News 2000年11月24日 10:52 PM 更新

Pentium 4をしばらく薦められない理由

Pentium 4への移行は,Intelにとって辛い物になりそうだ。スピードとコストの両面で,ユーザーと流通に疑問符を付けられている。

 Intelは1995年以来,ひさびさにプロセッサのマイクロアーキテクチャを刷新した。しかしすぐに手を出すのは危険だ。いや,すぐに手を出すのが危険なのは今に始まったことではない。486からPentium,PentiumからPentium Proへの移行でも,マイクロアーキテクチャ刷新直後はコストパフォーマンスの点で劣るものになる,という事実はIntel製プロセッサで繰り返されてきたことだ。そしてIntelは,そうした谷間の時期をうまく乗り越えてきた。今までは……。

Pentium 4への移行の難しさ

 しかし,以前と異なる難しい状況がここにある。

 まず,Pentium 4には手強いライバルが存在する。AMDのAthlonだ。上に示した2つの移行期の場合,AMDはIntelとのマイクロコード使用権問題に関する裁判の影響で力を奪われ,半導体製造者としてIntelに対抗しうる存在ではなかった。

 しかしAMDのAthlonは,パフォーマンス面で現在のPentium 4をうち破ることが可能だ。AMDは「Pentium 4/1.4GHzがAthlon/1GHzと同等」と話すが,既存アプリケーションの実行速度を比較すると,AMDの話が控えめに感じるほど。新たに追加されたSSE2を用いたアプリケーションであれば,Pentium 4もかなり高速に動作するが,効果が特定アプリケーションに限られる上,対応アプリケーションが出そろうには時間がかかる。

 次にプラットフォームの問題がある。Pentium 4にはi850チップセットが用意されているが,これは必ずしもベストとはいえないチップセットである。デュアルチャネルのRDRAMをサポートするi850は,広いメモリ帯域を持つが,一方で割高でもある。一時のように8倍もの価格差(SDRAMとRDRAMの比較)はないが,システムコストに影響することは間違いない。

 Intelはプロセッサ単体のリテール販売でPentium 4に64MバイトのRDRAMモジュールを2枚添付(事実上の無料プレゼント)しているが,これをOEMベンダーに対しても行っているとの噂がある。事の真偽はさておき,それだけ厳しい立場に追い込まれていることを示しているといえよう。

 加えて供給量の問題も抱えることになるだろう。今年のPC出荷台数は,世界的に予想を上回る伸びを示しており,各PCベンダーは売れ筋のPentium III確保に忙しい。またPentium IIIの生産量が増えたことで,Celeronが入手難と嘆くベンダーもいる。果たしてPentium 4を潤沢に供給する余裕があるのか?

 Pentium 4は,ユーザーに対してパフォーマンス面で,OEMベンダーに対しては供給面で,その両方に対してコスト面で,それぞれ疑問を持たれている。アーキテクチャの移行は常に難しい舵取りを必要とするものだが,それにしても今回は難題が多い。

 これら難題が解決するのは,次世代製造プロセスが安定する2002年以降と見られ,Intel自身も2002年からのPentium 4本格普及を計画していたが,それでは魅力的なラインアップを維持できないと考えたのだろう。2001年後半には,低価格化など普及に向けたプログラムをスタートさせる。

自分自身との戦い

 Intelには,AMDという,大きくなって帰ってきたライバルがいる。DDR SDRAMをサポートするAthlonのプラットフォームは,Pentium 4よりも低い価格帯で販売される見込みだ。MicronなどDDR SDRAMを推進するメモリベンダーたちは,SDRAMとDDR SDRAMのチップ価格はほぼ同じだと話している。加えてAthlonそのものの価格が大幅に下がっていることを考慮すると,最高価格帯のPentium 4マシンと中間価格帯以下の安価なAthlonマシンが同程度,もしくは場合によってAthlonの方が高速になってしまう。

 しかし,IntelはAMDの攻勢に対抗して攻撃に出るよりも,いかに現在の立場を維持するかという守りの戦略を強いられることになるはずだ。Athlonのプラットフォームは高速だが,まだ企業ユーザーを納得させるだけの信頼性を証明できていない。AMDが企業ユーザーを攻略するまでの間に,IntelはPentium 4の魅力をユーザーに伝える必要がある。

 魅力を伝える方法はいくつかあるが,まずPentium 4が次世代アプリケーションに不可欠なプロセッサであることを印象付けることだ。Pentium 4は,最適化が行われてさえいれば,マルチメディアアプリケーションや3D処理,音声認識処理などをAthlonよりも高速に実行できる。一般的なアプリケーションの実行速度には劣るが,そうしたアプリケーションでも既に十分な速度は確保している。この点を強調し,また足りていない性能に関しては改善できることをアピールして,“次の時代に必要になる”という筋書きを用意しなければならない。

 K6-2でAMDが攻勢をかけたとき,一般アプリケーションの速度では高速なK6-2も本当にパワーが必要な3Dゲームなどでは遅くなる(浮動小数点演算が遅い)といったイメージが定着したことがある。ここでCeleronは良好な浮動小数点演算パフォーマンスを見せたため,K6-2は遅いプロセッサのレッテルを貼られてしまった。Intelとしては,是が非でもSSE2の必要性をユーザーにアピールしたいところだ。

 あとはひたすらに我慢と努力である。我慢とは,歩留まりが悪くとも,生産計画立案が難しくとも,とにかく競争力のある価格で(歩留まりの悪さとは矛盾しているが)十分な数を用意することだ。そしてPentium 4が本来的に持つ,高クロック動作が可能だという特徴を生かした製品を出さねばならない。現在の1.5GHzではPentium IIIにも十分なアドバンテージを持てないからだ。

 Intelの計画では,0.18ミクロンプロセスで2GHzまでクロック周波数を向上させる方針だが,Pentium 4の特徴を引き出すためには,それ以上のクロック周波数が必要だ。AMDは,来年の中ごろに1.5GHzのAthlonを出荷する。

 Intelは,平静を装いながら,影で猛烈に追い上げつつ,来年のために多くの投資を行える会社だ。問題を抱えながらも,市場をドライブするだけの求心力はまだ十分に残っている。ライバルとの競争よりも,自分たちの製品をどう高めていくのか,ユーザーをどう説得するのか。Intelが自信を持つ0.13ミクロンプロセスに移行する来年第4四半期までの間,自分自身との戦いが続く。

[本田雅一, ITmedia]

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