News 2000年12月8日 09:54 PM 更新

日本のパソコン史は誰が残す?

 東京ニュース通信社から「テレビ50年 in TVガイド」というムックが発売された。今回は「TVガイド」の創刊2000号記念出版なのだそうだ。

 「今回は」というのは,ぼくの書棚の隅っこに同じ出版社から1982年に発売された「テレビ30年 in TVガイド」という,ほぼ同じ装丁のムックがあるからだ。両誌を並べみると「TVガイド」のロゴマークも,多少太ったりしているんだなということに気が付いたりしておもしろい。実は,1991年にも「テレビ40年」というムックが出ているそうだが,残念ながら買い損ねた。

 ところで,1982年に30年で,1991年に40年,2000年に50年というのは,計算が合わない。正確には,日本のテレビ史は,1953年の2月1日14時,NHK東京テレビジョンの放送から始まった(とまあ,こういうちょっとした文章を書くときに,こうした資料本は欠かせないというのが舞台裏だ)。つまり,今回のムックにある50年は,ちょっとフライングのタイトルというわけだ。

 30年版はモノクロ339ページ,50年版はフルカラー514ページだ。資料的には,30年版にあった1953年から1981年までの毎年10月の在京各局のテレビ番組表が,50年版では割愛されている。また,各ページに掲載されている原稿などは,30年版のものが50年版にもかなり流用されていたりはするが,こうした記録本の出版は大きな意義があると思う。

 下世話な話だが,20年前当時,電算写植で本を作っていたとは思えないので,現在の書籍作りのために,紙から文字を拾うという作業が発生したに違いない。でも,どこかのタイミングで,その作業をやっておけば,あとがラクになる。でも,出版後に見つかった誤字や事実の間違いを,紙ではなく,正確に電子データ側に反映しないと,次の発行で修正漏れが出てきたりする。本当にご苦労な仕事ではあるが,関係者の方は,未来永劫,このプロジェクトを引き継いでいただければと思う。

IT史は誰が残す?

 メディアの進化のテンポが早くなっている今の時期,テレビ史の本なら,10年といわず,5年ごとくらいに出ていてもよさそうだが,区切りとしては,このくらいがちょうどいいのかもしれない。ちなみに30年版の本体価格は3500円だったが,50年版の本体価格は5714円と,20年の時を経たにしてはびっくりするほど高価ではない。出版物価格がそれほど大きく変動していないということも分かるが,どっちかというと,20年前に3500円も出してこのような本を買い,何度の引っ越しもクリアし,後生大事に書棚に置いておいた自分に,ちょっと感心してしまう。

 テレビの場合は,こうして,いつ,何が起こったかを克明に記録している誰かがいて,何十年前のことも,かなり手に取るように分かる。

 かたや,IT業界はどうだろう。たとえば,パソコン関連,特に,日本でNECの「PC-9800シリーズ」が事実上の標準であった時代については,ぼくにとって,富田倫夫氏の「パソコン創世記」(TBSブリタニカ)がバイブルだ。ぼくは,ある事柄について正確な年代などを知りたいときに,書棚からこの本を取り出すのだが,気が付くと,つい,本文を夢中になって読んでいる。残念ながら,この本は,既に絶版で,紙の本を入手することはできないが,幸いなことにインターネットの電子図書館「青空文庫」で公開され,テキストファイル,HTML,エクスパンドブック版を無償で入手することができる。

 でも,この本がフォローしているのは1993年5月17日までだ。つまり,マイクロソフトが「Windows 3.1」の日本語版を出荷したところで終わっている。ぼくも,この日,新高輪プリンスホテルに赴き,約2000人を集めて開催された発表会を取材した。富田氏の著書の言葉をそのまま引用するが「x86とWindowsを使った車,是非慎重にお選びになられて,安全運転されることをお願いいたします」という西和彦氏の言葉はあまりにも有名だ。……なんて事実は,誰かが残しておかないと,やっぱり残らないのだ。

 そして今,それ以降のことを知るための座右の銘はないけれども,インターネットを探せば,大抵のことは分かる。心配なのは,それらがいつか消えてしまうかもしれないということだ。まずは,IT業界のメーカーの方にお願いしたい。過去に発売した製品の型番,カタログ,そして,その出荷開始年月日程度のことは,Webサイトで社史として調べられるようにしておいていただきたい。

 さすがに日本アイ・ビー・エムはこのあたりをきちんとしているが,それでも閲覧できるプレスリリースは1988年7月以降だ。

 また,NECは1994年9月以降,マイクロソフトK.K.は1997年1月以降のニュースリリースを参照できる。インテルK.K.は1995年以降,米Microsoftの社史は,簡単なものだが,ここで見ることができるし,1996年1月以降のプレスリリースも公開されている。

 欲をいえば,もっと以前の情報も欲しい。誰もが,誰かがそれをまとめるだろうと思っている。誰かがやらなければこの秒進分歩ドッグイヤーのIT業界の歩みは歴史に残らない。もちろん,ぼくがやれればいいのだけれど,問題は,誰が買ってくれるかだ(笑)。

関連リンク
▼ 東京ニュース通信社
▼ 青空文庫

[山田祥平, ITmedia]

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