News 2000年11月27日 07:13 PM 更新

1GHzプロセッサ率80%以上の「Fab30」がAMD復活のスタートライン

旧東ドイツ,ドレスデンにあるAMDの最新工場「Fab30」。Fab25で歩留まりの悪さに苦しめられたAMDが,Intelと競り合うだけの実力を獲得した秘密がここにある。

 「COMDEX/Fall 2000」の後,私を待っていたのは,中世ヨーロッパ建築の美しさと戦争による破壊が共存する旧東ドイツの都市,ドレスデンの街並みだった。

 第二次世界大戦において,ほとんどの建造物を破壊する連合軍のじゅうたん爆撃を受けたこの街は,芸術の都として栄えたころの面影を残すことのない瓦礫の街へと姿を変えた。現在修復が進められている聖マドンナ教会をはじめとする,近年復刻しつつある古の建物は,東西ドイツ統合による修復資金の流入によって実現したものだ。

 復刻の進むドレスデンの街は,国内外からの観光客が増加し,街の経済基盤を支える一因になっている。そしてもうひとつ,ドレスデンが所属するサクソニー州の経済を支えているのが,海外企業誘致による雇用促進政策だ。デンソー,トヨタなども工場を持つというサクソニー州には,今回の旅の目的であるAMDの最新工場「Fab30」も入植している。

Fab30の不思議

 「年間売上の3分の2に相当する投資で巨大な工場を作るなんて,普通じゃ考えられない」とはAMD関係者の言葉だが,米オースチンに建設した「Fab25」の立ち上げに苦労していたAMDが,そちらもままならないままFab30に2000億円もの投資を行うのは,その必要性を理解した上でも不可能なことに思えた。

 Fab30のプロジェクトがスタートした1996年は,AMDの売上が前年比で大きく割り込み,年間売上で20億ドルを下回った年である。誰もがAMDの先行きについて,悲観的な展望を持っていた。

 しかし,州を挙げての企業誘致がFab30への投資を可能にした。Fab30は,AMDとサクソニー州の合同ベンチャーとして,州からの資金援助を得て立ち上げられたのである。もちろん,その後もAMDの赤字などから「他社と工場の生産能力を折半し,投資負担を減らすそうだ」などのうわさが流れたが,AMDが成功するためにx86への注力と最新工場建設が必須事項と考え,Jerry Sanders会長はあきらめることなくFab30の完成までこぎつけた。


Fab30の全景。総投資額は19億ドル(約32億マルク)という「megafab」だ

 おそらくは,ラスベガスを創ったバグジーのフラミンゴホテル物語のごとく,資金と時間をめぐるギリギリの攻防だったに違いない。バグジーは死んでホテルだけが残ったが,AMDは優秀な最新工場とそれによってもたらされる高い生産能力を得た。

ヒューマンエラーを排除し高歩留まりを実現

 正直言って,最新の半導体製造プロセスは私の理解の範囲を超えている。当初より,500工程からなるという0.18ミクロンの6レイヤー銅配線プロセスをスタートラインに設定していたというFab30は,200ミリウェハーを週5000枚のスループットで流すことができる。

 旧東ドイツ国民が高い労働意欲と知識レベルを備えるという話はよく分かるし,賃金レベルが旧西ドイツより低いことも資料を見れば明らかだ。広大な工場を建設するための土地も,見渡す限りの平原があるから何の問題もない。これぐらいは分かる。

 工場の規模だけならば,AMDは過去にもオースチンの「Fab25」を所有していた。しかし,Fab25は立ち上げ時の歩留まり向上に苦労し,プロセスの全工程を終えて検査したウェハーを掃いて捨てるほどの不良を出した。

 AMDによると,Fab25の問題は,工程の間に入る“人間の手が加わる部分”で発生していたため,これを排除することで生産能力をアップさせたという。現在,銅配線ではない0.18ミクロンAthlonはFab25から出荷されており,また0.25ミクロンのAthlonはすべてFab25からの出荷で品不足もなかったことを考えれば,AMDはかなり歩留まりを上げることに成功したようだ。

 Fab30ではこのような問題があらかじめ判明していたため,ヒューマンエラーを排除するための仕組みを基本として,歩留まりの向上を図っている。キーワードは“SMIF”だ。

小さなクリーンルームで歩留まり90%

 Fab30がヒューマンエラーを防ぐために導入したのはSMIF(Standard Mechanical Interface)という生産技術だ。SMIFは簡単にいうと,非常にレベルの高い,小さなクリーンルームをアクリルケースの中に作り出し,ウェハーを小さなクリーンルーム単位で処理する。Fab25ではクリーンルームのレベルを上げることで歩留まりを向上させるアプローチだったが,Fab30ではクリーンルームのレベルはほどほどに,その代わりアクリルケースのクリーンレベルを上げたわけだ。Fab30の生産工程には100%,SMIFが導入されている。


小さなクリーンルーム「SMIF」で作業する従業員

 その結果,驚くほど早いFabの立ち上げと歩留まり向上を得ることができたと話すのは,AMD副社長兼ジェネラルマネジャーのJim Doran氏だ。彼はFab30の製造責任者としてプロジェクトを進めてきたが,その結果は予想を上回るものだったという。


AMDの副社長兼ジェネラルマネジャー,Jim Doran氏

 Fab30が生産した初めてのプロダクトはAthlon/1GHzだったが,最初の四半期に製造された製品の歩留まりは90%を達成したという。しかも,今年第3四半期に出荷した製品の80%以上は1GHzを超えていた。

 世界的なPC需要の高まりに合わせ,AMDに対する需要も増加している今年だが,その需要に十分応えられるだけの生産量をFab25とともにクリアした。それでもなお,Fab30の稼働率は50%でしかなく,来年に向けて少しずつ稼働率アップを図る。さらにFab30は拡張を続けており,工場の隣には基礎作りを終えた新工場のスペースが既に確保されている。

基盤を整ったFab30がスタートライン

 K6シリーズの時代は,歩留まりとの戦いだった。安価に供給されたK6シリーズは,メインストリーム以下のPCに数多く採用されたものの,十分な供給量を出せず,AMDはIntelと勝負する舞台までたどり着けなかった。

 半導体ベンダーに求められるのは性能だけではない。顧客(OEMベンダー)が安心できる安定した供給体制を固めてこそ,初めて性能や機能で勝負できるようになる。そうした意味では,Fab25の改善とFab30の成功がAMDにもたらした変化は大きい。Sanders会長は常々,マイクロプロセッサ市場で30%のシェアを獲得することが目標と話しているが,そのための条件は整った。

 残りは十分になった生産量を捌くだけの営業成績を上げるため,ライバルとの戦いに挑むだけだ。今,やっとAMDはIntelと競り合うためのスタートを切った。

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[本田雅一, ITmedia]

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