News 2001年3月27日 10:43 PM 更新

Tablet PCの足を引っ張るペンコンピュータの屍たち

Gates氏がWinHECで披露した「Tablet PC」。技術の進歩という追い風を受け,前途洋々と胸を張るMicrosoftだが,周囲の目はシビアだ。

 米カリフォルニア州アナハイムで開催中の「WinHEC」で,米MicrosoftのBill Gates氏は,昨年のCOMDEX/Fallで披露した「Tablet PC」の大々的なお披露目をした(2000年11月13日の記事を参照)。同氏は今後,PCベースのモバイルデバイスが大きく進化すると予測しており,その一分野としてTablet PCに大きな期待をかけている。


WinHECで披露されたTablet PCのプロトタイプ

 Gates氏は,基調講演の中で,Tablet PC開発のパートナー企業を紹介した。プロセッサベンダーとしてIntelのほか,小型デバイスにフォーカスしたプロセッサベンダーである米Transmetaも輪に加わっている。本体の開発ベンダーとしては,Compaq,Acer,富士通,東芝,ソニーが名を連ねる。

 Tablet PCのプロトタイプは,PCカードスロット,USB,IEEE1394a,マイク,ビデオ出力,オーディオ出力などを備え,10.4インチのXGAディスプレイとTransmetaのCrusoe TM5600,2.5インチハードディスク,リチウムイオンバッテリーを0.9インチのきょう体に収めている。

 紙の良さとPCの良さをうまく融合させたTablet PCのソフトウェアは,Windows XPベースにペンコンピューティング向けの機能を加えたもの。手書き文字とテキスト文字,それにグラフィックの融合,ペンによる操作のシンプルさなどは,実際のデモを見なければなかなかその内容は伝わりにくいが,かなり魅力的に映るプラットフォームではある。たとえば,手書きのテクスチャを選択し,コピーしてメモ帳にペーストするとテキストとしてペーストされるのだ。認識率もかなり良さそうな印象を持った。

 しかしながら,ペンコンピューティングという分野が,果たしてどれほど有望なのかは,誰にも分からない。Microsoftは,ラップトップコンピュータの次の革命となるのがTablet PCであると話す。しかし,Goの例を出すまでもなく,ペンWindowsをはじめ,この分野で成功するまでの道のりには多くの屍が横たわっている。

 ペンコンピュータは,これまで何度も挑戦者が現れながら,そのたびに敗れ去っていった市場である。Tablet PCに対して懐疑的な見方があるのはしかたがない。Tablet PCを見ると,そのスマートな操作性にはいつも感心するが,一方で「まさか成功するはずがない」という先入観が頭を横切る。

市場はあるのか?

 この気持ちは誰も同じようだ。当然,プレスミーティングではTablet PCに対するMicrosoftの自信の根拠について質問が飛ぶ。彼らの回答は「すべてのWindowsのアプリケーションと,Tablet PC用の新しいアプリケーションを,キーボードなしで利用できる」というのが定番だ。ミーティングのとき,デジタルの資料を読むとき,ワイヤレス通信を行うとき,確かにTablet PCのフォームファクタは使いやすいのかもしれない。

 また,かつてとは異なり,十分に低消費電力かつハイパフォーマンスなプロセッサ,優れたバッテリ技術,低消費電力で高解像な液晶パネル,手書き認識技術の向上,ワイヤレス通信,クリアタイプなど,成功するためのさまざまな要素がそろってきていることを,Microsoftは理由として挙げている。確かにすらすらとTablet PC上に落書きをしてみると,そのレスポンスの良さに驚く。毎秒100以上の位置サンプル検出で,非常になめらかな線を描くことが可能だ。

 それでも疑う? そう。筆者自身も,このデバイスを自信を持って紹介することはできない。リリースの目標時期は2002年前半というから,まだ改良の余地はたっぷりある。しかし,それでも満足なものになるかどうかは全く分からない。その上,2002年中には日本語版の発売にこぎ着けたいとしているものの,まだ英語版以外のデモが行われたことはない。

 Tablet PCの成否は,価格と機能,それにデスクトップPCと同等のパフォーマンスを実現できるかどうかに関わってくるだろう。そうした意味では,来年の段階で大成功を収めるのは難しいのではないか。

 たとえば企業向けクライアントとして考えたとき,デスクトップでクレイドルにTablet PCを置けば,そのままキーボードとCRTで使えること。このとき,十分なパフォーマンスを発揮できなければならない。つまり,企業向けクライアントPCとして使い物になるものでなければならないと思う。2台のPCを場面に応じて使い分けるというやり方は,あまり一般受けするとは思えないからだ。

 その上で,クレイドルから取り外して必要な場面でペンによる機能を使えれば,申し分のない製品だと思う。しかし,現実はもっと厳しいのではないだろうか。このとき,より多くのコストがかかるようならば,敬遠する人も多いだろう。

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[本田雅一, ITmedia]

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