News 2001年5月31日 09:44 PM 更新

“短編映画でネット広告”なら見てみますか?

ブロードバンド向けのネット広告は,“ショートフィルム”が本命か?

 ブロードバンド時代に向け,広告関係者がブレイクを期待するリッチメディア広告。アニメーションやムービーなどで工夫を凝らした広告は,クライアント企業にとってインターネットユーザーを惹き付けるチャンスとなり,メディアレップにとっては,悲観的になっているネット広告市場の活性化を図る切り札になるかもしれない。そのリッチメディア広告を,媒体サイトという立場から普及させようとしているのが,アトムショックウェーブだ。

 アトムショックウェーブは,米AtomFilmsと米Shockwave.comが合併してできた「AtomSockwave」の日本法人。Shockwave.comは米Macromediaの子会社で,ShockwaveやFlashを利用したリッチコンテンツをWeb上で提供している。Atom Filmsは,社名からも分かるように映画制作会社で,特に,ショートフィルムを得意とする。

 この両社の合併によって,「ショートフィルム広告」が登場した。ショートフィルム広告は,正式には「サイト・イン・サイト」と呼ばれるAtomShockwaveの商品。Shockwaveムービーを利用した短編映画風の広告なのだが,テレビCMのように広告商品が大々的に露出するわけではない。あくまでメインは映画のストーリーであって,広告商品は本編にアクセントを加えるスパイス的な存在にすぎない。当然,制作費はクライアント企業の負担だ。

 ショートフィルム広告は,2カ月前に導入されたばかりの新サービスだが,現在,AtomShockwaveのサイトには「focus in film」という広告が掲載されている。これは,米Fordのコンパクトカー「focus」を題材にした広告映画で,若手映画監督たちが手がけた4作品を見ることができる。


Shockwaveムービーの「The Kiss」。ビットレートは,28Kbps〜300Kbpsだ
 例えば,「The Kiss」(監督:Joe Russo&Anthony Russo,7分53秒)という作品は,男女の偶然の出会いを描いたものだが,focusが登場するのはごくわずか。広告だと聞かなければ,全く気付かないほどだ。さらに,男性がfocusに乗り込んで発進しようとするとエンストを繰り返し,なかなか前に進めないなど,普通のクライアントなら激怒しそうな場面もある。

 それでも,「米国では,このショートフィルム広告は大きな話題になっている」(アトムショックウェーブ副社長の瀬戸浩次郎氏)という。「米国では,テレビCMなど既存の広告についてその効果に懐疑的になっているようだ。テレビCMのスポット枠を押さえるのに多額の資金を使うなら,より少ないお金で面白いことをしてみようという動きがある。また,focus in filmでは明らかにfocusがスピード違反でカッ飛ばすシーンもあるが,Fordは全く何も言わない」(同氏)。むしろ,映画自体のクオリティが高ければ,商品のイメージアップにつながるという考えのようだ。

 ショートフィルムの制作費は,1本あたり600万〜1000万円。これに広告掲載費用が加わることになるが,瀬戸氏によれば「コンテンツを2次利用,3次利用すれば投資を回収することも可能だ」という。具体的な再利用方法としては,Shockwaveムービーのショートフィルムを劇場で公開することなどが計画されている。またアトムショックウェーブでは,ショートフィルム広告を日本でも展開するために広告代理店などに話を持ちかけているという。「focus in filmを広告関係者に紹介すると,これが広告として成り立っていることに驚く。だが,関心度は非常に高い」(瀬戸氏)

バナーをFlashで“再生”

 さらにアトムショックウェーブでは,Flashを利用したバナー広告の啓蒙に努めている。現在でも,Flashアニメーションによるバナー広告を時折り見かけるが,アトムショックウェーブでは「基本的にバナー広告だけで完結する」(瀬戸氏)仕組みを考えているという。例えば,メールマガジン創刊の広告では,その企業のWebサイトに飛ばずに,バナー広告上でメールの申し込みまで行える。また,楽器のバナーでは,Flashの音楽再生機能を使って録音データを再生したり,クーポン券発行の広告ではプリントボタンでそのまま印刷することが可能だ。

 バナー広告はクリックスルー率の低下が指摘されているが,「それは目的のページから敢えてほかのページにいきたがる人はあまりいないから。バナー広告だけで目的が達成できるなら,その価値は見直されるだろう」(瀬戸氏)。なお,アトムショックウェーブでは,同社のエンターテインメントサイト「jp.atomsohckwave.com」において,6月1日よりFlashムービー用の広告スペースを販売する予定だ。


ゴルフメーカーのリッチバナー広告の例。Flashを利用したゲーム形式になっている(クリックで再生)

 ただ,フラッシュのアニメーションが派手に動いている広告はユーザーに敬遠される場合もある。現在でも,無限ループのGIFアニメーションを使ったバナー/ボタン広告がサイトの雰囲気を壊していることも少なくない。機能的なFlashのバナー広告だが,企画・制作の段階でその辺りに気を付けなければ,逆効果になってしまうだろう。

 「例えば,インターネットプロモーション用に300万円の予算があったとして,280万円を掲載費にあて,残りの20万円で適当にバナーを作るというのが現状だ。Flashアニメーションの場合,制作費がGIFアニメの場合よりも高くなるが,効果を比べたら値段以上のものはあるはずだ。そして,Flash広告が普及してマクロメディアの製品が売れればいうことはないのだが」(瀬戸氏)

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[中村琢磨, ITmedia]

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