内のリソースをフルに活用できる「eプラットフォーム」とアピールしたほうが効果的という判断が働いたためだ。

 日本初と注目を集めるSCNのトラッキングストックだが,「eプラットフォーム」としてのSo-netの価値はまだ未知数。SCNに対して市場がどのような判断を下すのか非常に注目されるが,少なくとも,ISPとしてIPOの道を選ぶよりは懸命な判断であることに間違いない。

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[中村琢磨, ITmedia]

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