News | 2000年12月5日 11:58 PM 更新 |
10月某日,人気のため入手難となっているキヤノンの「EOS D30」を入手した。いまさらD30のレビューか? と思う方もいらっしゃるだろうが,実際に仕事と趣味で使ったレポートはあまり出ていない。プロカメラマンの視点も大切だが,実際に購入するアマチュアからすると,プロではない実ユーザーの視点も参考になるはずだ。
そこでアマチュアカメラマンから見た,正直なD30の姿を,11月に行ったラスベガス〜ドレスデンと続く取材現場を通して描いてみることにしたい。
掲載する写真はすべて最大サイズ高画質モードで記録されたものだ。レタッチは施していない。記事中のサムネイルをクリックするとオリジナルサイズのファイル(Zip圧縮)を取得できる。なお,ISO感度を上げているものに関しては再圧縮を行っている。感度を上げるとノイズがのり,ファイルサイズが大きくなりすぎるためだ。
今回の旅行は移動が頻繁にあるため,プロ向けの高性能だが重いレンズは避け,一般に利用することが多いズームレンズを2本持ち込んだ。常用ズームとして「EF 24-85mm F3.5-4.5 USM」,基調講演用に「EF 75-300mm F4.5-5.6 IS」だ。
撮像素子がほぼAPSサイズのD30は,画角が焦点距離にして1.6倍相当になるため,広角端が24ミリだと通常の一眼レフでいう38.4ミリでしか撮影できない。しかし,これ以上広角のズームとなると,重くズーム倍率も低い「EF 17-35mm F2.8L」しか所有していないため,今回はあきらめることにした。一般撮影ならば,「EF 20-35mm F3.5-4.5 USM」や他社製超広角ズームで十分かもしれない。いずれにしろ,画角の異なる現在のデジタルカメラは,レンズ選択で大いに悩むところだ。
基調講演の撮影はストロボを焚ける時間が1分だけということも多く,またスポットライトの関係や他カメラマンのストロボの被りなどがあってなかなか難しい。というわけで,素人はなかなか良い写真にありつけない。そんな素人の私に便利なのが,その場で確認してリトライできるデジカメならではの特徴。
フィルムを入れ替えずに感度補正できるから,ステージ前を追い返された後でも十分に撮影できる。ISO400に設定し,手ぶれ補正付ズームの300ミリ端(480ミリ相当!)で撮影したのが下の写真(480mm.jpg)。1/20秒のため若干手ぶれしているが,なんとか仕事でも使えそう。コンパクトデジカメのISO400と違って画質も十分なので,後からISO800でシャッター速度を上げた方が良かったなと後悔したほどだ。
画像をクリックするとオリジナルデータがダウンロードされます(Zip圧縮)。サイズは1.2Mバイト |
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米Transmetaのパーティに赴くためやってきたベネチアンホテルで待ち時間。ホテル内に再現されたベネチアの街を撮影してみたが,薄暮に近い状況に加えて間接照明のため,光のあたる部分と暗い部分,明暗差が大きく電子撮像素子の限界を感じた。これを見ると,光があたる天井周辺と街並み,その両方を描写しきれないことが分かるはず。(ISO400で撮影)
これはD30のCMOS撮像素子だけではなく,デジタルカメラすべてにいえる欠点。フィルムで言えば,富士写真フイルムのISO50ポジ「ベルビア」のラチチュード(記録できる明暗の範囲)をさらに狭くした感じである。何EVぐらいなのだろう?
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ドレスデンにあるショッピングセンターで看板を撮影。D30はRGBデータ生成時の色の濃さ,シャープさ,コントラストをカスタマイズできるが,色を濃く,コントラストを高く設定したら,こんな感じになってしまった。日陰なのに,日陰じゃないみたい。色乗りが尋常じゃないのだ。元々,EFレンズはニッコールよりも色乗りがいいと言われるが,そういったレベルの話ではない。
実は,昨日は天気が悪く,薄く靄がかかっていたため,下の写真のような写りだった。そこで,派手モードを選んだのだが……“この中間があればなぁ”という感想を持ったのは,僕だけじゃないと思う。しかし元々フィルムに写る色なんて,どれもウソなんだと思えば悪くないとも思う。ポジフィルムでの撮影が多かった僕は,この派手派手モードで撮影することに決めた。
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ドレスデンの中心街は復刻させた古の建造物が観光客を楽しませてくれる。建物に使われている砂岩のうち,黒く焦げているものは爆撃を受けた痕。瓦礫を組み合わせ,足りない部分を足して(白い部分)復刻させてある。中でも特徴的な建物は北側に広場があり,ラチチュードが狭いデジタルカメラで撮影させると,影と空を両方とも情報として残すのが大変だ。
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枚数を気にせずバシバシと撮影できるのがデジカメの良さだから,0.6EVずつ,ずらした自動ブラケット撮影を連写しまくった。とはいえ,ラチチュード以上に広い明暗差を撮影できるわけじゃない。
もっとも,そんな意地悪な状況じゃなければ,D30は素人カメラマンにも美しい写真を与えてくれる。下の5枚(omakase1〜5.jpg)はブラケットも使わず,プログラムモードでカメラお任せ撮影。団体行動でゆっくり撮影できないときに,パシパシと適当にシャッターを押すだけでこれだけ撮れる。
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また,ここでも増感特性の良さに感心。ISO400は完全に実用モード。ノイズ感はほとんどない。
中心街から離れ,バスで約1時間40分。到着したのはバステイ国定公園。ガイドが「バスを降りてバステイに向かいます」と言ったので,思わず吹き出しそうになってしまったが実名である。切り立った岩で構成される渓谷を,細い桟道で巡ることができるバステイの雄大さは,とても38ミリ画角では伝えきれない。というよりも,緯度の高さからか到着した時にはすっかり夕方。
日陰なことも手伝ってシャッター速度は遅くなる一方。ISO100から400へ,そして800へと感度を上げていったが,なんとISO800でもなかなかイケルではないか。上の2枚がISO400モード,3枚目がISO800モード。
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三脚を立てる暇もないとき,ISO1600で撮影した建物。すっかり陽は落ちて,あたりは真っ暗。普通のデジカメじゃ,とても撮影できそうじゃないが,ISO1600にしてシャッターを押してみた。1/4秒だから手ぶれはしているが写らないよりはマシ。
さすがにノイジーだが,下の手ぶれがないISO1600の写真を印刷してみたら,L版ぐらいじゃそれほどノイズは目立たない。ものは試しとキャビネにしてみると,これも目くじら立てるほどじゃないのだ。
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僕が,ニコン「D1」の購入を見送ったのは,元々キヤノンのEFレンズユーザーだったからだ。レンズの値段やカメラ操作への慣れを考えると,D1にはアマチュアが宗旨変えするほどの魅力はなかった,と判断したわけだ(プロカメラマンなら話は違っただろう。実際,D1発売後にEFレンズを売りに出すカメラマンが続出して中古相場が下がった)。
D1の不満点というのはカメラとしてのメカや光学性能は最高なのだが,デジタル部分に関して疑問があったこと。ハッキリ言って,D1のメカや光学性能は僕にはオーバースペックなのだ。
逆にD30のメカは物足りない。「EOS IX-E」用コンポーネントを利用しているため,フォーカスフレームのスーパーインポーズ(ピントの合ったところがピカッと光るアレ)もないし,そもそも3点測距AFというのも時代遅れ。いまや「EOS Kiss」だって7点測距だ。基調講演撮影に欠かせないスポット測光もない。
しかし,それもこれも,今使っている銀塩フィルム一眼レフと比べての話。コンパクトデジタルカメラとは世界が違う。レスポンスよく落ちるシャッター,小気味いい連写,高いレンズの描写力。デジタルカメラだということを意識せずに,バシバシとシャッターが切れていく。
それに,D30のデジカメ部。これはかなりイイ。今回はテストしていないが,長時間露光時のノイズの少なさも特筆モノだ。さらに公開用にモデルを使っていないので省いたポートレート撮影も,肌の質感を含めていい感じに仕上がる。バッテリー1本でマイクロドライブに600枚以上撮影できるのもイイ感じ。
おかげで旅行に行ったときは毎回20本以上消費していた36枚撮りポジフィルムとその現像代は,今後払わなくても良さそうだ。D30を購入して以来,我が家の冷蔵庫からフィルムが減ることはなくなってしまった。その代わりに,撮影した写真を記録したCD-Rが少しずつ増えている。
コンパクトデジカメにストレスを感じているアマチュアカメラマンは,D30に投資する価値があると思う。デジタルカメラになってストレスは増えない。むしろ,シャッターを切る回数が増えることで,気持ちよく撮影をこなすことができるはずだ。
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